カインの命の灯火が消えかかっている。
その姿を見て、私はようやく決断をする。
「私の奥の手――特殊な回復魔法を使います。これで、カインを救うことができるはずですわ」
「特殊な回復魔法? イザベラ、貴様何を……?」
「イザベラ殿のことです。きっと、私達には想像もつかないような秘策をお持ちなのでしょう。さあ、早くお願いします」
エドワード王子が怪しげに問う。
それに続いて、オスカーも期待に満ちた声で促す。
「では――」
私の全身を巡る魔力。
それを、まずは上半身に集中させる。
続いて首から上に。
そして、口へと移動させていく。
これは私の切り札の一つだ。
普段は使えないし、使うつもりもなかったけれど。
今回は仕方ない。
このままだと、カインは死んでしまうから。
「【ファースト・キッス・ヒール】」
私はカインの口に自分の口を近づけ、優しく触れ合うように重ねる。
「「な、何ぃいいっ!?」」
エドワード王子とオスカーは、目を見開いて驚愕する。
無理もない。
こんな魔法、見たことも聞いたこともないだろう。
そもそも、回復魔法を使う魔法使い自体珍しいしね。
ましてや、キスをして発動する魔法なんて……。
カインは目を見開きながらも、抵抗することなく静かに受け入れてくれた。
しばらくすると、ゆっくりと傷が塞がっていく。
「い、イザベラ嬢……。これは一体……」
無事に回復したカインが、そう問う。
「新しい回復魔法よ。粘膜同士から魔力を伝達することで、通常よりも効率的に治療ができるの」
「な、なるほど……?」
「しかも、今のは私のファーストキスなの! 乙女の初めてのキスを捧げるという条件付きで、さらなる治療効果の向上が期待できるってわけなのよ」
「イザベラ嬢のファーストキス!? そ、そんな貴重なものを俺に!? 良かったのか!?」
「もちろんよ。だって、私はカインのことをとても大切に思っているもの。命をかけて守ってくれたあなたを死なすことなんてできない。だから、この魔法を使ったの。まあ、私が勝手にやったことだから、気にしないで」
私は、あまり意識していないように振る舞って、そう言う。
だって、意識しちゃったら顔が赤くなって恥ずかしいし……。
「気にするなって言ってもよ……。侯爵家のイザベラ嬢のファーストキスともなれば、とてつもなく大きな意味が……」
「だから、気にしないでってば!」
カインの言う通り、貴族家令嬢の私がキスをしたともなれば、その意味は大きい。
結婚前の淑女にとって、初めての接吻はとても大切なものだから。
この話が広まれば、私に縁談の話が来る可能性はかなり低くなるだろう。
バッドエンドの回避にも、悪影響があるかもしれない。
なるべく事を大きくしないでほしいのだけれど……。
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