私のベッドで寝ていた謎の少女の正体は、アリシアさんだった。
「じゃあ、どうしてわたしはここにいるんでしょうか? 全く身に覚えがないのですけれど……」
彼女がそう言って首を傾げる。
嘘を言っているような雰囲気は感じられない。
本当に何も知らないようだ。
しかし、そうなるとますます謎が深まるばかりである。
誰が何のために……?
考えられる可能性は三つぐらいだろうか。
一つは、単純にアリシアさんが寝ぼけて部屋を間違えただけで、そのことを忘れているパターン。
二つ目は、何者かが睡眠中のアリシアさんを拐い、ここへ連れ込んだというケース。
そして最後に、同じく何者かがアリシアさんを催眠状態にしてこの部屋に誘導したというもの。
(一つ目なら、特に気にする必要はないけれど……)
美少女がベッドに潜り込んでいたから何だというのか。
私に同性愛の趣味はないが、だからと言って過剰に嫌悪感を抱くほどでもない。
(でも、そんなに甘く考えてもいいものかしら……)
こういうところに、とんでもない爆弾が潜んでいることもあるかもしれない。
なにせ、私は『ドララ』の悪役令嬢イザベラなのだ。
油断はできない。
「アリシアさん。何はともあれ、まずは服を着ましょう。私の服を貸してあげるわ」
「はわわ。イザベラ様の服をわたしなんかが着てもよろしいのでしょうか?」
「別に構わないわよ。さすがに下着姿で外を出歩くわけにもいかないでしょ」
「そ、それもそうですね……。では、お言葉に甘えて借りますね」
私はクローゼットを開き、アリシアさんに似合いそうな服を見繕う。
その時だった。
「姉上! まだでしょうか!? 何やら大きな物音がしましたが!」
フレッドが部屋の外からそう叫んだ。
大きな物音というのは、私がアリシアさんを投げ飛ばした時の音だろう。
「心配は要らないわ! もう終わったから!」
「終わった? まさか、曲者が現れたのですか!? すぐに参ります!!」
「来なくていいってばー!! それに、今は下着姿で……」
「姉上が下着姿ですって!? それは是非見たいです!」
「フレッド?」
何だかとんでもないことを言われた気がする。
「……じゃなくて、僕達は姉弟じゃありませんか! 今さら下着姿を気にする間柄でもないでしょう! 小さい頃には、水浴びもしたじゃありませんか!」
「あれは子供の頃の話で……。そもそも、今下着姿なのは私じゃ……。あっ」
アリシアさんがビクビクしているのが見える。
彼女は男性が苦手なのだ。
私が男性陣と話していると、いつの間にかいなくなっていることが多い。
「何かあったのですか? まさか、賊がまだ部屋の中に!?」
「大丈夫よ! こっちの話! もうちょっと待ってなさい!!」
「もう待てません! 姉上は僕が守ります!!」
バーン!
勢いよく扉が開かれる。
そして、こちらを見て硬直するフレッド。
「…………はぁ?」
「…………ひゃうぅ……」
アリシアさんが顔を真っ赤にしてしゃがみ込む。
「ど、どうして下着姿の女の子がここにいるのです……?」
フレッドが信じられないものを見たかのような顔で呟く。
消え入りそうに縮こまっているアリシアさんに、私は慌てて自分の服を着せるのであった。
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