イザベラ達が実地訓練を行ってから三か月後。
彼女達は、二年生として秋を迎えていた。
この季節になると、王都では秋祭りが行われる。
イザベラも、昨年度はエドワード王子、オスカー、カインと共に参加した。
それぞれから露店で食べ物を奢ってもらった後、チンピラにナンパされていたところをカインに助けられた。
さらにはオスカーとダンスを踊り、エドワード王子とは最後の花火を共に見た。
バッドエンドを気にしているイザベラは心から楽しんだとは言えないものの、世の女性なら誰もが羨むような体験をしたのだ。
だがしかし、その影では一人の少女が涙していた。
(はあ……。イザベラ様ぁ……)
彼女は、『ドララ』のヒロインことアリシア・ウォーカーである。
アリシアは、男爵家の令嬢である。
ただし、男爵家当主と使用人との間に生まれた子であり、十歳頃までは平民として育てられた。
ある日、彼女に希少な光魔法の適性があることが発覚。
正式に男爵家の子として認められた上、王国一の名門である王立学園に入学することになる。
(ママのために入学したのはよかったけれど……。貴族様達があんなに怖いとは思っていなかったなぁ……)
アリシアが王立学園に入学して好成績を収めれば、彼女の将来は安泰となり、母親にも楽をさせることができる。
彼女はそう思って入学を決意した。
しかしクラスメイト達は、皆生まれながらの貴族ばかり。
入学直後のアリシアは、貴族達との価値観の違いにすっかり打ちのめされていた。
嫌味や意地悪などはまだ序の口。
時には軽い暴力を振るわれることもあった。
もう辞めてしまおうかと何度も思った。
そんな時に現れたのがイザベラである。
(あの時のイザベラ様、本当に素敵だったなぁ……)
イザベラは、アリシアとは正反対の存在だった。
侯爵家正妻の子という確かな血筋。
貴族の常識に精通し、マナーもダンスも完璧。
おまけに魔法も使える。
成績優秀で、先生にも気に入られている。
まさに、絵に描いたような貴族令嬢なのであった。
(わたしを助けてくれて、それにいろいろ教えてくれて……)
イザベラと接する内に、アリシアは彼女に憧れを抱いた。
憧れのイザベラともっと仲良くなりたい。
そのためにはどうすればいいのか。
アリシアは考えた。
(去年は思い切って秋祭りにお誘いしたのに、後から来たあいつらに取られちゃったし……。今年は絶対にわたしと回ってもらうんだから!)
彼女は一人、そう決意したのだった。
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