「へへっ。負けたっていうのに、人気は相変わらずだなぁ? エド」
カインが軽薄そうに笑う。
「ふん、お前だって似たようなものだろう? カイン」
エドワードは、不機嫌さを隠さずに答えた。
「いやぁ、お前ほどじゃねえよ。俺はお前と違って、紳士的な振る舞いで女の子を楽しませるタイプだしなぁ?」
「どの口が言うのだ。この遊び人め……」
「ははっ。確かに、俺には遊んでいるように見えるかもしれねぇけどさ。でも、ちゃんと選んでるんだぜ? 本気で惚れられるのは困るからな。それに、俺の本命はイザベラ嬢だけだ。他の女にうつつを抜かす暇なんてありゃあしねぇよ」
「身の程を知るがいい。イザベラは俺の婚約者だぞ? 俺以外に目が向くことなどありえない。ましてや、お前のような男になど……」
「はっ、言ってくれるじゃあないか。だが、突然決まった婚約なんぞ、いつ吹き飛んでもおかしくないぜ?」
カインがそう指摘する。
イザベラの婚約相手は、彼女が幼少期の頃から注目されていた話題だ。
彼女本人の意向に加え、彼女の父であるアディントン侯爵がのらりくらりと言い逃れ続けていたこともあって、なかなか決まらなかった。
イザベラは何らかの異常性癖者なのではないかとさえ囁かれていたが、つい先日、正式にエドワード王子との婚約が発表された。
その衝撃は凄まじかった。
一目で人を惹き付ける絶世の美貌に、類まれな魔法の才能。
座学、ダンス、マナーなども一級品。
しかも、魔乏病の特効薬を幼少期に開発したという実績までも持っている。
そんな千年に一人とも言われる才女が、次期国王であるエドワード王子と婚約したのだ。
国民の誰もが、イース王国の未来は安泰だと喜んだ。
「それは有り得ない。イザベラは俺のことを好いている」
「どうだかなぁ。俺がイザベラ嬢の立場なら、絶対に自分より強い男を選ぶね。少なくとも、お前みたいな軟弱野郎よりも遥かにマシだ」
「なんだと……!?」
「イザベラ嬢は、お前よりも俺のほうが相応しいって思っているんじゃあないのか? なにせ、剣の腕なら俺が一番だからなァ!」
カインがそう叫ぶ。
彼は第三学年の剣術主席だ。
それだけでなく、最高学年である第六学年まで含めても、最強ではないかと評されている。
そんな彼の言葉に、エドワード王子の顔色が変わった。
彼は激昂して叫ぶ。
「ふざけるな! イザベラは俺を選んだのだ!!」
「イザベラ嬢は賢い方だ。王子と結婚するのが最善だって分かってんだよ。それを理解しているからこそ、こうして大人しく従っているのさ。だけどよ、男と女ってのは、そんな理性だけで割り切れるような単純な生き物じゃあないぜ? イザベラ嬢の心は、もうお前から離れちまってるかもなぁ?」
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