「へへっ! 食った食った!」
「ありがとうございます、イザベラさん!」
「すっごく美味しかったよ!」
「イザベラ姉ちゃん、良い奴だな!」
子供達は満足してくれたようだ。
私に礼を言ってくれた。
「そうでしょう。もっと感謝してもいいのよ?」
「「「「「ありがとうございました!!!」」」」」
「はい、よくできました」
私はにっこりと笑って返す。
「貴方も食べたのかしら? カイン」
私はカインに尋ねる。
すると、彼は少し照れ臭そうに言った。
「おう! こんなに食べたのは久しぶりだぜ!」
「それは良かったわ。それじゃあ、そろそろ次の段階に進もうと思うんだけど、いいかしら?」
私がそう言うと、カインは不思議そうな顔をした。
「次って何だよ? イザベラ嬢は、俺達に食べ物を恵んでくれたんだろ? まさか、この次は俺達を奴隷として売るつもりじゃあ……」
「違う違う。そんなことしないわよ。次っていうのは、これのことよ」
私はそう言って、収納魔法からポーションを取り出す。
「ポーション?」
「これを飲めば、病気や怪我が治るのよ。それも、すぐにね」
私は、一人一人の顔を見ながら説明する。
「俺は……どこも悪くねぇけど?」
「そういう問題じゃないのよ。飲んでみれば分かるわ」
「でもよ……。そのポーションは高いやつだろ? それ一つで、俺達何人分の食い物になると思ってんだよ?」
カインがそう指摘する。
ポーションの効果はピンキリだが、効力が控えめなものでも十分に高価である。
私やフレッドが良質なポーションをたくさん生産して卸しているので、近年はやや価格が低下傾向だが、それでもまだ庶民には手が届きにくい。
ましてや、スラム街で暮らしている子供達には無縁の代物だ。
「あら? お金なんて取らないわよ。これは、あなた達の未来への投資だからね」
「俺達の未来? どういうことだ?」
「まあまあ。とにかく、飲んでみなさいな」
「うぷっ!?」
私は、強引にカインにポーションを飲ませる。
「どう?」
「んぐっ……。なんだか体がポカポカしてきたような気がするけど……。それだけだぞ?」
「本当に? どこか痛かったりとかはないの?」
「別にねえけど?」
カインがそう言う。
「そう。ならよかった。きっと、それが正常な状態よ」
「正常?」
「ええ。今、あなたの体は健康体に戻ったということよ。慢性的な栄養不足に加えて、睡眠の質も悪かったのでしょう。魔力回路が詰まり気味のように見えたわ」
「魔力回路? なんのことだ?」
「簡単に言えば、魔法を使うためのエネルギーの通り道よ。普通は、食事と休息を取ることで整えられるのだけれど、貴方達はろくに食事をしていなかったみたいだし、ベッドもない場所で睡眠の質が悪かったようね」
私はカインの目を見つめながら話を続ける。
「本来なら、少しずつ時間をかけて改善していくものなのだけど、私はポーション作りが得意なの。だから、貴方の体に溜まった悪いものを一瞬で取り除くことができたのよ」
「そんなことができるのか? あんた、一体何者なんだ?」
カインは、驚いた様子で尋ねてきた。
「だから言ったじゃない。アディントン侯爵家の娘よ」
「貴族の娘だからって、こんなことができるのはおかしいだろ。血筋のおかげで魔法を楽に使えて、優雅にダンスしたり本を読んだり……。普通の貴族様はそんな奴らばかりだ。イザベラ嬢は普通じゃない」
「確かに、私は普通ではないかもしれないわね。でも、私は今までいろいろと頑張ってきたのよ。ポーション作成もその一つだし、魔法もその一つ」
「そんなに頑張って……何をするつもりなんだよ?」
貴族令嬢に求められるのは、主に政略結婚による人脈の構築と社交界での情報収集。
そして、子供を産むための道具となること。
私は前世の記憶がある分、その意識は薄いのだが、世間一般の認識としてはそうなっている。
カインの疑問は最もだ。
「私はね、死にたくないのよ」
「死ぬ? 誰だっていつかは死ぬだろ」
「そうだけど……。私が言っているのは違う意味ね」
寿命で死ぬのは仕方がない。
でも、十七歳で婚約者に裏切られて殺されるのは嫌だ。
私は、自分の意思とは関係なく誰かに傷つけられて、自分の人生を終わらせるなんて絶対にお断りだ。
「ともあれ、カイン。それに他の子達も。貴方達には私の味方になって欲しいのよ」
「味方? どうしてだ?」
「詳しくは言えない。でも、貴方たちならきっと強い護衛兵になれるはずよ」
「でもよ、魔法が使えるイザベラ嬢に護衛なんて要らないだろ? 弟のフレッドとかいう奴もいたし」
「いいえ。私達だけじゃ限界はあるわ。信頼できる仲間が必要なの」
私は真剣な表情で言う。
「でもよぉ……。子供の俺達なんか、大した戦力には……」
「あら? まだ気づかないのかしら? 貴方達の何人かには、魔法の適性がありそうなのよ」
「えっ!?」
カインが驚きの声を上げる。
「嘘だろ!?」
「マジかよ!?」
「すげー!!」
子供達が騒ぎ出す。
「ほ、本当に、俺達に魔法の才能が?」
「ええ。もちろん。身体強化魔法、土魔法、水魔法……。私がいろいろと教えてあげるわ」
私は得意気に言う。
「魔法が使えたら……。うへへ……」
「やったぜ! これで母ちゃんを助けられる!」
「僕は冒険者になるんだ!! そしたら、いっぱい稼いで、父さんに楽をさせてやるぞ」
「イザベラ先生、よろしくお願いします」
子供達が次々と頭を下げてくる。
「お、俺もよろしく頼むぜ。イザベラ嬢」
「はいはい。任せなさいな」
こうして、私は彼らに魔法の手ほどきを始めたのだった。
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