乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

102話 思い出を一つだけ

公開日時: 2022年8月26日(金) 09:29
文字数:1,112

 ついに、フレッドから愛の告白を受けてしまった。

 今までにも何度か『好き』と言われてはいたのだが、『姉弟としての好きでしょ?』と、はぐらかしてきた。

 しかし、今回は違う。

 彼ははっきりと、一人の異性としての好意を伝えてくれたのだ。


(ど、どうしよう……。嬉しいけど、困るわ。だって、フレッドは義弟なんだもの)


 私は戸惑っていた。

 フレッドは義弟だからだ。

 血が繋がっていないとはいえ、私は彼の姉だ。

 この世界の倫理観的に考えて問題があると思う。


「姉上は僕のことを弟としか思っていないかもしれませんが、それでも構いません。僕の愛は本物です。あらゆる障害を乗り越えていく覚悟があります」


 フレッドは決意を込めた声で宣言した。


「……」


 私は言葉に詰まってしまう。

 だが、いつまでも黙り込んでいては駄目だと思い直す。

 きちんと返事をしないといけない。


「ごめんなさい。あなたの気持ちはとても嬉しいけれど、私はそういう目では見れないわ」


 私は正直に自分の想いを伝えた。


「そうですか……。残念です。姉上に嫌われたくなくて、ずっと我慢してきました。でも、やっぱり無理だったようですね……」


 フレッドは悲しげに呟く。


「本当にごめんなさい」


「いえ、いいんですよ。元々、望み薄なのはわかっていましたから。ただ、一度だけでも伝えたかったんです。それだけです」


「……」


 フレッドは吹っ切れた様子で笑った。


「僕が言いたいことは以上です。ですが最後に、思い出を一つだけ貰ってもよろしいでしょうか?」


「え? えっと、それはどういう意味かしら?」


 私は戸惑いながら聞き返す。


「そのままの意味です。今夜、僕とダンスを踊っていただけないでしょうか?」


 フレッドは躊躇なく要求を口にする。


「ダンス? ああ、秋祭りの終わりに踊るあれのことね」


 私は少し考え込む。

 異性とのダンスは、それなりに特別な意味を持つ。

 ……が、だからと言って即結婚に結びついたりはしない。

 各貴族が主催する夜会では、社交上の付き合いとして適当な異性と踊ることはよくある。

 それに、昨年の秋祭りでは私とオスカーが踊ったが、あれで劇的に関係が進んだなんてこともない。


「……わかった。あなたにエスコートを任せるわ」


 私は承諾することにした。


「ありがとうございます!」


 フレッドは嬉しそうな顔で礼を言う。


(……あれ? だれかの存在を忘れているような……)


 よく思い出せない。

 お酒を飲んで酔っ払ってしまっていたから?

 ううん、それもあるのだろうけど、なんだか頭に黒いモヤがかかったような感じがする。


「姉上! そうと決まれば、さっそく会場に向かいましょう!!」


「え? ああ、うん……」


 私はフレッドに急かされて、秋祭りの休憩場からダンス会場へ向けて歩き始めたのだった。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート