どうすればいいのか全くわからなかった。
今までゲームしか取り柄の無いオタクがこういう場面に直面した時は、自分で絶望さえ覚える無力っぷりに吐き気がする。
僕が松谷さんのドナーになる事も考えたが、病院の先生から検査をしてもらった結果、心臓の相性はあまり良くないらしい。
八方塞がりでふさぎ込む毎日だったが、こんな状況でも人間腹は減るらしく、リビングでご飯を食べている時だった。
「全国各地で突如部屋で変死するという…」
たまたまニュースで流れて来たその情報に、僕は目を疑った。アナウンサーが冷静に記事を伝えているが、そんなものは右から左に聞き流し、自室へと駆けこみゲノムリンクを起動する。
「どういう事だ? ゲノムリンクをプレイしたプレイヤーが続々と変死してるって…」
最近松谷さんの事もあって、暫くプレイしていなかったのだが、どうやら超大規模アップデートが実装されたようで、その項目を一通り目を通したのだが、意味が分からない項目がいくつもあり、正直理解できない内容が殆どだった。
「裏世界の実装、奪命システムの導入…ジャックポット塔? 訳がわからん」
要約すると、裏世界という今までとは概念の異なる領地・世界の実装。奪命システムとは、裏世界で倒したプレイヤーの寿命の半分を得る。寿命は経験値と財産共有扱い。そして、ジャックポット塔は超超超高難度ダンジョンで、今まで裏世界で死んだプレイヤーの半分の寿命がこのジャックポット塔に貯蓄され、クリアーしたプレイヤーに貯蓄されたすべての寿命が手に入るという事だが、ここまで大規模なものになると最早別ゲーの意味合いが強い。
「あ? 裏世界は実力のあるプレイヤーに発行される通行許可証が必要? 無くても裏世界に行ける事はできるが非推奨って、うーん…よくわからん。とりあえずINしてみるか」
ゲノムにログインした瞬間、一通のゲーム内メールが届いた。
件名
通行許可証
本文
貴方は裏世界探索に適した実力と判断した為、通行許可証を発行します。なお、裏世界ではキャラクターが死亡した場合は現実の肉体も同時に死亡します。その代わり、奪った寿命で自らの寿命を延ばしたり、他人に譲渡する事ができます。譲渡できるのはゲノムプレイヤーのみとなります。
「は?」
思わず変な声が出ちゃったが、そんな事はどうでもいい。なんだこれは…タチの悪い冗談なのかと考えたが、エイプリルフールイベントには早すぎる。とにかく情報が欲しい。ニュースの事もあるし、掲示板に動画サイト、フレンドに聞き込みをしようとコミュニケーション欄のメニューを開いた時、信じられない光景が表示されていた。
・火力全凸委員会「死亡」
・野生の脳筋ゴリラ「しばらくINしてません」
・ライララララ「死亡」
・DX08号「裏世界で交戦中」
・キリントグリント「死亡」
・第一村人邂逅「死亡」
・国士無双「死亡」
・Alex「死亡」
・1919810「死亡」
・現場犬「死亡」
・K「死亡」
「嘘だろおい……そんな、馬鹿なことが…」
通話アプリで松谷さんを除く全フレンドに個別に通話をかけてみたが、誰一人通話に出ない。今の時刻はゴールデンタイムという事もあり、これだけ当たればいつもなら誰かしら引っ掛かるのだが、誰も出ないと言う事は、おそらく…
次第にマウスを動かす速度とキーボードを叩く手がせわしなくなってきているが気にしている余裕はない。
次に、掲示板に目を通してみると、そこには今欲しい情報が大体揃っていた。
裏世界でリアフレとプレイしてたら死んだ瞬間現実の方も突然倒れて死んだから、これは夢じゃない。現実だ。とか、なんでこんなアプデしたんだ? というか技術的にどうやってんだ? とか、これだけ騒がれてるのにサーバーもゲームも閉鎖しないで通常運転なの闇の力を感じる。今の裏世界でプレイしてんのはイカれたプレイヤーか寿命が欲しい不老不死目当てのヤツ……あとは、身近に病気か何かで救いたいって思う人間が居る奴だけだろ。など、様々な書き込みがあったが、特に目を惹いたのが「本当に寿命が延びたかもしれない…今夜がヤマだと宣告された病気のプレイヤーに寿命を受け渡したら、もう二週間も生きてるんだ。奇跡でもなんでもいい、俺は今も病気と闘っているフレンドの為に裏世界で共に戦う」これだった。
八方塞がりでドン詰まっていた僕にとって、その情報は藁にも縋る思いで食い入るように見つめた。信憑性など、ネットの掲示板という事で皆無だが、今の状況で僕が出来る事といえば、これぐらいだった。
「本当に寿命が延びるなら…」
思わず呟いてしまう。
「やってやる! 雪にドナーが見つかって、健康になるまで寿命を奪って奪って奪いまくって、生き延びてやる。俺は強い、俺は死なない、俺はゲノム全一だッ!!」
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