電脳闘争録

気に喰わないヤツらは全員潰す
ジブリ神
ジブリ神

三十七話

公開日時: 2021年11月5日(金) 23:00
文字数:2,750

「はい、じゃあお願いします」

 電話を掛けた相手は秘密だが、これで勅使河原さんの件はどうなるか運否天賦に任せる事になりそうだ。少なくとも、このまま何もせず退学を待つよりはマシである。

 心なしか足取りも重くなり、さっきまで軽やかステップを刻んでいた男とは思えない変貌ぶりだ。こういう気分があまり優れない時は、エナジードリンク飲んでゲームするに限る。そうと決まれば、さっそくコンビニに行ってエナジードリンクとカロリーメイトのフルーツ味にたまごサンドを購入して、響セレクトの昼食コンボを決めるとしよう。

「あっ」

「おっ」

 なんという偶然。あれだけ電話を掛けても、メッセージを入れても反応が無かった勅使河原さんと偶然ばったりコンビニの前で出会ってしまった。

「勅使河原さん! あの…」

 そこまで口にして、気が付いた。勅使河原さんの目が真っ赤で、女心のお気持ち表明に鈍い僕でも理解できた。泣いてたのか、AC6の発売情報が流れて来て感激して号泣していたかのどちらかだろう。

「オタク……その…」

 こういう時の最適解は全く分からないが、人間気分が落ち込んだら対戦ゲームで相手をボコボコにしてストレス解消するか、美味いモノを喰って元気を出すかのどちらかだ。女心は知らないが、性別以前に一人の人間なのだ。よって、自分が落ち込んでる時にやる事をそのまま相手に押し付ければとりあえずなんとかなるんじゃないか理論に基づき行動してみる。え? だから、リアルでもゲームでもコミュ障って言われる? うっせぇわ。

「勅使河原さんお昼食べた?」

「…え? まだだけどぉ…」

「じゃあ食べに行こうよ。僕がごちそうするから」

 こうしていきなり始まった勅使河原さんとのタイマンランチだが、ぶっちゃけ女の子と行くような飲食店など僕は知らない。

「ぶっちゃけていいかな?」

「ん? どしたー?」

「女の子と一緒に行く飲食店を僕は知らないから、勅使河原さんの行きたい店教えてよ」

 すると、勅使河原さんはぷっと吹き出し

「あはは、そーかそーか。オタクはそういう経験無いのか! ウチはマックドバガリアンでいいよ。期間限定のムーンギャラクシーバーガー食べようぜっ!」

 女の子と一緒に行くお店はマドバでいいのかぁ…なるほどね。メモメモ。

「つか、オタク! その物々しい袋は何が入ってるん?」

「これ? 三連フットペダルとhitbox」

「ぎゃははw 全然わかんねぇ~…それどうやって使うん?」

「え? ゲームだよ。手と足で動かすコントローラーって言えばいいのかな? ロボットの操縦桿みたいにするんだよ」

 ぐわんぐわんと、身振り手振りでどうやって使うのかジェスチャーで大袈裟に説明しながら、三連フットペダルとhitboxについてこれでもかと語ると、勅使河原さんは笑いながら口を開いた。

「あはは、オタク! お前の夢は将来ロボットのパイロットでもなるのかよ~」

 夢……夢? 将来の事とか、家族から進学か就職かくらいは決めておけって言われてたっけ。僕は、将来どんな人間になりたいかとか、どんな道を進むのかなんて想像もできない。周りは、漠然とでいいから考えろなんて言うけれど、それこそ自分の生きる道を漠然と舵を切って進んでいいのかも分からない。

「夢…かぁ。正直、どうしていいのかなんて分からないよね。周りは早く考えろなんて言うけど…」

 そこまで言って、しまった! と、後悔したがもう遅かった。隣を歩く勅使河原さんの表情はどんより曇ったかと思えば、ぽろぽろと涙が零れた。

「ウチね…メッセでも言ったんだけど、退学になるかもしれないんだ…なぁ、オタク…ウチ、これからどうすればいいのかなぁ? 全然わかんないし、これからの事を考えると不安で…」

 わっと泣き出してしまった勅使河原さんだが、知らない人がこの光景を見ると僕が女の子を泣かせた最低クソ野郎に捉えられる事は間違いないので、慌ててフォローを入れようとしたが僕も将来の事なんて何も分からない。だから、ここでも僕は何も言えなかった。

 どうして僕は、女の子が苦しんでる時に何も言えないんだろう? 松谷さんの時もそうだった。結局、僕はただその光景を眺めている事しかできない。けど、今回もそんな事でウジウジするのは嫌だったから、とにかく必死にクソみたいな思考回路から言葉を捻りだして口を開いた。

「とにかくご飯食べて元気出そうよ。それに、確実に退学になるって決まった訳じゃ無いし決めつけるのはまだ早いよ」

 そうだ、まだ逆転の手は残っている。ここで諦めて腐るのは、勝ち筋があるのに勝負を捨てて降参を選ぶのと同義だ。

 このままお店には入れないので、自販機でエナジードリンクを購入して勅使河原さんに渡してあげる。

「はい、これ飲んで落ち着きなよ」

「うぅ…オタクぅ……ありが…って、おめぇコレエナジードリンクじゃん!?」

 と、なんだかんだ文句を言いながらエナジードリンクを飲み干す勅使河原さん。

「こういう時は水かお茶でいゲーップ」

「………」

「………」

「………次からは水かお茶にしとくよ」

「そうだぞ! そうしないとゲップが出ちゃうんだからなっ! 次の被害者を出す前に悔い改めろオタクぅ~ッ!!」

 二人でケタケタと笑い合い、マドバに入り注文を済ませてお互い席に着いた所で本題を切り出した。

「勅使河原さん今夜空いてる?」

「オタク、悪いがウチらはまだそこまでの段階は踏んでいない。がっつきすぎる男は嫌われるぞ?」

「え?」

「え?」

「いや、そうじゃなくて…今夜逆転の一手を打つために協力して欲しいんだ。上手くいけば、退学は回避できるかもしれない」

「どういう事だ?」

 身を乗り出して食いついて来た勅使河原さん。

「炎上したキッカケがSNSでの晒しなら、鎮火するのもSNSの力を使う。ちゃんと事情を話して説明して謝罪した上で、署名活動を行い退学を回避させる」

「それ、ウチらだけじゃ無理だろ…知り合いにSNSに強い人間も、有名な人間も居ないんだ。オタクやウチの力じゃ…」

 ポテトをお互い貪りながら、期間限定のムーンギャラクシーバーガーを頬張ってマドバシェイクを飲む。冷たく、ザラザラしたシャーベットが喉を通り、お口すっきり爽やかな甘さが心地よい。

「この件に関しては、もう一人の人間の力を借りる。そいつに謝罪動画……なんなら生配信でもいい。そこで、詳しく事情説明して謝罪をする。さらに、ネットで退学回避の為の署名活動もそこで呼びかけてもらう」

「もう一人って、誰の事なんー?」

「ある程度知名度があって有名実況配信者で、この件の当事者でもあるアイツだ」

「それってまさか…」

「そう、杉花粉impact。実は、もう電話で訳を話して協力してくれるって。あとは、勅使河原さん次第なんだけど、どうする?」

 ちょっとだけ考えて、勅使河原さんはこう答えた。

「やるに決まってるッショ!」

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