僕の名前はフレッド・アディントン。
侯爵家の遠戚にあたる家に生まれた僕は、物心ついた頃には本家の跡取りとして育てられていた。
僕の実父が病で亡くなったこと、そして本家の正妻に男児が生まれなかったことを理由に、僕の母が再婚したからだ。
嫁ぎ先は、本家の当主であるアルフォンス・アディントン侯爵。
普通ならば複雑な家庭環境に悩んだかもしれないけれど、幸か不幸か僕は実父の顔をよく覚えていない。
僕が生まれた頃から病床にいて、そのまま快復することなく逝去してしまったからだ。
形式上の新しい父上がアルフォンス・アディントン侯爵になることに対して、特に思い悩むことはなかった。
ただ、僕の一つ上に姉がいると聞いていたので、どんな人なのだろうとは思っていたけれど……。
そんな僕が初めて彼女と会った時のことは今でも鮮明に覚えている。
ちょうど今ぐらいの時期のことだっただろうか?
春風に乗って舞い込んできた花吹雪の中に立つその姿はとても幻想的で、思わず見惚れてしまったのだ。
腰まで伸びた艶やかな髪と宝石のような美しい瞳を持つ少女の名前はイザベラ・アディントンと言った。
僕と同じくまだ子どものはずなのに、どこか大人びていて落ち着いた雰囲気のある人だった。
(きれいな人だなぁ……)
それが姉上に対する第一印象だったと思う。
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