「嫌がらせなんてしておりませんわ。アリシアさんへの嫌がらせなど一切しておりません」
彼女は慌てて否定するが、エドワード王子はさらに詰め寄る。
「嘘をつけ! お前以外に誰がやると言うのだ!」
「他の方々だってやろうと思えばできるでしょう? 殿下ともあろう方がまさか証拠もなく人を疑うわけありませんよね?」
「証拠ならある! 目撃者が証言してくれたのだ!」
「あらまぁ……。一体誰なんですか?」
「それを明かすことはできない! お前が圧力を掛けてうやむやにする可能性があるからな!」
「…………」
イザベラは内心舌打ちをした。
アディントン侯爵家の力を利用すれば、ごく一部の大貴族家を除き黙らせることができる。
そう油断していた。
エドワード王子に先に証人がいると指摘されれば、さすがに反論は難しい。
「殿下、一つ確認させてください。もし仮にその証人の方が嘘をついていたらどうしますか? 例えば誰かに脅されて言わされているとしたら?」
「その時は然るべき処置を取るだけだ」
「では、その証言の信用性を証明してくださいますか?」
「そんな必要はない! 王子である俺が信じるに値すると判断したのだ!」
エドワード王子は一歩も引かなかった。
彼は王子という立場にありながら、平民の味方をする珍しい人物だ。
だからこそ、この国の未来を託せるのだと国王は彼を推した。
イザベラは、エドワード王子の性格をよく知っていた。
そして、彼が一度決めたことは絶対に曲げない頑固な性格だということも理解していた。
だが、そうやすやすと引き下がるわけにはいかない。
ここで引けば、婚約破棄が成立してしまうのだから。
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