電脳闘争録

気に喰わないヤツらは全員潰す
ジブリ神
ジブリ神

五十二話

公開日時: 2023年1月17日(火) 21:36
文字数:2,943

 やっぱり、山谷さんも掴んでいた。いや、むしろ僕達が気付くずっと前から楢崎美紅の事と彼女を殺した犯人を追っていたのだから、当然と言えば当然だろう。

 では、何故今まで黙っていたんだ? やりようなら、いくらでもあった筈だし…まさか

「最初から機会を伺っていた? おかしいと思ってた。勅使河原さんより遥かに実力が勝るのに、助手と言われ下に付くその立ち振る舞い。初めは、友達同士でゲームを楽しむ位の仲なんだと勘違いしてた。本当の目的は、勅使河原さんの視える力や一派の情報や除霊能力。それで楢崎美紅の場所を掴んで接触できれば自ずと犯人の手がかりも掴める……利用していたな、勅使河原さんをッ!!」

「噓でしょ…助手が、さおりんが…だって、ズッ友だって」

「どうでもいい」

 一蹴。その一言の重さは、どんな言葉で取り繕っても隠せない本心。それ故に、突き刺さる。心に、深く。

「勅使河原一派が逃げ道を塞ぐ。美紅を狙うキモオタも動けない。後は塔に行って美紅に会えさえすれば………もう少しで、全部終わる。他の邪魔してくるゲーマーも全部潰す」

「そんな事して、本当に楢崎美紅は喜ぶのか? 彼女がそうしてくださいって、言ったのか?」

 その言葉を聞いた途端、山谷さんはお腹を押さえて涙が出るくらい屈託なく笑った。

「あはははは。じゃあ逆に聞くけど、松谷さんはお前に助けてくれ。延命して下さいってお願いしたの?」

 言われてない。100%僕の意思であって、松谷さんの意思とは無関係である。

「頼んでないでしょ? 所詮自己満足の為だよね? 人間なんて自己満足でやりたい事やって生きて行くのよ。どんなことであれ、善か悪かは関係ない。それを成し遂げなければ先に進めない事だってある。オナニー貫き通して、やりたいように生きるのが私。その過程で人とぶつかれば、自分のわがままを押し通す。それが、私という人間の戦いでもあり、強さでもある」

「気に喰わねぇ」

「はあ?」

 心底不快そうな顔で睨みつけて来る山谷さんは、まるで汚物を見ているかような視線を突きさして来る。

「それって結局対戦ゲームで勝つ事は目的じゃなくて、手段って事でしょ? 大層な御託並べても、それじゃ本物の頭のネジが外れた奴らに勝てないよ。僕含めてね」

「だから? 本当にどうでもいいわ。もうアンタに構ってられないのよ、コッチは。今から裏に侵入するけど、向こうではもう敵同士ね。邪魔するなら、潰すから」

「それはこっちも同じだ。気に喰わないヤツらは全員潰す」

 そう言って、山谷さんは裏へと座標を合わせてテレポートを開始した。

 それに比べて僕は山谷さんの放った毒麻痺棘のおかげで未だに動けず、地べたに這いつくばって解除されるのを待つしかできない。

 チーム蛮族に山谷さん。すでに先を越されているが、どうする事もできないので後ろで頑張ってくれている勅使河原さんの方に視線を向けると、ちょうど除霊にひと段落ついたようだった。

 とても疲れているようで、息を切らしながら床に四つん這いになっている。

「頑張ったんだけどなぁー」

「うん、ありがとう勅使河原さん。すごく助かった」

 そう言って手を差し出す。

「違う! そうじゃない!!」

 差し出した手をはらわれた。意外な反応に困惑しつつも、勅使河原さんの目には涙が流れていた。女の子の涙にオタクは弱いので、心臓が跳ね上がり心拍数が上昇して息苦しい。どうしよう、僕のせいで泣かせちゃったのかもしれない。

「響はさぁ、ウチがスクールカースト上位のイケイケ陽キャのギャルだって思ってるでしょ?」

「うん、そうだと思ってるけど……違うの?」

 そう言うと、スマホを取り出し画面を器用になぞり、ある一枚の写真を僕に見せてくれた。

 画面には、卒業式の写真だろうか? 自武李中学校卒業式と書かれた看板が校門に立てかけられ、黒髪メガネのおさげヘアーの女の子が卒業証書を真顔で持っている写真だった。見るからに根暗で、図書館の隅っこで一人で本を読んでいそうなイメージだ。

「これは?」

「中学生のウチ」

 はぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!??? 嘘でしょ?? だって、あまりにも目の前のギャルとは違い過ぎるというか、別人というか…

「実はね、中学生の頃はこんなだったし霊は視えるし、今でこそ慣れたけど、最初はすっごく怖かったの。そのおかげで普段から挙動不審になるし、友達はできないし、中学の時は我ながら暗い青春時代をすごしたんだわ」

 意外過ぎる。勅使河原さんにそんな過去があっただなんて。

「だから、高校生になったらそんな自分とおさらばしようと、頑張ってデビューしたんだけど、最初は上手くいかなくて、そんな中初めて出来た友達がさおりんだった」

 けど…と、小さく震えた声で言葉を続けた。

「初めから、利用する為に近づいたんだね。友達だと思ってたのは、私だけだった…一緒にオカルト研究部を作ろうって、言ったのも全部…全部ッ!! この力を利用する為に!!」

 わあああと、今までの思い出を全て忘却するかの如く、勅使河原さんは大声で泣いた。

 こんな時の対処法を僕は知っている。

「すぐ戻るね」

 そう言い残し、台所に足を運んで空いたペットボトルに水を入れて部屋に戻る。

「はいこれ。こういう時は、水かお茶でいいんでしょ?」

 それを聞いた勅使河原さんは、わあわあと泣きながら抱き付いて来た。とりあえず泣き止むまで頭を撫でて抱きしめればいいんだろうけど、残念ながらそんなイケメンムーヴをしている時間は無い。

「勅使河原さん、よく聞いて。これから僕は裏で頭のネジが外れた奴らと何戦と戦わなくちゃならないんだ。時間が無いけど、これだけは言わせて。山谷さんだけが友達じゃない…僕なんかでいいなら、いくらでも付き合うし彼氏にだってなるから、そんなに悲しまないで…」

 言ってしまった。正直、あの時の返事を返すなら今しかなかった。だって、これから裏で待ち構えるのは間違いなく現環境最強かつ最凶最悪の奴らだ。必ず勝てる保証は無いし呆気なく負けて死ぬかもしれないから。

「じゃあ、もう戦わなくていいじゃん! せっかくウチの彼氏になったのに、いきなり死ぬとか耐えらんない。それに、響が戦い続けるのって、結局は松谷雪の為でしょ? もうやめようよ…」

「違う、そうじゃない。そうじゃないんだ…あれだけ煽られ、苦汁を飲まされ、それでも勝てない相手に負けたままでなんていられない。だって、僕は対戦ゲーマーなんだから」

 そうだ、奴らに負けたままだなんて悔しくて死んでも死にきれない。どっちが強いのか「理解」させないと。

「じゃあ、ウチも裏に行って響を支える。だって、付き合ってるんだもん。それくらいはさせて欲しい。それに、まださおりんと話したい事もあるから」

 凛の覚悟は固いようだった。

「でも、その前に…」

 凛は両手で僕の顔を掴んで勢いに任せて唇を奪う。しばらく濃厚なキスを交わした後に、生きて帰ったら今度は響からしてよね。と、言ってくれた。居間にあるPCから凛はログインする事にして、山谷さんから受けた状態異常も完治して準備を整え、座標を裏に合わせてテレポートで侵入。

 おそらくこれが、裏を巡る最後の戦いになるだろう。だが、知る由もなかった。全員が笑って大団円を迎える結末など、どこにもない事を。

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