電脳闘争録

気に喰わないヤツらは全員潰す
ジブリ神
ジブリ神

三十九話

公開日時: 2021年12月12日(日) 20:05
文字数:4,205

 この三人に敵うプレイヤーもゲノムも居る訳が無く、僕達は難なく合流地点に足を運ぶことができた。既に他のメンバーも集まっていて、どうやら殆どのプレイヤーが無事に集結しているようだった。

「よかった…皆無事だね」

 誰一人欠けることなく、合流地点にたどり着けたようでほっと胸を撫でおろす。

「よーし、全員無事に集まれたようなので、今から配信に映るといけない詳細情報を全員のメールに送った。記載されてるURLはシートになっているから、この場で目を通してくれ」

 杉花粉impactの言う通り、ゲーム内メールからURLをクリックすると、詳細情報が記載されたシートが出て来たので、よぉーく目を通している……最中に、惨劇が始まった。

「ぎゃぁあああああああ」

「ぐふっ」

「がはぁあああ」

 ………? なんか、ヘッドセットから被弾音とキャラの被弾ボイスが聞こえて来るんだけど、まさかゲノムや電脳怨霊の襲撃か!?

 急いでシートを閉じて、新しく設置したhitboxに手を伸ばす。そこには、文字通り地獄と呼んでも差し支えの無い光景が広がっていた。

 全員がシートを読んで無抵抗になっている瞬間を狙い撃ち、複数のプレイヤーがあろうことか棒立ちのプレイヤーを狩っていた。

「うっ!? これは……山谷さん! 勅使河原さん!! 急いでシートを閉じて応戦して!! これは虐殺だ!!」

 確かに、効率良く裏世界で寿命を得るには、まとめて大勢のプレイヤーを葬り去るのが一番効率が良いだろう。実際、僕もこの固定に誘われた時は一瞬頭に過ったのだが、考えると実行に移すのでは大きな差がある。

 そして、こんな大それた事を考えて実行する輩など決まっている。

「あれあれぇ~? もしかしてぼく、また何かやっちゃいましたかぁ~?」

 シャゲダンを決めながら全体チャットで煽りを飛ばすこの男…説明不要の悪魔の化身、倉沼ソラオだ。

「あれあれ? べろさん、こういう時って、なんて言うんだっけ??」

「し、死んでるぅ~wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

「おぉ…雑魚よ、死んでしまうとは情けない」

 既に何人ものプレイヤーを屠った死体の上で、自ら生み出した地獄の中心で煽りながら他のプレイヤーの装備を根こそぎ奪って行くべろさん。

「くそ、どうしてこんな事をするんだ!!」

「あぁ? そんなモン決まってんじゃねえか。寿命が欲しい俺に、装備が欲しいべろさん。まっ、利害の一致って訳だなぁ」

「そういう事だから、悪いねびっきー。この間言ってたOP狩りだけど、お前の頂戴するわ」

 杉花粉impactの配信画面では、貼り付けてあったプレイヤーリストの大半が既に消失していた。どうやらメンバーのIDか何かと紐付けしてあるのか、死んだメンバーの欄には大きなバツマークが付けられていた。

 僕が前で二人に喰らい付いて壁役となり、後方で山谷さんと勅使河原さんが遠距離からレーザーとスナイパーライフルで援護するが、べろさんのシールドシフトで全て防がれてしまい、体力値を一ミリも削る事ができない。

「マレーイさん、ネット設置してもらえる? 逃げ場なくしてこいつ等皆殺しにしようぜw」

 混乱する集団を取り囲むように、大外をぐるりと囲んで巨大な網が設置される。これは、電磁網か!? それも、尋常じゃない数が設置されて逃げ場が無い。このネットは破壊できず、時間経過で解除されるのだが、触れてしまうと一定時間動けなくなる感電状態になってしまう。

「マズイッ、全員ペナルティを喰らってもいい!! 今すぐ全員ログアウトしろッ!!」

 最初にそれに気づいて叫んだのは、杉花粉impactだった。

「あぁん? ワイは逃げるなんてごめんだねぇ…気に喰わないから全員ブチ殺しちゃる」

 やる気満々のReinに対して、それを杉花粉impactは必至で制止する。

「馬鹿野郎画面見ろッ!! アイツら逃げ場をなくしてジェノサイドボムを撃ち込むつもりだぞ!! アイツらはνアドンラスのシールドシフト内であればどんな攻撃でも無力化できるが、今生存しているメンツの中にアレを防げる手段は無い」


 ・ジェノサイドボム

 広範囲に敵味方関係ない、カス当たりで超威力、直撃で即死の爆風を巻き起こす爆弾。別名「核ミサイル」や「テポドン」と呼称される事が多い。


「その為のネットかッ!! 山谷さん、勅使河原さんのキャラを牽引して上からネットの判定を超えた所で飛び越えてくれ。逃げ場は上しかないが、あの高度を超えようとしたら並みのキャラじゃ届かない。山谷さんの浮遊型なら、イケるはずだ」

「それはいいけど……烏丸くんはどうするの?」

「俺は画面を見れない奴だから、ジェノサイドボムを撃たれる前に奴らを処理するか、最悪時間を稼ぐ。発射まで大分時間はある武器だし、硬直もクソ長いから、射撃武器で弾を送り込んで邪魔するだけで時間は稼げ…」

「それをさせないように俺が動くから、やるだけ無駄」

 いつの間にか、倉沼ソラオが一瞬で距離を詰めてメイスを振るって来た。間一髪それを回避するが、当然のように間合いを詰めて来て圧を掛けて来る。

 山谷さんは勅使河原さんのキャラを引っ張り上へと上昇して逃げようとするが、相手側のチームの人間がそれを阻止しようと二人掛かりで絡んでいる。

「浮遊型とかくっさいキャラで戦いやがってぇッ!! チー牛みたいな構成に俺は負けねえからな??」

(チー牛・三色チーズ牛丼やチーズ牛丼の略)

 れそPが二人を逃がすまいと食ってかかる。山谷さんも勅使河原さんを守りながらこのレベルの相手と戦うのはしんどいようで、いつもの立ち回りが出来ずに大分苦戦している。

「ジョン市とれそPはそのまま足止め、マレーイは撃てるようならジェノサイドボムを撃っていい」

 次第に焦りが募って行く。このままでは最悪の事態が想定される上に、大規模攻略は初手で計画が破綻したと言っていい。このまま素直に杉花粉impactの言う通り、ログアウトするのが一番安全なのだが、強敵を前にして逃げるのはゲーマーじゃ……いや、待て。別に、ここで無理して死んでしまっては元も子もない。確かに、今目の前に対峙するプレイヤーに勝ちたいとは思うが、それは最優先事項ではない。

 僕は、松谷さんの延命が最優先だったはずだ。こいつらに勝つ事や、裏世界攻略など二の次でいい。

「おい、全一ィッ!! ワイがタゲを引くから、その隙に暴れ散らかしたれ!!」

 意気揚々と突っ込む気満々のReinだが、ここは冷静に

「いや、普通に考えて、ここで逆張りは無い。素直に逃げるわ」

 想像していた返答とまるで異なる物に対して、唖然とするのが手に取るようにわかった。

「はぁ? お前そんなキャラやったんかぁ?? 何だか拍子抜けしたわぁ~…じゃあ、ワイもパスや」

 続々と生き残った連中はログアウトしていく中、目の前の奴は僕にログアウトする隙を一切与えない。何が何でもここで殺すと言う意思が立ち回りから感じ取れる。

「お仲間が勇気の切断して尻尾巻いて逃げてるけど、お前はいいのか?」

「逃げたいのは山々だが、お前逃がす気ねーだろ」

「当たり前だろ。雑魚の寿命は全て俺が頂く。さあ、行くぞ? どうやって殺して欲しい??」

 頭上から撃ち下しにめくりに急下降ジャンプ格闘を織り交ぜて、完全に視点カメラが破壊された。防戦一方で、じりじりとネットの方に押し込まれて行くが成す術が無い。

 おかしい、どんな状況にも対応できるように新しくキャラを作り上げたはずなのに、どうしてこうなるんだ?

「どうして? ってカンジの動きだな…そりゃあそうだろ。俺は相手と装備構築に合わせて動きも立ち回りも柔軟に変えてるんだ。相手の動きを見て、その次に自分がどう動いてどうすれば相手が嫌がるのか画面を見ながら考えてるんだから、画面見てないお前が敵う訳無いだろ雑魚」

 三バトを撃ち込んで応戦するが、全て弾は回避され、明後日の方向へ飛んで行く。

「そして、ホラァ…やっぱり画面見てない」

「ッ!??」

 べろさんが突っ込んでそのまま肉弾戦に発展する。苦し紛れにショップラを撃ち込むも、被弾する瞬間にシールドシフトに切り替えられ、何事もなかったかのようにアサルトシフトに切り替えて殴られ続け、僕の体力値は残り三分の一を切った。

「くそ、どうしてだ!? なんでこうなる??」

 そのままネットまで押し込まれ、ネットとキャラが接触した瞬間感電状態になり、この時死を覚悟した。

「びっきーさん!! 今の内にログアウトするんだ。早くッ!!」

 相手と僕の丁度間に割って入るように杉花粉impactが立ち回る。さすがの体力値と装甲ガン盛りキャラに対しては時間をかけて倒すしか無いので、相手の攻勢は一瞬ゆるみを見せた。

「あっ…けど、杉花粉impactさんは……」

「このキャラの耐久なら棒立ちでログアウトしても大丈夫だから!!」

「じゃあ、ジェノサイドボム撃ちますね」

 マレーイの手から、巨大な弾頭のような物が放り投げられた。あまりにも馬鹿げたサイズだが、あれで手投げ武器の類と言うのだから馬鹿げている。

 あれが地面に付いた瞬間、僕達は文字通り人生の終焉を意味する。相手チームは全員べろさんのシールドシフトの範囲内に固まり、爆発の衝撃に備え、僕達を眺めながら嘲笑っていた。

 それは、愉悦。紛れもない勝利を確信した勝者の微笑み。

「ちっくしょぉおおおおおおお!!」

 勇気の切断。生まれて初めて、故意に切断と言うマナー違反を行った。

 ジェノサイドボムに被弾する前に、無事にログアウトできたらしく、身体のどこにも異常はみられない。

 屈辱。こんな負け犬同然の切断など、二度とするものかと心に誓う。その為には、今より強くなって全てをねじ伏せるPSを身につけなければならない。だが…

「どうすれば…強くなれるんだ……」

 いい訳になってしまうが、このところ負け続きでメンタルが弱っているのも確かだった。

「松谷さん…」

 口から自然と漏れた。もはや、唯一の心の拠り所と同時に戦う意味の全てだ。

 デスクトップには、再びゲノムにログインしようとしたら、切断行為のペナルティで72時間のログイン制限を喰らってインできなくなってしまった。

 深く、ゲーミングチェアに身を沈めて目を閉じる。とにかく、どっと疲れが押し寄せて今すぐ眠りにつきたい気分だった。



 こうして、大規模固定攻略は記念すべき第一歩目で躓き、攻略は頓挫。そして、悪い流れは続き、僕達の署名活動も虚しく、勅使河原さんは学校を退学になってしまった。

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