アリシアさんとフレッドが対峙している。
二人とも、黒いモヤのようなものを纏って暴走状態だ。
頼みの綱のエドワード殿下、カイン、オスカーは、倒れ伏している。
フレッドから闇の瘴気による攻撃を受けてしまったのだ。
戦線復帰は難しそうだ。
もし復帰できても、今度は彼らが暴走を始めるかもしれない。
八方塞がりとは、まさにこのことである。
「汚らしい男が、イザベラ様に近づかないでいただけますか?」
「ふん。卑しい平民混じりこそ、イザベラさんに触れるな」
アリシアさんとフレッドが睨み合う。
二人がこんなに汚い言葉を使うなんて。
私とフレッドは姉弟で、私とアリシアさんは親友だ。
普段の学園生活でも、それぞれとよく行動を共にしていた。
すると自然に、アリシアさんとフレッドも共に行動する時間が多くあった。
それなりに仲を深めていると思っていたのに……。
「フレッドさん。あなたは、イザベラ様の弟でしょう?」
「……それが何か?」
「弟の癖に姉を好きになるなんて、異常です」
「なっ!?」
「そう言えば、朝方にイザベラ様の部屋に入ってきたことがありましたね。あわよくば着替えシーンに遭遇できるとでも思われたのでしょうか? 気持ち悪い男です」
アリシアさんがフレッドを責め立てる。
かなり強い言葉だ。
うーん。
確かに、フレッドにはそういうところがあったかもしれないなぁ……。
王立学園に来る前、アディントン侯爵家で一緒に暮らしていたときにも似たようなことがあった気がする。
朝の着替えとか、湯浴みのときとか……。
さほど気にはしていなかったけれど、今思えば少し怪しい関係だったかもね。
「……黙れよ」
「え?」
「お前に何が分かるんだ!! 僕はずっと我慢してきた! お前みたいな、何も知らない女なんかに何が分かる!!」
フレッドが怒りの声を上げる。
ずっと我慢してきたのか……。
少し悪いことをしてしまっていたかもしれない。
『ドララ』において、フレッドは攻略対象である。
でもそれはあくまで、主人公のアリシアさんから見た攻略対象だ。
悪役令嬢である私は、フレッドを見てイケメンだとは思っても、恋愛対象としては見ないようにしていた。
義弟だし。
「そう言うお前こそ異常だろう! イザベラさんと同じ女性ではないか! 同性同士の愛など、成立するはずがないだろう!!」
今度はフレッドの反撃だ。
確かに、私とアリシアさんは同性である。
普通なら、愛なんて成立しないよねぇ。
現代の地球ではLBGT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)という性的指向が認知されつつある。
そんな世界で作られた『ドララ』というゲームだが、そういった嗜好を前面には出していない。
この世界では、同性同士の愛は理解を得にくいのだ。
アリシアさんとフレッドの罵り合いが激化していきそうだ。
何とかタイミングを見て止めないと――
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