乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
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198話 イザベラ嬢-1【カイン視点】

公開日時: 2023年5月29日(月) 11:13
文字数:539

 俺の名前はカイン・レッドバースだ。

 いや、正確に言えば、生まれてから十一歳になるまではただのカインだった。

 俺は実の両親の顔を知らない。

 物心ついた時には、とあるスラム街で浮浪児をやっていた。

 ただ、親がいないというだけで、別に生活に困ることはなかった。

 盗みや恐喝など、生きるために必要なことは自分で学んできたし、それができるだけの頭や腕っぷしも持っていた。

 何より、この街はそういう奴らが大勢いる。

 弱者が強者に淘汰される世界なのだ。

 だが、ある時に転機が訪れた。

 それは、俺が十一歳になった頃だった。


「おっと! ごめんよ!!」


 俺は大通りで、身なりのいい少女にわざとぶつかった。

 貴族の娘だろうか?

 それならば、金を持っている可能性は高いと思ったのだ。


「いえ、こちらこそ……」


 彼女は、すぐに謝罪を口にする。

 貴族にしては珍しいことだと思った。

 大抵の貴族は、平民などに絶対に謝らない。

 ましてや、自分からぶつかってきた浮浪児になんて尚更だろう。

 彼女はお人好しな貴族のようだ。

 俺は彼女の謝罪を聞き流しつつ、その場を立ち去る。

 もちろん、手にはこっそりと抜き取った財布を持っている。


(おっ!? 狙い通り、結構入ってそうだぜ……)


 俺は内心ほくそ笑みつつ、路地裏へと入っていく。

 ここなら、人目につくこともないだろう。

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