乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
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137話 実技訓練

公開日時: 2022年10月27日(木) 09:37
文字数:1,234

「それじゃあ早速、実技訓練を始めようと思う。まずは……そこの二人組からだな」


「「は、はいっ!」」


 講師に指名された二人組が前に出ていく。

 二人は緊張の面持ちで杖を構え、詠唱を始めた。


「炎よ、我が敵を撃て。【ファイアーボール】」


「風よ、刃となりて切り刻め。【ウィンドカッター】」


 二人の攻撃魔法が次々と放たれ、ゴーレムに向かって飛んでいく。

 魔法は見事に命中し、ゴーレムの表面を削る。

 しかし、それだけだ。

 ゴーレムは起動停止せず、二人に向けてゆっくりと進んでいく。


「さぁ、適切な距離を保ちながら攻撃を続けなさい。ゴーレムの動きをよく見てね」


「「はい!」」


 それからしばらくの間、ゴーレムへの攻撃が続いた。

 そしてついに――


「よし、そこまで。ゴーレムの停止を確認した」


 ゴーレムは動きを止め、その場で止まった。


「ふぅ……。ようやくか」


「時間が掛かってしまったわね」


 二人組がそう言う。


「所要時間百八十秒、打ち込み魔法数二十一か。悪くはない。ただ、安全を重視し過ぎた側面はあるな。もう少し近くの距離を保って攻撃を繰り返していれば、より早く停止させられただろう。ま、初めてにしては上出来だ。この調子で頑張りたまえ」


「ありがとうございます」


「貴重なアドバイス、感謝します」


 生徒達の視線が二人組に向けられる。

 この戦いは、訓練であると同時に、テストでもある。

 もちろん最初に挑んだ者の方が情報不足のためやや不利であるし、講師もその辺りは考慮して評価を下すのだが、あくまでそれは最初の話である。

 二回目以降は評価にそれほど差はないのだ。

 この講義においてゴーレム戦に初めて挑んだ者の結果が一つの基準となり、それよりも下の成績を取ることは避けたいと考える者は多い。


「それでは、次だ。そちらの二人でいいかね?」


「はい」


「よろしくお願いします」


 次の二人が前に出る。

 先ほどの二人組よりも落ち着いていて、自信があるように見える。


「では、始めてくれたまえ」


 講師の言葉を受けて、二人組が同時に魔法を放つ。


「氷よ、我が敵を貫け。【アイスアロー】」


「風よ、我が敵に切り裂く刃となれ。【エアブレード】」


 二人の魔法が、それぞれゴーレムに命中する。

 だが、やはり初撃だけでは停止しない。


「そのまま攻撃を続けて」


 講師の指示に従い、二人はゴーレムを攻撃する。

 なかなかゴーレムの歩みを止めることはできない。

 それでも、どうにか停止にまで追い込んだ。


「よし、終了だ。ゴーレムの停止を確認」


 講師がそう告げる。


「所要時間百六十秒、打ち込み魔法数十九。うん、一組目の戦いを上手く参考にしたようだな。申し分ない結果だ」


 魔法の適性には個人差が大きい。

 攻撃魔法を使えない者、使えるが防御魔法の方が得意な者なども存在する。

 だが、わざわざ実技訓練の講義を選択するような生徒の平均レベルは、それなりに高い。

 今の二人組ぐらいが一つの標準となるだろう。


「はい!」


「ありがとうございました!」


 二人組が元気よく返事をする。

 他の生徒達も感心した様子で拍手を送ったのだった。

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