乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
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103話 覚えていますか?

公開日時: 2022年8月27日(土) 09:10
文字数:1,023

 私はフレッドと共にダンス会場にやって来た。

 すでに多くの人で賑わっている。


「へえ~。去年よりも人が多い気がするわ」


 私は感心していた。

 昨年も人が少なかったわけではないが、今回ほど多くはなかった。

 今年は何かあったのかしら?

 私が疑問に思っていると、フレッドが説明してくれる。


「実は、今年の秋祭りには新たな目玉イベントが追加されたんです。そのせいもあって、例年以上に大勢の人が訪れているのでしょう」


「新たな目玉イベント?」


 私は首を傾げる。


「はい。それは――」


 フレッドが説明しかけたときだった。


「さあ、皆様!! 秋祭りもいよいよ大詰めです。ここで、最後の締めとなるダンスパーティーをお楽しみください」


 司会者らしき人物が声を張り上げて呼びかけている。

 私としては、あまり興味がないのだが、フレッドはそうではないらしい。

 彼は目を輝かせていた。


「姉上……いえ、イザベラさん。僕と一緒に踊りませんか?」


 フレッドが手を差し出し、緊張気味に誘いかけてきた。

 先ほど一度返答しているのだが、こういう様式美だろう。


「もちろんよ。せっかくだし、一緒に踊りましょう」


 私は笑顔で応じた。

 フレッドと二人きりで踊るなんて、いつ以来だろうか?

 小さい頃はよく踊っていたが、最近はそういう機会もなかった。

 そんなことを考えながら、私はフレッドと手を繋ぎ、ダンスエリアの中央へ向かう。


「あら? この曲って……」


 曲が始まり、私はすぐに気づいた。

 この国では有名な恋歌だ。

 恋人たちが愛を囁き合う内容の歌詞となっている。

 フレッドは気づいているのかいないのか、特に反応を見せていない。

 ただ真っ直ぐに前を向いていた。

 私はフレッドの手を強く握り返し、ゆっくりとステップを踏み始める。


「イザベラさん。覚えていますか? 僕の母上を救ってくれた日のことを」


 フレッドは穏やかな声で問いかけてくる。


「ええ。忘れるはずもないわ」


 私の脳裏に蘇るのは、あの日の出来事。

 私とフレッドが頑張って開発したポーションが、彼の母親の病に確かな効力を発揮したのだ。

 自分の頑張りが実って、感動した記憶がある。

 実の母が救われた彼の感動は、それ以上のものだっただろう。

 その頃を境に、彼のシスコンっぷりは加速していったのだ。


「僕は、ずっと貴方に憧れていました。いつも優しく、聡明で、勇敢なイザベラ・アディントンに」


 フレッドの言葉に嘘はない。

 彼の瞳を見ればわかる。

 ただのシスコンと侮っていたが、彼にはそれ以上の気持ちがある。

 私は、ただ微笑み返したのだった。

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