魔法演習の講義で、二人組を作ることになった生徒達。
「イザベラ殿」
「オスカー様」
オスカーとイザベラが声を掛け合う。
どうやら、二人の意思は固まったらしい。
「私とイザベラ殿で組みます。構いませんね、イザベラ殿?」
「ええ、もちろんですわ」
オスカーの提案に、イザベラは何の迷いもなく了承する。
オスカーはシルフォード伯爵家の跡取り息子であり、家格は申し分ない。
座学でも実技魔法でもイザベラに次ぐ成績を修めており、将来有望だ。
一時期はシルフォード伯爵家の領地経営が危ぶまれていたが、それも解決している。
その上、彼は眼鏡が似合う知的な美男子だ。
彼に言い寄る令嬢は多いと聞く。
エドワード王子やカインに比べるとやや痩せ型ではあるものの、平均的な学園生徒に比べれば身体能力も高く、体は引き締まっている。
一方のイザベラも、とても優秀な女性であることは改めて言うまでもない。
かつてはシルフォード伯爵家の領地経営に有益な口出しをしたこともあり、オスカーはそのことに恩義を感じている。
つまり、彼がイザベラと組もうとするのは、何も不思議なことではないのだ。
むしろ、自然なことだと言える。
((なっ……!))
生徒達の間に動揺が広がる。
「あ、あの、わたくしはオスカー様と組みたいのですが……」
一人の女子生徒が恐る恐るオスカーに申し出る。
彼女は子爵家の令嬢だ。
しかし――
「申し訳ありません。イザベラ殿が先約ですので」
オスカーに一蹴されてしまう。
「で、でも……。主席と次席が組まれては、バランスが……」
「そんなことは知ったことではありません。より優秀で魅力的な女性と組みたいと考えるのは、男として当然のことですから」
「……ッ!」
オスカーの発言に、女子生徒の顔が真っ赤に染まった。
そして、悔しそうに唇を噛み締めると、黙って俯いてしまう。
「そういうことです。では、行きましょうか。イザベラ殿」
「はい」
二人が実技訓練場に向けて歩き出す。
その足取りに一切の迷いはない。
オスカーは以前からイザベラに想いを寄せてはいた。
だが、学園内においてあまりにも露骨なアプローチは控えていた。
また、こうした形式の授業では先ほど女子生徒が指摘した通り、生徒間のバランスも考慮していた。
それがどうしたことか、今のオスカーにはそうした配慮は一切見られない。
まるで自分のものだと言わんばかりに、堂々とイザベラの隣を歩いているではないか。
エドワード殿下との婚約を発表したばかりのイザベラの隣を……。
イザベラもイザベラで、何も恥じることはないと言わんばかりにオスカーに身を寄せて歩いている。
生徒達は驚きつつも、残った者同士で二人組を作り、イザベラやオスカーの後を追ったのであった。
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