イザベラは馬車で女子寮から講堂まで移動する。
距離はそれほど離れていないので、貴族とはいえ徒歩で移動する者がほとんどだ。
イザベラも、かつては当たり前のように徒歩で移動していた。
しかし、一ヶ月ほど前から馬車を利用するようになった。
侯爵家令嬢のイザベラならば、それが許されるだけの家格と財力がある。
表向きは、誰も文句は言わない。
「おおっ! イザベラ! 今日も美しいぞ」
「ありがとうございます、エドワード殿下」
馬車から降りたイザベラを見て、エドワード王子が駆け寄ってきた。
満面の笑顔で挨拶をする王子に対して、イザベラは恭しく頭を下げる。
以前の彼女であれば、俺様系のイケメンである彼の美貌に見惚れつつも、バッドエンドの回避に向けて過度な接触を避けようとしていただろう。
だが、今のイザベラは違う。
「昨日は会えなかったから寂しかったよ。今日は一緒に昼食を食べよう」
「はい、喜んで」
「それから、放課後にデートしよう。二人で、庭園を散歩するんだ」
「楽しみです」
「夜は俺の部屋に来てくれ。君のために、最高のワインを用意しておくよ」
「かしこまりました」
エドワード王子の誘いを全て受けてしまう。
彼は次期国王。
これ以上無いほどの家格である。
顔は文句無しのイケメン。
座学は学年トップ。
体格もそれなりに恵まれており、剣術は学年次席だ。
王子としてやや傲慢なところはあるが、致命的なほどではない。
むしろ、目下の者にも比較的優しいので、多くの者から慕われている。
完璧超人だ。
こんな男に言い寄られて堕ちない女がいるだろうか?
いや、いない。
今までのイザベラがおかしかったのだ。
イザベラは、王子の言葉を当然のごとく受け入れた。
「愛しているよ、イザベラ」
「私もです、エドワード殿下」
多くの学園生徒の前で堂々と愛を告げられ、イザベラは頬を赤らめた。
そして、恥じらいながらも返事をした。
周囲から歓声が上がる。
二人は熱い抱擁を交わした。
傍目から見れば、ただバカップルが朝っぱらから抱き合っているだけである。
だが、なにせ二人共が絶世の美女と美男子だ。
それはまるで演劇の一幕のようで、感動の涙を流しそうな光景ですらあった。
「「「「…………」」」」
だが、そんな二人を遠くから無感情に眺めている者達もいたのであった。
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