乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
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119話 アリシアの変貌

公開日時: 2022年9月12日(月) 09:22
文字数:1,187

 アリシアさんが駆けつけてくれたのはいいのだけれど、フレッドの浄化をしてくれるわけでもなく、なぜか私にキスをしてきた。

 彼女いわく、汚らしい男たちに汚された私の口の消毒らしい。

 しかも、彼女は私のお古のドレスに着替えている。


「アリシアさん、いったいどこでそれを……?」


 私はアリシアさんに尋ねた。

 アリシアさんが私のお古のドレスを着ているということはつまり――


「勘違いなさらないでください。私はイザベラ様をお慕いしていますが、さすがに無断で侵入して盗んだりはしません。これは一応、あの汚らしい男――フレッドさんに許可されて、お借りしたのです。わたしのドレスは、汚れてしまいましたから」


「そ、そう……」


 アリシアさんは、私が着ていた服を勝手に持ち去ったわけではないようだ。

 彼女のドレスが汚れてしまった理由は分からないけれど……。


「ああ、イザベラ様のドレス! イザベラ様の香り! なんて素敵なんでしょう!」


 アリシアさんは感激の声を上げる。


「ねえ、アリシアさん? あなた、何を言っているのかしら?」


「えっ、どうかしましたか?」


 不思議そうな顔をするアリシアさん。

 まるで、何もおかしなことを言っていないかのように。


「わ、私の匂いを嗅いでいるようにしか見えないのだけれども……」


「はい、イザベラ様のドレスを堪能しております。もちろん食べることも考えましたが、それは最後のお楽しみですから」


「へぁっ!?」


 私は思わず変な声を上げてしまう。

 ドレスを食べる?


「アリシアさん、そんなことしたら駄目よ」


「どうしてですか? イザベラ様の香りを吸い込みながら、美味しいものをいただく。最高の贅沢ではありませんか」


「えっと……」


 アリシアさんがド変態になっている。

 『ドララ』にこんな設定はなかったはずなのに。

 彼女はちゃんとプレイヤーや攻略対象達から愛されるヒロインだった。

 少なくとも、四大イケメンのルートでは普通の少女として描かれていた。

 まともだった。

 今のように、ちょっと危ない感じではなかった。


「イザベラ様、ご安心ください。わたしはイザベラ様のお身体を傷付けたりは致しません。イザベラ様の美しい肌に傷を付けるなんて、絶対にできませんもの」


「はあ……」


 私はため息をつくしかなかった。

 アリシアさんは私の身体に抱きついてきた。

 そして、そのまま自分の顔を押し当ててくる。


「はあ……イザベラ様……」


「ひゃあんっ!?」


 耳元で囁かれると、ゾクッとする。

 アリシアさんの吐息がくすぐったくて仕方がない。


「イザベラ様、わたしと一つになりましょう。イザベラ様となら、わたしも幸せです。二人で一緒に、天国に行きましょうね?」


 何だこれ。

 絶対におかしい!

 正ヒロインのアリシアさんがこんなことをするなんて。

 私は彼女の顔を改めて見る。


「うふふ。イザベラ様ぁ……」


 彼女は狂気を孕んだ瞳でこちらを見ている。

 その瞳の奥からは、ドス黒い何かが漏れ出ていたのだった。

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