電脳闘争録

気に喰わないヤツらは全員潰す
ジブリ神
ジブリ神

三十一話

公開日時: 2021年9月6日(月) 20:05
文字数:2,810

「わぁお! 実物意外とイケメンじゃね?」

 実物の杉花粉impactが思ったよりイケメンで、ちょっとだけテンションが上がる勅使河原さん。

「初めまして、僕が杉花粉impactです。いやぁ、皆さんお若いですねぇ」

「「「初めまして」」」

 僕達は、あれから杉花粉impactに連絡を取り、固定PTに参加したいと伝えた。何度か連絡を取っていると、僕達を邪魔するかのように通話にノイズが混じりはじめ、どうやってもまともに通話が出来なくなってしまったので、実際に会おうと言う事になった訳だ。所謂オフ会というやつなのだが、最初に杉花粉impactを見た勅使河原さんが言い放った言葉が

「アイツパネェ。5匹くらい変なのが纏わり付いてる。そりゃあ、通話にノイズが走る訳だ」

 と、いう訳だ。

 時間と場所は僕達が高校生という事もあり、一応社会人である杉花粉impactが融通を利かせてくれて近所のファミレスで待ち合わせになった。

 ヒソヒソと小声で、勅使河原さんが杉花粉impactに聞こえないように呟くように喋り始めた。

「アイツ、多分5匹くらい電脳怨霊討伐してるけど、本体の怨念を処理してないから、倒した奴らが全部アイツを依り代として憑いちゃってる」

 なるほど。席に案内され、各々席に付いて飲み物を注文していく。

 まじまじと杉花粉impactの表情を恐る恐る窺うが、目にクマができてるうえに、どことなく顔色も青く見える。勅使河原さんがイケメンと言ったが、僕には疲れ果てて幸の薄い男性に見える。確かに、顔立ちは配信で見るより映えてはいると思うが、イケメンと言うよりは幽鬼のような儚さを纏わせている雰囲気だ。

「あの…初対面でこんな事言うのは、ちょっと失礼かもしれないんですけど…ちゃんと寝れたりしてるんですか?」

「え? びっきーさんわかっちゃう? いやー、最近なんだか身体の調子がおかしくてねぇ…知らない人の怒鳴り声とか、頭痛に肩こりと部屋にポルターガイスト現象なんかが起きちゃって、ちょっと参ってるんですよ。アハハ」

 どうやら、相当参っているようで、折角のオフ会なのに全く覇気というか、元気が一ミリも感じられない。

「まず初めに話しておきたい事があるんですが」

 杉花粉impactの状態を見るに、なるべく早く憑いてるモノを祓った方がいいと判断した僕は、電脳怨霊について全ての情報を提供した。初めは半信半疑で聞いていた杉花粉impactだったが、どうやら思い当たる節があるらしく、話し終わる頃にはなるほどねぇと、自身に起きる怪奇現象にどこか納得したような様子だった。

「話は分かりました。ですが、電脳怨霊はゲーム内でないと消滅できないと言う事は、今私に憑いているモノは霊媒師か何かに依頼すれば祓えると…そういう認識で間違いないでしょうか?」

「ふふん! その為のウチですから、ご安心を!!」

 久しぶりの見せ場に、どこか勅使河原さんのテンションが高い。個人的には、彼女のテンションが高い時は大体何かやらかす兆候なので、ちょっぴり不安なのだが、ここは勅使河原さんに任せるしかない。

 ガサゴソと持参したバックの中から、御札が束ねられたハリセンのようなものをおもむろに取り出した勅使河原さん。

 え? なに!? それでなにすんの?? 殴ンの??

「じゃっ、イキまーす! 歯ァ食い縛れッ!!!」

「ちょちょっ!? ちょっとぉお!??」

 いきなり除霊ハリセンを両手で握りしめ、野球のバッティングフォームのように思いっきり杉花粉impactの顔面をブッ叩いた勅使河原さん。いや、マジで何してんの?? これには僕も山谷さんも度肝を抜かれ、慌てて止めに入るがもう遅い。ブッ叩かれた勢いでもんどりうって盛大に転倒する杉花粉impactに、更なる追撃を行う勅使河原さんは容赦無い。

「まず一匹!」

 パンッ! パンッ! ドパァアンッ!

「逃げんなコラァッ!!」

 ハリセンで杉花粉impactをどつきまわすその姿は鬼気迫るものがあり、止めに入ろうとした僕達も一瞬怖気づいてしまう程の迫力だ。除霊方法は予め聞いてはいたが、こうして実物を目の当たりにすると狂気を感じる。


 話を遡る事2時間前。

「じゃあ、杉花粉impactを除霊するかもしれないって事?」

 待ち合わせの場所に現れた私服姿の勅使河原さん。黒のオフショルに白のスキニーが自慢の金髪と相性が良く似合っていて、とても大人びた印象だ。ごめん、キモオタゲーマーのファッション知識ではこれが限界なんですユルシテ。とにかくギャルかわいいサイコーってカンジだ。

「マジやばたにえんの具合によるんだけどぉ? あのノイズの入り方だとそうなるかもしれない。そうなっとマジパネェカンジでやらないといけなくなる」

 なるほど。マジやばたにえんのパネェカンジで除霊すんのか。

「電脳怨霊はゲームの世界から出て来ないから、ゲーム内で除霊するしかねぇんだけどぉ? 現実世界に出て来たならもうコッチのモンじゃん」

「あっ…けどさぁ、なんか…幽霊のお気持ち的なのは、なだめながらするカンジ?」

「は? 事故とか事件でこの世に未練を残してるカンジなら、なだめたり優しくするけど。うーん、オタクの言葉を借りるなら、元は雑魚ゲーマーのなっさけないお気持ち表明なんだから、容赦なく消滅させるよ。問答無用!」


 いやー…しかし、これで本当に除霊できるのか不安なんだけど? 知らない人が見たら単純にDQNJKどきゅんじょしこうせいが男に暴行を働いているようにしか見えない。お店にも迷惑だからなるべく早くして欲しいというのが本音だ。

「シャッオラーッ!! あと一匹ッ!!」

 僕達はリアルでの霊感は皆無な為、勅使河原さんだけが何かを叩きつけている光景を漠然と見つめている。

 除霊と言うよりは、ゲームもリアルも要は「ブッ倒せば除霊」という力技でやるしかないらしい。結局、行きつく先は暴力。やはり暴力は全てを解決するという事だ。

 ちなみに、飲み物を持ってきた店員さんも何が起きているのか理解できず、僕らと一緒に固まっていると言う状態だ。他のお客さんも何事かと視線をこちらに向けている。

 ここで、僕は失敗したと悟った。ここまで激しくどつきまわすなら、場所は変えるべきだったと…

「うっし! やったぜ!!」

 ふぅーと、額の汗を拭いやりきった感を出す勅使河原さん。杉花粉impactは本当に何が起きたか理解できない表情をしていたが勅使河原さんの

 「どんなカンジー? 頭痛も肩こりも怒鳴り声もスッキリしたっしょ? これで、奇妙な怪奇現象も起きないと思うよー?」

 と、言う言葉を聞いて、初対面のイメージとは想像もつかない血色の良さで返事を返した。

「す、すごい! あれだけ体調が悪かったのが嘘みたいだ! すごい、ありがとうございます!!」

 涙を流して感激していた。よし、これでひとまず安心かな。

 注文の烏龍茶を飲み干して、一息ついた所で店員から

「お客様、大変申し訳ございませんが…他のお客様の迷惑になるので…」

 と、言われて僕達は出禁になった。

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