乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

114話 奥の手

公開日時: 2022年9月7日(水) 09:46
文字数:1,174

 フレッドの暴走を止めるために戦ってくれたカインが、傷つき倒れてしまった。

 彼の傷は深い。

 私の半端な回復魔法では、治療しきれない。


「誰か……誰かいないの!? このままじゃカインが死んじゃう!!」


 私は周囲に助けを求める。

 だが、いつの間にかダンスの参加者たちは誰もいなくなっていた。

 これは――


「イザベラ! この周囲には闇の瘴気により結界が張られているようだ!!」


「その通りです。入ってこれるのは、一定以上の魔力を持つ者のみ。救援は期待できません!」


 エドワード殿下とオスカーが、フレッドを引き付けつつそう言う。

 どうやら、私を助けてくれる人は誰もいないらしい。


「クソッ!! なぜです!? なぜそんな平民上がりの下賤な者を気にかけるのですっ!?」


 フレッドがそう叫ぶ。

 貴族の中には、平民を見下す人も多い。

 特に、高位の貴族ほどその傾向は強いだろう。

 アリシアさんも、母親が平民だとして学園では冷たい目で見られている。

 カインも、ひょっとしたら当初は苦労していたのかもしれない。

 一年遅れで私が入学した頃には、すでに女生徒から大人気だったけど。


「彼は立派な騎士よ。ただ、それだけのことだわ」


 私は冷静に答える。

 カインは非常に向上心がある。

 努力家でもある。

 『イザベラ嬢を守るために強くなる』なんて言っているけど、頑張る理由はそれだけではないだろう。

 かつて共に暮らしていた孤児仲間、彼を見出したレッドバース子爵家、それにこのイース王国そのものに対しても恩義を感じているはずだ。

 だからこそ、彼は命をかけて戦うのだ。

 私はカインを尊敬している。

 そんな彼を貶めるような発言は許せない。

 でも、フレッドもカインの実力は認めていたはずだけれど……。


「くそぉーっ!! なぜだぁっ!! なぜ僕を見てくれないっ!!!」


 フレッドは叫びながら、さらに強力な攻撃魔法を放つ。


「ぐっ! 【ファイアーウォール】!」


「【アイスウォール】!」


 エドワード殿下とオスカーが防御魔法で迎え撃つ。

 王立学園でも、トップクラスの実力を持つ二人だ。

 しかし、暴走したフレッドの出力にこれ以上は耐えきれないのか、二人の表情には余裕がない。


「カインはどうにか治療できんのか!? フレッドを抑えるのも限界に近い!!」


「イザベラ殿! あなたなら、何か奥の手があるのでは!?」


「あるよ。でも……」


 私は唇を噛む。

 あれを使えば、私は意識を失う。

 それに、きっと私達の関係は壊れてしまう。

 次に目を覚ました時には、もう――


「イザベラ嬢……。俺に構うな……。逃げろ……」


 カインは苦しそうな顔で、途切れ途切れに言葉を発する。


「でも……」


「俺はいいんだ……。最後に、イザベラ嬢の盾になれたから……。欲を言えば、フレッドの奴を正気に戻してやりたかったがな……。ぐふっ!!」


「カイン!?」


 カインは口から血を吐き、ガクリと首を垂れる。

 その姿を見て、ようやく私は決断をしたのだった。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート