乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
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105話 素数を数えろ

公開日時: 2022年8月29日(月) 09:27
文字数:1,039

 ダンスが終わった後、フレッドから突然キスされてしまった。

 このダンスで私のことを諦めてくれるものだと油断していた私は、完全に不意打ちを食らってしまった形になる。


「………………」


 私は混乱してしまっている頭を必死に回転させる。

 どうすればいいのかを考える。


(落ち着け……落ち着くんだ……)


 自分に言い聞かせる。

 ここで動揺してしまったら、バッドエンド一直線である。


(素数を数えろ……。2、3、5、7、11、13、17……)


 私は思考を切り替えた。

 とりあえず、まずは深呼吸をしよう。

 スーッハー、ス―ーッハァー。

 ヒッヒッフー。ヒッヒッフー。

 よし、これで落ち着いたぞ。

 私は完璧に落ち着きを取り戻すことに成功した。

 さて、ここからが本番だ。


「ど、どどど、どうして……」


 私は震え声で尋ねる。

 いかん。

 まだ動揺してしまっている。


「どうして、突然キスしてきたの? 私達は姉弟なのよ?」


 この世界にも、親愛のキスはある。

 だが、せいぜい10歳になるまでにするものだ。

 年頃の男女で行うようなものではない。

 すると、フレッドは悲しげな顔で答える。


「イザベラさんは僕のことが嫌いですか?」


「そ、そういうわけじゃなくて、姉弟なのよ。家族なのよ」


「でも、愛し合えないわけではないでしょう?」


「それは……」


 私は口ごもる。

 確かに、フレッドのことは好きだ。

 恋愛的な意味ではないが、人間的に好ましいと思っている。

 弟としては大切に思っている。


「イザベラさんには、まだ婚約者はいませんよね?」


「いないけど……それが何か関係があるの?」


「僕と結婚してください!」


 フレッドは叫ぶように言った。


「……はい?」


 一瞬、何を言われたか、わからなかった。


「聞こえませんでしたか? 結婚してくだ――」


「いえ、ちゃんと聞こえていたわ」


 私は慌てて止める。

 聞き間違いではなかったようだ。


「つまり、私にプロポーズしたということよね?」


「はい」


 おかしい。

 どうしてこんなことになっている?

 すっぱり諦めてくれると思っていたフレッドが、諦めてくれなかった。

 百歩譲って、それはいい。

 私の見立てが甘かっただけだ。


(でも、いきなりキスをした上に、プロポーズまでしてくるなんて、絶対におかしいわ)


 私はフレッドを見つめる。

 彼は真剣な表情をしていた。

 本気らしい。


「あのね、フレッド……」


 私が何とか言葉を絞り出そうとしたときだった。

 ピシャッ!

 ゴロゴロロ……ドーン!!

 轟音が周囲に轟いた。


(落雷かしら? こんなときに……)


 いつの間にか、空は暗くなっている。

 遠くの方では稲妻が見えていたのだった。

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