電脳闘争録

気に喰わないヤツらは全員潰す
ジブリ神
ジブリ神

五十三話

公開日時: 2023年1月23日(月) 20:46
文字数:4,042

 裏に飛んだ瞬間出待ち警戒をするが、そもそもリアルも大変な状況になっているのでアクティブなプレイヤーが大分少ないように感じた。凛とは……よし、大分近い位置に居る。これなら直ぐに合流して一直線にジャックポット塔を目指せる。

 スムーズに凛と合流。あとはジャックポット塔を目指すだけである。

「引き返すなら今の内だけど…」

「冗談。ウチはヤルって決めたんだから」

 しかし、最初こそ凛は勢いがあったものの塔が近づくにつれてどんどん口数が少なくなってきた。

「どうしたの?」

「なんか…やばい。楢崎美紅の怨霊は想像以上に力があって悪寒と吐き気が止まらない。何をどうしたら、こんな負の感情を撒き散らす事が出来るの? 人生で視て来た中で、間違いなく一番ヤバイ霊だと思う」

 凛の体調を気遣いながらも、ついに僕達はジャックポット塔の前までたどり着いた。

 高さは50メートル程だろうか? 石造りの何とも言えない寒気と例の紫色のモヤが外にまで溢れ出ている。その頂上にはとても大きい球体の何らかの装置が取り付けられているが、今の所はそれが何なのか確認できない。確か、階層は3階に分かれていたはずだ。一階と二階は超高難度ゲノムに挑むPvE。三回が楢崎美紅が居るであろう最終決戦の地だが…道中でチーム蛮族や山谷さんとの戦闘は避けられない。僕達は覚悟を決めて、いざ入り口を開けて攻略を開始しようと足を踏み出した瞬間、驚きの光景がそこには広がっていた。


「神の獣バルバギョロス討伐完了!」

・empero 【生存】

・Rein 【生存】

・倉沼ソラオ 【生存】

・べろさん 【状態異常 毒・麻痺・呪い】

・ジョン市 【状態異常 呪い】

・マレーイ 【状態異常 毒・麻痺・呪い】

・れそP 【生存】

・杉花粉impact 【死亡】

・びっきー 【生存】

・巣手頃リンちゃん 【生存】


「やっぱりよぉ! PvEだと退屈で眠くなっちまうんだわ!! 丁度いい眠気覚ましだ」

 乱戦混戦大乱闘。魑魅魍魎渦巻く血みどろの戦い。どうやら、塔に一番乗りしたチーム蛮族が待ち構えていたゲノムと戦闘。無事とは行かないまでも、討伐が完了した直後に第二の勢力、山谷さん達が乱入。そのまま勢いで戦闘開始。何食わぬ顔で大暴れしているReinはシンプルに強い奴と戦いに来ただけだろう。あいつだけは敵味方関係無く殺せる奴から殺しに行っている。現に、相性の良い重量キャラ使いの杉花粉impactが張り付かれて死んでいた。

「うほほほーいキンモチイィーン!!」

 うっとおしく立ち回るReinにレーザーとミサイルを撃ち込む山谷さんだが、あまりの速さにそれらは全て振り切られ、お返しとばかりにショットガンとパルスガンで執拗に纏わり付き、蝿のように舞い蝿のように相手を馬鹿にする立ち回りに山谷さんはキレ散らかしていた。

「邪魔なんだよ退け!!」

 そんなReinの立ち回りに呼応するかのように、れそPのキャノン中二がタゲを合わせて山谷さんに集中攻撃を繰り出している。

「チー牛がよぉっ!! キモチわりぃ構成しやがって死ね」

 この状況はめんどくさい立ち回りの山谷さんを墜とせるチャンスでもある…が、このまま山谷さんを倒してもチーム蛮族は全員が生存。ゲームバランスと戦力が圧倒的に蛮族に傾いてしまう。その状況は僕達にとっても好ましくない。よって、僕は毒麻痺で動けなくなっているべろさんに狙いを付ける。

 無傷で杉花粉impactを倒し、気持ち良さの絶頂に浸っていたReinも僕の意図を察してか、マレーイの方向にキャラを急激に切り返して狙いを付ける。

「うふふ…面白くなりそうな所から狙っちゃおう」

 混戦はさらに混沌へと導かれる。

 毒麻痺で全く身動きが取れないべろさんを瞬時に処し、Reinも同じようにマレーイを処す。それによって、ダンジョンメンバー一覧の状態が更新される。


・empero 【生存】

・Rein 【生存】

・倉沼ソラオ 【生存】

・べろさん 【死亡】

・ジョン市 【状態異常 呪い】

・マレーイ 【死亡】

・れそP 【生存】

・杉花粉impact 【死亡】

・びっきー 【生存】

・巣手頃リンちゃん 【生存】


 本来であれば、このメンバー一覧表は他のプレイヤーを助けたり、状態を確認する為やコミュニケーションや連携を図る為のものである。間違っても状態異常で動けない奴から殺していくような人道外れた使い方をする為では決してない。

「じゃあ、次ジョン市ね」

「k」

 まさに阿吽の呼吸。お互い申し合わせたように、僕とReinは状態異常で防御ステータスに異常を確認できるジョン市にタゲを合わせる。

「やめろー!! 死にたくなーい!!」


・ジョン市【死亡】


「あーあ、ひでぇ事しやがる。まるで悪魔みてぇな奴らだぜ」

「「お前が言うな」」

 悪魔の化身みたいなプレイヤーから悪魔呼ばわりは心底心外である。これは、文字通り生きるか死ぬかを賭けた対戦ゲームだ。この飢えたサバンナに等しい戦場で、弱さを見せた奴から死んで行くのだ。

 戦況は均衡状態という所だろうか? チーム蛮族は二名。除霊チームは僕と凛。復讐者山谷さんと、乱入者Rein。

「しょうもない相手としょうもない争いは避けるに限るわ。勝手に馬鹿同士戦ってて頂戴」

 これ以上付き合っていられないとばかりに、次の階層に歩みを進める山谷さん。彼女は戦いが目的ではなく、楢崎美紅が目当てなのでここで戦闘から逃げても問題は無い……が

「えwwwここで逃げる?wwwじゃあ、ワイの勝ちって事でwww」

「お前が一番面白そうだ。もうちょっと付き合えや雑魚」

「逃げるなぁー!! 卑怯者!!」

「さおりん、待って!!」

「チーズ牛丼は言う事やる事くっせぇなぁ」

 戦いが目的の戦闘狂共がそれをヨシとするはずが無く、ここぞとばかりに煽りを飛ばし、一部の人間はシャゲダンを披露する。基本的には、ランカーになれるくらいゲノムをやり込んでいる山谷さんもゲーマーなので、四名から繰り出される煽りに反応してしまう。

「そんなに死にたいのならブッ殺してやるわ!」

 怒り狂ったようにレーザーやミサイル、毒麻痺棘を四方八方に乱射するが、OP・ε-リンソディのキャンセルルートを駆使して、僕と倉沼ソラオは縦横無尽に駆け回り、そもそもReinには弾が当たらず、れそPは立ち回りで攻撃の当たらない位置を割り出し巧みに動く。

「ちょっと待てよ…?」

 ふと、何か思いついたように突然動きを止めるれそP。一人の不思議な行動に、その場に居た全員が回線落ちか? と、疑った。

「ここにいる人間は全員攻略目的ですよね? 最終層手前で気に喰わねぇ奴潰そうと争うならわかるんだけど、ここはまだ一層目でしょ? 取り敢えず二層目を攻略してから、潰しにかかればいいのでは? ここで不必要に数を減らして二層目で全滅なんて事になったら、目も当てられない」

「「「「「なるほどぉ~」」」」」

 確かにその通りだ。次が楢崎美紅の待つ最終層ならまだしも、まだ最初の層が終わったばかりである。殺し合うなら、次の層に待ち構えているゲノムを討伐してからでも遅くは無い。それに、この場に居る奴らは人間性が終わってはいるが、実力は超が付く程の腕前だ。はっきり言って、こいつらならPvEで誰も死ぬ姿が想像できないし負ける気がしない。

「ワイPvEはあんまり興味無いんだけど…」

「同感だけど、レア装備やゲノムがドロップするかもしれないだろ? まだ誰も所持してない装備とか、ゲーマー心がくすぐられるじゃん」

 とりあえず、さっきまでの殺意の嵐が噓のように鎮まり、和気あいあいと次の層に足を運ぶ。

「ねえ、じょ…さおりんは、本当に私の視る力が目的で友達ごっこしてたの?」

「そう言ったよね? 私の目的は美紅と彼女を殺害した犯人を捜すためよ」

 男達のやかましく馬鹿なノリとは裏腹に、女の子同士の冷戦が幕を開けそうでヒヤヒヤしながら聞き耳を立てる。

「だーかーらー、この美しく敵を殺す事を集約したみたいな構成のキャノン中二が好きなんだって」

「速さ! 火力! インファイト!! イコール、キンモチィイイイー! ンホー!!」

「勝てるキャラを使いこなす職人だから、基本なんでもイケるぜ」

 温度差が激しすぎて具合が悪くなりそうだ…こうしてみると、マジで男と女は別の生き物なんだなと実感する。信じられねぇ…こいつら、さっきまで殺し合ってたんだよな?? やっぱり頭のネジが外れてやがる。

 そして、長い階段を上りきった先に円形の広いフィールドが姿を現した。壁ありの遮蔽物は無し…うん、これくらい広ければ、ストレスは感じなさそうだ。全員おしゃべりは一旦やめて、臨戦態勢を取る。


「心の深淵を司るゲノム Lv-」

【耐久値 1 状態異常 剛健】


 フィールドの中心には、赤く、刺々しい透明のクラゲのようなフォルムのゲノムが空中に漂っていた。その身体をすっぽりと丸い球体の中に収め、呑気に浮いているだけ。なんとも不思議かつ極めて異質なゲノムだ。レベル表記が無く、体力も1だけ。寸命劇薬渇望みたいな極限状態で立ち回る敵なのかもしれない。状態異常、剛健なんてモノは今までお目にかかった事が無い。

 他の皆も僕と似たようなリアクションを取っている。さて、どうするかとお互い顔を合わせた時に、ヘルプマークが画面に現れ、クリックしてみると…


 状態異常 剛健 とは、あらゆる攻撃や状態異常を無効化する状態の事です。ゲノム化やOPの攻撃すらも無力化します。解除には、ダンジョンメンバーが最後の一名になるか、現在生存しているプレイヤーの半数が死亡したら剛健は解除されます。回線落ちやログアウトは死亡扱いになります。つまり、心の深淵を司るゲノムを倒すには、如何なる方法を使ってでもメンバーを半分以下にするしか方法はありません。


 普通なら、これまで死線を潜り向け、信頼し合う歴戦の戦友フレンドを仲間同士で殺し合い、泣いて叫んで絶望的な状況のイベントになるのだが、ここに居る半分以上の連中が手間が省けて丁度良かったと呟いた。

 PvEの皮を被ったPvPである。どうあがいても、最低三人はここで命尽き果てる絶望の乱戦が再び幕を開けた。

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