電脳闘争録

気に喰わないヤツらは全員潰す
ジブリ神
ジブリ神

二十二話

公開日時: 2021年8月19日(木) 20:05
文字数:2,993

 衝撃的だった。きっかけは、友達がゲームで対戦しようと皆で友達の家に遊びに行った時だ。

 学校で大流行したゲーム、アーマードモンスター。モンスターを育成して、友達と交換したり戦わせるシステムが当時人気と話題を呼び、小学二年生だった僕はおろか、大人達も巻き込んで社会現象にまで発展した超人気タイトルだ。

 当時は僕も今みたいな陰キャゲームオタクなんて存在では無く、分け隔てなく皆と一緒に外で走り回ったりするヤンチャな年相応の子供だった。ある日、仲の良い友達グループ内で、誰が一番アーマードモンスターが強いか勝負しようと言う話になり、友達の家に皆で集まって対戦会を開くことになった。

 子供という事もあり、僕以外は全員かっこいいモンスターやお気に入りのモンスターを選択して戦わせていたが、僕は対人戦最強と名高いモンスターでパーティを埋め尽くした。

「なんだ、響のパーティ!?」

「キ、キモイ…」

 そこには、楽しむとか戦おうなどと生ぬるい次元のものではなく、一方的に相手に何もさせずに狩り殺すといった廃人と同等のそれを対戦会にブチまけた。思えば、既にこの時から相手を滅茶苦茶に破壊して悔しさと怒りに染まった顔を上から眺めて愉悦に浸るという性格の悪さが出来上がっていたと思う。

 そして、環境最強と言われたモンスターのオールスターを揃えたガチのパーティーに全員蹂躙される地獄の対戦会の構図が出来上がった。

 誰も僕を止められない。誰も僕に勝てない。連戦連勝の破竹の勢いで全員屠り、内心雑魚がよぉ! と、ほくそ笑んでいる時にそれは起こってしまった。

「ふざけんなよ、おまえさー…それは卑怯だぞ!」

 子供だからしょうがないと笑って流せるスキルを身に付けていればよかったのだが、生憎この時は僕も子供だった。強いモンスターを使ってはいけないなんてルールやレギュレーションは定められていなかったし、何より僕にとっては普通にゲームをしているだけなのに文句やイチャモンを付けられてはたまったもんじゃない。

「何が卑怯なんだよ? 対戦をして強い人を決めようって集まりじゃなかったの? そんなのただの負け惜しみじゃん」

「強いのばっかり集めて勝って、恥ずかしくないのかよー!」

「たかがゲームで本気になっても意味無いじゃん」

 確かに、友達は日本語を喋っていたが、僕には難解な暗号を解読するよりも訳が分からなかった。

 対戦。それは、ゲームといえど必然的に勝ち負けが存在する。ならば、負けるより勝ちたいと思う気持ちは、おかしい事なのだろうか? と、本気で疑問に思った。

 恥ずかしい? 勝者に対して、負け惜しみの罵倒にも取れる言葉を投げ付ける方が恥ずかしいんじゃないのか?

 たかがゲーム? じゃあ、何ならいいんだ? 教えてくれ。野球か? サッカー? それともバスケ? プロになって金を稼ぐなら話は別だが、そうじゃないだろ。その域を出ないなら、どんなに必死に練習しようが、努力しようが、身体を動かそうが、そこに優越なんて関係ない趣味の域だ。

「おい、なんとか言えよ!」

 バシッ!!

 負け込んで相当頭にキテいたのか、友達の一人が僕の持っていたゲーム機を叩き落した。顔真っ赤ここに極めりである。その瞬間、僕は我慢の限界を超えた。

 バキッ!

 思いっきり右手に力を込めて握りしめ、そのままゲーム機を叩き落した友達の顔面に右ストレートを叩き込むと同時に、叫んだ。

「じゃあ何に勝てばいいんだ? 喧嘩か!? 上等だよこの野郎ブッ殺してやる」

 僕も友達も流血騒ぎになり、先に手を出したのは僕だったので、後日お母さんと一緒に謝罪に伺って一件落着となった。

 手を出したのは確かに悪かったかもしれない。けど、僕は間違っていないと信じ込み、その気持ちに比例するようにゲームにのめり込んでいった。そして、歳を重ねる毎に皆は部活で活躍したり、大会に出て結果を残す中で、僕だけがゲームをして遊んでいた。

「おい、見ろよ。アイツまだゲームなんかで遊んでるぜ?」

「教室の隅っこでキモイよね~。陰キャゲームオタクってカンジじゃん」

 そんな陰口を叩かれる毎日だったので、じゃあお前らが部活の大会で結果を出すように、僕も大会に出て結果を出せば文句は無いんだな? と、今一番やり込んでいるゲーム「ゲノムリンク」のオフライン全国大会が開かれる事を知って、参加した。

「気に喰わない」

 対戦相手を潰しても潰しても、対戦が終われば皆笑顔で口をそろえて「対戦ありがとうございました」と、まるで営業のように口を開いて消えて行く。なんで笑顔なんだ? 対戦なんだろ? そこは、負けて悔しくて顔真っ赤になって次は殺す。じゃないのか? 悔し涙を流して挨拶なんかしないでシカトして殺意を磨けよ。

「気に喰わない」

 お前ら本気でやってんのかよ? そんなんだから、ゲームなんかって言われて、見下されて、馬鹿にされる。高校一年生なんか、お前らに比べたらガキだろ? 悔しくないのかよ!?

「気に喰わない」

 そして、名ばかりの強豪達を全て蹴散らして、全国一位に輝いても、その景色は教室の隅で陰口を叩かれる景色と何も変わりはしなかった。その瞬間、僕は理解した。この日本という国において、ゲームという競技はサッカーやバスケ、野球に比べたら遥かにカースト最下層を彷徨う競技なのだと。

 ルールがプレイしている人間以外には難解な事この上なく、傍から見れば遊んでいるようにしか思えないからだ。野球やサッカーなんかと比べたら、あまりにもルールや知識が馴染み無く、浸透してない上にジャンルがいくつも枝分かれしている為、結果としてそう見られても仕方がない。

 嗚呼…僕が今までしてきた事は、無駄だった。あの時言われた「たかがゲームで本気になっても意味無いじゃん」が心に深く突き刺さった。そして、そのまま僕はゲームを辞めた。



「好きな物に優越なんて無い。川原くんはサッカー部で一生懸命努力して練習して上手くなったんだろうけど、ゲームだってサッカーと同じだよ。一生懸命考えて練習して、努力して調べてやっと上手になれるんだ。スポーツだからいい。ゲームだからダメなんて事は一切無い。好きな事に一生懸命打ち込んで頑張ってる人をキモオタだのゲームオタクなんて言って馬鹿にする輩は、私絶対に許さないし大ッ嫌い!!」



 だから、あの言葉は僕の心に深く突き刺さった棘のような物を綺麗に抜き取ってくれたんだ。分かってくれる人が居た。僕を再び対戦ゲームの世界に呼び戻し、情熱を注いでくれた。そして、対戦でそれに応えてくれた。松谷さんは、僕にとって……



「あっ…寝落ちしてた。今何時だぁ?」

 なんだか、長い夢を見ていたような気がする。

 時刻は日が傾きかけた夕方の17時。猿を討伐しておよそ14時間寝ていた事になる。通話アプリを見ると、勅使河原さんと山谷さんから計27件の着信履歴が画面に映し出され、連絡入れなきゃと通話ボタンにカーソルを合わせようとした時だった。

 ピンポーン! ピンポーン!

 インターホン? 来客かな? 母さん下に居るかな? あぁ…まだ眠いしだるいからスルーしようと考えていたら、どうやら母さんが対応してくれたようで、再び目を閉じようとした時に、玄関から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「オタクが死んでるかもしれねぇんです」

「あっ、あの…響、さんの様子を…」

 どわぁあああああああああ!! あの二人訪ねて来ちゃったの!? やべぇやべぇ部屋片づけないとあわわわわわわ。

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