ダンスが終わった後、フレッドから突然キスされてしまった。
このダンスで私のことを諦めてくれるものだと油断していた私は、完全に不意打ちを食らってしまった形になる。
「………………」
私は混乱してしまっている頭を必死に回転させる。
どうすればいいのかを考える。
(落ち着け……落ち着くんだ……)
自分に言い聞かせる。
ここで動揺してしまったら、バッドエンド一直線である。
(素数を数えろ……。2、3、5、7、11、13、17……)
私は思考を切り替えた。
とりあえず、まずは深呼吸をしよう。
スーッハー、ス―ーッハァー。
ヒッヒッフー。ヒッヒッフー。
よし、これで落ち着いたぞ。
私は完璧に落ち着きを取り戻すことに成功した。
さて、ここからが本番だ。
「ど、どどど、どうして……」
私は震え声で尋ねる。
いかん。
まだ動揺してしまっている。
「どうして、突然キスしてきたの? 私達は姉弟なのよ?」
この世界にも、親愛のキスはある。
だが、せいぜい10歳になるまでにするものだ。
年頃の男女で行うようなものではない。
すると、フレッドは悲しげな顔で答える。
「イザベラさんは僕のことが嫌いですか?」
「そ、そういうわけじゃなくて、姉弟なのよ。家族なのよ」
「でも、愛し合えないわけではないでしょう?」
「それは……」
私は口ごもる。
確かに、フレッドのことは好きだ。
恋愛的な意味ではないが、人間的に好ましいと思っている。
弟としては大切に思っている。
「イザベラさんには、まだ婚約者はいませんよね?」
「いないけど……それが何か関係があるの?」
「僕と結婚してください!」
フレッドは叫ぶように言った。
「……はい?」
一瞬、何を言われたか、わからなかった。
「聞こえませんでしたか? 結婚してくだ――」
「いえ、ちゃんと聞こえていたわ」
私は慌てて止める。
聞き間違いではなかったようだ。
「つまり、私にプロポーズしたということよね?」
「はい」
おかしい。
どうしてこんなことになっている?
すっぱり諦めてくれると思っていたフレッドが、諦めてくれなかった。
百歩譲って、それはいい。
私の見立てが甘かっただけだ。
(でも、いきなりキスをした上に、プロポーズまでしてくるなんて、絶対におかしいわ)
私はフレッドを見つめる。
彼は真剣な表情をしていた。
本気らしい。
「あのね、フレッド……」
私が何とか言葉を絞り出そうとしたときだった。
ピシャッ!
ゴロゴロロ……ドーン!!
轟音が周囲に轟いた。
(落雷かしら? こんなときに……)
いつの間にか、空は暗くなっている。
遠くの方では稲妻が見えていたのだった。
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