乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

59話 魔獣

公開日時: 2022年7月25日(月) 10:39
文字数:1,234

「ううーん……。いいお天気だなぁ……」


 私は背伸びをして、気持ちの良い空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

 王都からほど近い場所にある森の中。

 私達三人は、現地訓練中だ。


「はい、絶好のお出かけ日よりです。今日は本当に良かったです」


 アリシアさんが同意してくれる。


「薬草採取の依頼も上手くいきましたしね」


 オスカーが微笑みながら言った。


「そうね。これもアリシアさんとオスカー様のご協力のおかげですわ」


「そんなことはありませんよ。全てイザベラ様の力によるものではありませんか。わたしなんて、教えていただいた場所で採取しただけですもの」


「ううん。アリシアさんの手際の良さがなければ、ここまで集めることはできなかったわ」


 私はアリシアさんの言葉を否定する。

 入学試験の順位は、私が主席で、オスカーが次席。

 アリシアさんはかなりギリギリの合格だったはず。

 でも、ここ最近の努力もあって、今では私やオスカーの次くらいに優秀な生徒となっている。

 それに、アリシアさんは『ドララ』での主人公だからね。

 きっと何か特別な才能を持っているに違いない。


「ふふっ。そう言ってもらえると、わたしも嬉しいです。イザベラ様に少しでも近づけるように頑張ります!」


 アリシアさんの笑顔につられて、私も自然と笑ってしまう。

 ああ……なんて可愛いのだろう。

 こんなに可愛い女の子と一緒に過ごせるなんて、なんて幸せ者なんだ。

 私は心の中でガッツポーズをした。


「ふふふ。アリシア殿は本当にお元気ですね。……おや?」


 オスカーが声を上げる。


「どうかなさいまして? オスカー様」


「いえ。あちらの茂みの辺りが揺れているように見えて。ちょっと見てきます」


 そう言うなり、彼はスタタタッと駆けていった。


「まあ! わたしも行きます!」


 アリシアさんもそれについて行く。


「二人とも気をつけてくださいませ」


 私はハラハラしながら見守る。

 だって、ここはゲームの世界。

 どんな危険があるのかわからない。


「グルルアァッ!!」


 すると、突然唸り声が上がった。


「アリシア殿! 下がってください!!」


 オスカーの声。


「こ、これは!?」


 続いて聞こえたのは、驚愕するアリシアさんの声。

 一体何が起きたというの?

 嫌な予感が全身を包み込む。

 私は急いで二人の下へと走った。


「どうしましたの!?」


「イザベラ様!! 逃げてください!!!」


 アリシアさんが叫ぶ。

 彼女の視線を辿ると、そこには一頭の巨大な熊がいた。


「グオオォオオッ!!!」


 ビリビリと大気を震わせるような雄叫びを上げ、こちらに向かって突進してくる。


「くっ……!!」


 私はとっさに避ける。

 ギリギリで回避に成功した。


「何でこんなところに魔獣がいるのよ!?」


 思わず叫んでしまう。


「おそらく、どこかから迷い込んできたんだと思います。普段は人里離れた山奥にいるはずなのですが……」


 オスカーが冷静に答えた。


「とにかく、今は逃げることが先決です。わ、わたしが囮になりますので、イザベラ様達は早くここから離れてください!」


 アリシアさんが震える声でそう提案してきたのだった。

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