「くそっ! くそぉっ!!」
俺は剣を振るいながら悪態をつく。
「エドワード殿下! お逃げください!!」
「ぐっ! だが、お前達を置いて一人で逃げるわけには……」
「殿下のお命の方が大切です。……ぐあああぁっ!!」
兵の一人が、ゴブリンの攻撃を受けて倒れる。
なんなんだ、こいつらは!!
俺は兵を引き連れ、ゴブリンの討伐に来ていた。
場所は、王都外れにある小さな山だ。
そこに巣くうゴブリン達を一掃するためである。
最初は順調に進んでいた。
ゴブリンは弱いモンスターだ。
新米の兵士であっても十分に戦える相手である。
だから、俺達は油断していたのだ。
ゴブリンの群れを見つけ、これならすぐに終わるだろうと。
そして、それが間違いであったことに気づく。
なぜなら、そこにはゴブリンキングがいたからだ。
ゴブリンキングは通常のゴブリンより遥かに強い。
強さは個体によってまちまちだが、最低でもBランク以上の冒険者が数人で戦うような化け物なのだ。
そんな奴がゴブリンを率いていた。
その数は、ざっと数えたところで二十匹以上。
とてもではないが、俺と俺の兵だけでは対処できない数だ。
(くそっ! 少しでもイザベラに相応しい男になろうとした結果がこれか……)
俺は心の中で舌打ちする。
この一年間、王立学園で勉学と鍛錬に励んだ。
アディントン侯爵家の令嬢、イザベラに相応しい男となるためだ。
あいつは『面白い』女だ。
最初は興味本位で婚約を申し込んでやったのだが、やんわりと断りやがった。
その後は王家から正式に打診しているにも関わらず、のらりくらりと躱し続けてやがる。
次期国王の俺からの誘いに、一切の興味がないように見える。
ならば、地位だけではなく能力や実績を積み上げるまで。
そう考え、春季休暇を利用し、兵を連れて魔物退治に精を出していたのだが。
それが裏目に出てしまった。
まさかゴブリンキングと遭遇してしまうとは。
完全に計算外だ。
(だが、俺はこんなところで死ぬわけにはいかない!)
必ず生きて帰る。
そのためにも、なんとか活路を見出さないと。
「お前ら、ここは俺が食い止める。お前らは先に撤退しろ!」
「なっ! 何を仰います!?」
「お前達がいては足手まといだと言っているんだ!」
「そんなことはありません! 我々は最後まで殿下をお守りします!」
「いいから行け! 王族の秘術を使って敵を殲滅する! 危険だから、早くここから離れるんだ!!」
王族の魔法は強力だ。
それは、王族にだけ伝わる特別な魔法。
使用すれば、どんな強敵であろうとも倒すことができるだろう。
だが、その分リスクがある。
まず、発動難易度がずば抜けて高い。
鍛錬を積んできた俺でも、成功するかどうか……。
その上、無事に成功したとしても、威力が高すぎて周囲を巻き込んでしまうリスクもある。
「はああああぁっ!!」
俺は剣に魔力を纏わせ、ゴブリンキングに向かって斬りかかる。
ゴブリンキングは棍棒を振り上げ、それを受け止めた。
重い一撃に手が痺れる。
だが、耐えられないほどじゃない!
「はああっ!!」
俺は連続で攻撃を叩き込む。
「グギャッ!!」
ゴブリンキングは悲鳴を上げ、後ろに下がる。
どうやら、今ので少しダメージが入ったようだ。
このまま押し切る!
「今です殿下! 殿下だけでもお逃げください!」
「殿下に何かあれば、我らの恥ですぞ!」
兵達がそんなことを言う。
「まだ逃げていなかったのか! 今から大技を使うと言ったろうが!! 巻き込まれたくなければさっさと離れろ!」
そう怒鳴ると、ようやく兵達はその場を離れた。
よし、これで邪魔者はいなくなった。
「はああぁぁぁぁぁ……」
俺は剣を構え、精神を集中させる。
全身に力が満ちていくのを感じる。
これが王族に伝わる武技の一つ、『覇気』だ。
使用者の力を大幅に強化してくれる技術。
これを使えば、Aランクの冒険者を超える力を得ることができる。
「くらえっ! 【天剣斬】!!!」
俺は全力の攻撃を繰り出す。
それは、ゴブリンキングを真っ二つに切り裂く。
……はずだった。
「グギャ?」
ゴブリンキングが首を傾げる。
思ったよりもダメージが少なく、困惑しているのだろう。
(くそっ! 失敗か……)
やはり、俺にはまだ早かったようだ。
鍛錬が足りなかった。
イザベラに相応しい男になろうと我武者羅に頑張ってきたのだが、届かなかった。
「ギャギャッ!」
ゴブリンキングが棍棒を振り上げる。
俺は死を覚悟した。
その時だ。
「ゴブゥッ!?」
突然、ゴブリンキングが吹き飛んだ。
何が起きたのか理解できない。
「あら? やはりエドワード殿下でしたか。ご機嫌麗しゅう」
混乱する俺に、そんな透き通るかのような美しい声が聞こえてきたのだった。
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