私はフレッドとダンスを踊っている。
「ねえ、フレッド。一つ聞いてもいいかしら?」
「なんでしょうか?」
「あなたが私を慕うようになったきっかけというのは、やっぱり、あの日のことなのかしら?」
私は以前から疑問に思っていたことを尋ねた。
すると、フレッドは少し恥ずかしげな表情をした。
「はい。確かにきっかけは、イザベラさんの作ったポーションのおかげです。でも、それだけではありません」
「というと?」
「イザベラさんは義理の弟である僕にも分け隔てなく接してくれましたよね。それが嬉しかったのです」
「ふむ。なるほどね」
私は納得して、それからこう言った。
「でも、私は別に特別なことはしていないわよ。あなたのお母さんを助けたのだって、偶然だし。あなたにだって、普通に接していただけよ」
「はい。わかっています。それでも、イザベラさんの優しさに、とても惹かれてしまったんです」
フレッドは照れくさそうな顔をする。
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」
私は笑った。
そんな会話をしながらダンスをしていると、曲が終わる。
私はフレッドに向き直り、お辞儀をする。
「素敵な時間を過ごせたわ。誘ってくれて本当にありがとう」
「こちらこそ、楽しい時間を過ごすことができました。イザベラさん、どうかこれからもよろしくお願いします」
フレッドも丁寧に礼を返す。
このダンスが一区切りになっただろう。
これからの彼は、私の弟として振る舞ってはくれるだろう。
だから、私からも告げる。
「ええ。改めて――」
姉弟としてよろしくね。
そう言おうとした私の言葉は遮られる。
彼の唇によって。
突然のキスだった。
「んっ!?」
私は驚き、硬直してしまっていた。
その間、数秒程度か。
ようやく我を取り戻した私が、彼を突き飛ばす。
「ちょ、ちょっと!! 何やって……!!」
私は慌てて抗議の声を上げる。
しかし、フレッドの顔を見て言葉を詰まらせた。
彼は泣いていた。
その目からは大粒の涙が溢れている。
「……すみません。驚かせてしまいましたか? ですが、どうしても諦めきれなかったのです」
フレッドは嗚咽交じりに言う。
「僕は……イザベラさんが好きです。一人の男性として、貴方を愛しています」
私は言葉が出なかった。
先ほど、はっきりと断った。
そして、思い出のためとしてダンスを踊っている。
フレッドは私より年下だが、精神的には遥かに大人だと思っていた。
このダンスですっぱり諦めてくれるものだと思いこんでいた。
だから、こんな展開になるとは全く予想していなかったのだ。
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