「この子が階段を踏み外したので、回復魔法をかけておりましたの。それで、少しやり過ぎてしまったみたいですわね」
「回復魔法だと? そんなはずはない! 彼女は泣き叫んでいたではないか!」
「ふふっ、殿下はご存知ないようですわね。鎮痛の効果を放棄する代わりに、回復自体の効果を上昇させる特殊な魔法もあるのですわ」
イザベラの言っていることは、事実ではある。
彼女が発動した『ダーク・ヒール』。
発動中は傷口に激痛が走り続けるというデメリットはあるものの、回復魔法の効果は普通のものよりも高くなるのだ。
「そ、そのような魔法があるのか?」
「ええ。ほら見てくださいな。アリシアさんの傷口はきれいさっぱり治っておりますわ」
イザベラはそう言うと、アリシアの腕を掴んでエドワードに見せつける。
彼女の腕にあった擦り傷や切り傷などは全て消え去っていた。
しかし、アリシアの顔は依然として蒼白のままである。
「本当だ……。――しかし、それほどの痛みが走るのであれば一言ぐらいアリシア嬢に言ってもいいのではないか?」
「申し訳ありません。あまりの衝撃に驚いてしまいまして、伝えるのを忘れていたのです」
イザベラはしれっとした態度で嘘をつく。
本当は、意図的に『ダーク・ヒール』を選択した上で、敢えてアリシアには伝えなかったのだが。
「……まあいいだろう。それよりもアリシアは保健室に連れて行った方がいい」
「では私が――」
「いや、結構だ。俺が連れて行こう」
エドワードはアリシアを抱えると、そのまま校舎の方へと向かっていった。
イザベラはそれを憮然として眺める。
(どうしてあの女を助けようとするのかしら? あんな下賤な者を……)
アリシアに苦痛を与えてストレスを発散するつもりが、これでは逆効果だ。
イザベラの心の中には怒りと悔しさが渦巻いていたのだった。
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