乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
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115話 ファースト・キッス・ヒール

公開日時: 2022年9月8日(木) 09:27
文字数:1,105

 カインの命の灯火が消えかかっている。

 その姿を見て、私はようやく決断をする。


「私の奥の手――特殊な回復魔法を使います。これで、カインを救うことができるはずですわ」


「特殊な回復魔法? イザベラ、貴様何を……?」


「イザベラ殿のことです。きっと、私達には想像もつかないような秘策をお持ちなのでしょう。さあ、早くお願いします」


 エドワード王子が怪しげに問う。

 それに続いて、オスカーも期待に満ちた声で促す。


「では――」


 私の全身を巡る魔力。

 それを、まずは上半身に集中させる。

 続いて首から上に。

 そして、口へと移動させていく。

 これは私の切り札の一つだ。

 普段は使えないし、使うつもりもなかったけれど。

 今回は仕方ない。

 このままだと、カインは死んでしまうから。


「【ファースト・キッス・ヒール】」


 私はカインの口に自分の口を近づけ、優しく触れ合うように重ねる。


「「な、何ぃいいっ!?」」


 エドワード王子とオスカーは、目を見開いて驚愕する。

 無理もない。

 こんな魔法、見たことも聞いたこともないだろう。

 そもそも、回復魔法を使う魔法使い自体珍しいしね。

 ましてや、キスをして発動する魔法なんて……。

 カインは目を見開きながらも、抵抗することなく静かに受け入れてくれた。

 しばらくすると、ゆっくりと傷が塞がっていく。


「い、イザベラ嬢……。これは一体……」


 無事に回復したカインが、そう問う。


「新しい回復魔法よ。粘膜同士から魔力を伝達することで、通常よりも効率的に治療ができるの」


「な、なるほど……?」


「しかも、今のは私のファーストキスなの! 乙女の初めてのキスを捧げるという条件付きで、さらなる治療効果の向上が期待できるってわけなのよ」


「イザベラ嬢のファーストキス!? そ、そんな貴重なものを俺に!? 良かったのか!?」


「もちろんよ。だって、私はカインのことをとても大切に思っているもの。命をかけて守ってくれたあなたを死なすことなんてできない。だから、この魔法を使ったの。まあ、私が勝手にやったことだから、気にしないで」


 私は、あまり意識していないように振る舞って、そう言う。

 だって、意識しちゃったら顔が赤くなって恥ずかしいし……。


「気にするなって言ってもよ……。侯爵家のイザベラ嬢のファーストキスともなれば、とてつもなく大きな意味が……」


「だから、気にしないでってば!」


 カインの言う通り、貴族家令嬢の私がキスをしたともなれば、その意味は大きい。

 結婚前の淑女にとって、初めての接吻はとても大切なものだから。

 この話が広まれば、私に縁談の話が来る可能性はかなり低くなるだろう。

 バッドエンドの回避にも、悪影響があるかもしれない。

 なるべく事を大きくしないでほしいのだけれど……。

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