四人で引き続き秋祭りを楽しんでいる。
「……あ」
「どうした? イザベラ嬢」
突然声を上げた私に、カインが声を掛けてくれる。
「ごめんなさい。ちょっとお花を摘みに行ってきます」
「花摘みだと? 何もこんな祭りの最中に行かなくても……」
エドワード殿下が眉をひそめる。
私の婉曲的な表現が通じなかったか……。
王子の癖に、こういう淑女表現を知らないなんてね。
でも、オスカーは違ったようだ。
「承知しました、イザベラ殿。私達はここで待っていますので、行ってきてください」
「はい。すぐに戻ってくるので、それまで三人でお祭りを見ていてもらえますか?」
「分かりました。エドワード殿下にはしっかり言い聞かせておきますので、ご安心を」
「お願いします」
笑顔で見送ってくれるオスカーに手を振って、私はその場を離れる。
やっぱり、オスカーは頼りになるなぁ。
三人の中でも一番紳士だ。
それに引き換え、エドワード殿下は鈍感というか……。
女の子の扱いがなっていないわね。
まあ、『ドララ』の攻略対象なだけあって顔は文句なしのイケメンなのだけれど。
あれでバッドエンドの断罪さえなければなあ……。
なんて考えながら歩いていると、いつの間にか人通りの少ない道へと来てしまっていた。
「あれ? おトイレはこっちじゃなかったかしら?」
屋台や人の姿もなく、静かな場所だ。
どこか不気味な雰囲気がある。
まずいな。
早く戻らないと。
急いで来た道を引き返していると、後ろから誰かに肩を掴まれた。
「きゃっ!?」
驚いて振り返ると、そこには二人の男が立っていた。
「へへっ。お姉さん、可愛いねぇ。ねえ、俺たちと一緒に遊ばない? 楽しいこと、してあげるよぉ~」
「そうそう。俺らとイイコトしようよ!」
ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべる男たち。
「結構です! 離してください!!」
私は男の手を振り払おうとするが、強い力で押さえつけられてしまう。
「つれないこと言わずにさー。ほら、行こうよ」
「大丈夫だって。優しくするからさー」
「嫌です!! 止めて下さい!!!」
抵抗するが、二人に身体を抱えられてしまう。
くっ、この人たち、見かけによらず力が強い……!!
このままでは連れていかれちゃう!!
どうにかしないと……。
そうだ、魔法を使えば……。
(ファイアーボ……。あっ。駄目!)
魔法を発動するには、集中した上で少し力む必要がある。
普段なら何の問題もない行為だ。
でも、今の私はダムが決壊寸前の状態だった。
変に力を入れると、その場で大惨事を引き起こしかねない。
「大人しくしろよー」
「暴れたら怪我しちまうかもよー」
はやくなんとかしないと……。
もう、我慢できない……。
その時だった。
「ぐえぇっ」
「ぎゃああああああ!!!」
突如として悲鳴が上がる。
「なんだ!?」
「誰だお前は!?」
「…………」
私は声の方を見る。
すると、そこにいたのはカインだった。
彼に攻撃され、男二人は倒れ込んだ。
「カイン……!?」
「……無事か? イザベラ嬢」
「ええ、ありがとう。でも、どうしてここに……?」
「イザベラ嬢を一人で行かせるのが不安で、こっそり付いてきていたんだよ。そうしたら、怪しい輩に絡まれているところに遭遇してしまった。間に合って良かったぜ」
カインがそう言って微笑む。
なんて優しいのだろう。
本当に助かったわ。
「イザベラ嬢は強いけど、一人の女の子なんだ。もう少し自分の身を大切にしてくれ」
「分かってるわよ」
本来なら、自分でも何とかできたんだ。
ただタイミング悪く、ダムが決壊しかかっていたというだけで。
「本当に分かってんのか? イザベラ嬢に何かあったら、俺はっ!!」
「きゃっ! ちょ、ちょっと……」
急に抱き寄せられ、私は戸惑ってしまう。
カインの顔が近い。
心臓が激しく高鳴り、頭が真っ白になった。
「カイン、あのね……。私達、そんな関係じゃ……」
私は何とかそう絞り出す。
イケメンの彼に迫られたらついつい流されそうになるが、迂闊に距離を縮めすぎたらバッドエンドに近づく。
それにそもそも、今はタイミングが悪い。
私のダムは決壊寸前だ。
「……すまない。つい……」
カインは慌てて私から離れると、「悪いな」と言って頭を掻く。
……なによ。
なんで残念そうな顔をしているの?
その顔をしたいのは私の方なんだけど。
「ごめんね。じゃあ、私はこれで」
私はそそくさとその場を後にする。
そしてトイレに駆け込み、事なきを得たのであった。
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