「錬金の授業はここだったわね……」
錬金術の実習室に着くと、既にほとんどの生徒が来ていた。
その中には私の義弟フレッドの姿もあった。
午後の授業は選択性で、学年が違う生徒と一緒になることもあるのだ。
「フレッド」
「姉上! こんにちは。授業が始まるまでもう少し時間があるから、今のうちに準備しておきましょう」
「ええ、そうね」
私たちが材料の準備をしていると、錬金の先生がやってきた。
「やあやあ、皆さん。今日は調合の授業だよ。調合には危険が伴うから、十分注意するように」
先生はいつものように穏やかな笑みを浮かべながら言った。
「ねえ、フレッド。この薬草ってどのタイミングで使うのかしら?」
「それはですね……」
私が質問すると、彼は丁寧に答えてくれた。
相変わらず、教え方が丁寧で分かりやすい。
(私は『ドララ』の知識のおかげで大体分かるし、分からないところはフレッドに聞けばいいから、本当に助かる)
私は調合に集中することにした。
しかし、隣にいるフレッドは集中できていないようだ。
チラッチラッとこちらを見てくる。
「……どうしたのよ。そんなに見てきて。何か用事でもあるの?」
「いや、その……」
フレッドは顔を赤くしながら口ごもる。
「だから何よ。はっきり言いなさいよ」
「……姉上、今日の服似合ってますね」
「なっ!? 急に何を言っているのよ!」
私は動揺してしまった。
だって、いきなりこんなことを言われるとは思わなかったんだもの!
「あの、姉上は僕のこと嫌いですか?」
「別に、そういうわけではないわ」
「なら、良かったです。僕は姉上のことが大好きですから」
「そ、そうなのね。ありがとう」
こんなところで何を言い出すのか。
血が繋がっていないとはいえ、フレッドは私の弟。
学園内に変な噂が広まったらマズい。
まあ、『ドララ』の攻略対象だけあって順調にイケメンに育っているので、悪い気はしないのだけれど……。
「いえ、本当のことですから」
「……」
「……」
気まずくなってきた。
このままだと沈黙が続きそうだ。
「そういえば、フレッドは何故錬金術を選んだの?」
私は話題を変えるために、フレッドに尋ねた。
「もちろん、姉上と同じクラスになるためですよ。それに、今後も姉上のお役に立つために、錬金の知識はあった方がいいですし……」
錬金術というのは、簡単に言えば化学に近い学問だ。
この世界には魔力というものがある。
そのため、現代日本と比べると科学は発達していないが、代わりに魔法が発達している。
例えば、ポーション作成。
この世界でポーションを作るためには、薬草や鉱物を調合しなければならない。
しかし、その工程の一部には魔力が関わってくる。
火をおこしたり、水を用意したり、風を起こしたりと様々なことを魔法で行っているのだ。
「そう。ありがとう。なら、頑張って勉強しないとね」
「はい! 頑張ります!」
こうして私達は、錬金の授業に集中したのだった。
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