この二十九話のみ、一人称視点が主人公・烏丸響から楢崎美紅に変わります。
彼女は重要なキャラクターなので、あえて番外編とタイトルに付けさせて頂きました。読んでも読まなくても本編に支障はありませんが、読んでいただくとより一層物語が楽しめます。
また、この二十九話には、残酷な描写が出て来ます。そういった表現が苦手な方はご注意下さい。
「はぁ~…どうしてこうなっちゃったの? 私は、ただ楽しくゲームがしたかっただけなのに」
スマホの画面には、溢れんばかりの暴言や誹謗中傷が埋め尽くされて表示される。スイスイ指で画面をスワイプしていくが、SNSの私のアカウントにはこれでもかと言う量の心無いお気持ち表明が上から下へと流れて行く。
きっかけは、友達の山谷沙織、通称さおりんとゲームをしている時だった。たまたま仲のいいチームの人達が、VCで喋りながらプレイしませんか? と、誘ってくれたのが間違いなくターニングポイントだったと思う。
さおりんはVCはちょっと…と、遠慮していたが、折角そういう機能があるのだから、使って見知らぬ人達と楽しくプレイしたいと私は深く考えず、そのままチームの人達とお話してみる事にした。
この時、もっと深く考えるべきだったのだ。JK(女子高生)が、正確には、女性が軽々しく民度がお世辞にもよろしくないゲームで、見知らぬ男とVCを繋いで喋る危険性というものについて。
「もしもーし」
まぁ、当然相手は男の人だよね。ちょっとだけ、相手が女の子なんじゃないかって淡い期待を抱いたけど、そりゃあこんなグロテスクでグッちゃグチャに血まみれで戦う対戦ゲームを好んでプレイする女の子なんか、そうそう居ないよね。そう考えると、女の子のゲーマーはこのゲームだと珍しいのかな?
「も、もしもし? 初めましてー」
第一声。思えば、この時からちょっと周りのテンションというか、ノリが現実世界の男友達とちょっと違うかな? って違和感は感じていた。だって、いくらネットで初対面といっても、挨拶すっ飛ばしていきなり「うひょwww女の子のプレイヤーはwwwゲノムで初めて見たわwww」とか「え? マジ女の子じゃん。可愛い? 顔晒して」みたいな事を冗談ではなく真面目に言ってくる。
いや、距離の詰め方おかしいでしょ!! なんでいきなり見ず知らずの男に顔晒さないといけないんですか!? 酔ってる訳でもシラフでもないのにこれかい!!
「じゃあね、お近づきの印にコレあげるよ」
「あっ、じゃあ僕もこれあげる」
そう言って、彼らは希少なアイテムや装備をプレゼントしてくれた。この時の印象は、ちょっとコミュニケーション取るのが下手な、根は良い人達なのかなって感じていたが、その印象は後々盛大にひっくり返される事になる。
彼らとしばらくゲームをプレイしていて判明したのだが、どうやら私がゲノムにINするとわかるログイン機能を利用しているようで、私がログインすると何処に居てもどんな所で戦闘の最中だろうと2分以内で集まって速攻で私の周りに寄って来る。正直な気持ち、かったるい上に私の言葉はチームの方針と勘違いされるくらい、彼らは私にべったり寄って来て常に自分の事を認めてもらおうと承認欲求と下心丸出しの内面をアピールしてくる。
はっきり言って気持ち悪い。私は、ただ楽しくゲームがしたいだけなのに、全然楽しくない。
確かに、ゲーム内で知り合ってそのままお付き合いの末に結婚なんて話も聞いた事くらいはあるが、そんなの稀の稀で夢のような確率。ゲームで出会いを求めること自体が、根本的な間違い。
そういう出会いを求めるなら、素直に出会い系に登録しろ。顔に自信が無いとか、リアルの女はビッチとか意味不明な言語を発する暇があるなら、まずはまともな常識とコミュニケーション能力を身に付けろ。そこでようやく、スタートラインに立てるんだ。百歩譲って常識とコミュニケーション能力を身に付けたとしても、探すならこんな血みどろ肥溜めの民度最悪の対人ゲーより、SFとかファンタジー風のゲームの方が女性プレイヤーは多いから、そういうの求めるならそっち行け。な?
こういう、所謂オタサーの姫的なポジションを求めてゲームをする子も実際は居たりするが、私はそんなの求めてないと、さおりんやチームリーダーに相談した事もあるが、彼らのつきまとい行為は衰えないどころか、ますます勢いを増してそろそろうんざりしてきた。
「姫! 何か欲しいアイテムない? 俺と獲りに行こうぜ!」
「姫! 欲しいって言ってたゲノムが生息するエリア領地とチーム潰して縄張りにしておいたから、僕とプライベートハンティングしよう!」
いつの間にかあだ名が姫になってた。死ね。
なんだろう? プライベートハンティングって…私がゲノムを狩るから、僕は姫を狩っちゃうゾ☆ 的な? やばい、意味わかんない生物とコミュニケーション取ってると、こっちの頭まで意味不明な思考回路になってしまう。
「ってか、そのゲノムもう俺が捕獲しておいたから、そんなのに行く必要ないよ。ハイ、姫にあげる」
もはや、自分で努力して目標に向かう事すら出来なくなってしまったこの状況は、ゲームの楽しさを損なっている。
「は? お前、領地戦の時顔出さないと思ったら、コソコソと泥棒みたいな事してたのか? この根暗野郎」
「あ? んだお前?? 住所特定して晒すぞ??」
いつの間にか、まとわりつく彼らの間で私を巡って戦争が勃発していた。勝った方が姫を手に入れられるとか言ってて、私の意見をガン無視して承認欲求満たそうとしてるのがそもそもコミュ障って言ってんの。
そんな状況なので、当然チーム活動に支障をきたす。そんな状況にうんざりしたまともな思考回路のプレイヤーはどんどんチームから抜けて行き、抜けて行った元チームメンバーの人達からは、アイツが原因でチームが崩壊したと恨まれた。
私は悪くないのに、理不尽に恨まれ、暴言を吐かれる辛さ。本当に、私は何もしていないのに…どうして? ただ、楽しくゲームがしたかっただけなのに!!
「姫姫姫!! あいつはクソで馬鹿で意地汚くて~」
「はぁ?? お前の住所ド田舎の電車は一時間に一本の癖にやかましいわ」
もうVCにも繋ぎたくないので、シカトしてゲームしててもチャットでいちいち絡んで来る上に超ウザい。別キャラ作ってチームから抜けても追いかけて来るし、ブロックしたらしたで「散々貢いだ挙句に捨てられた」とかSNSで拡散されて知らないプレイヤーからブッ叩かれる毎日。
ホント、ストレス溜まる……だから、今日はさおりんとカラオケでテンアゲして久しぶりに盛り上がって、ネットのいざこざを少しでも忘れる事ができた。くぅ~カラオケ最高!!
「今日はありがとう、さおりん!!」
「美紅が元気になれたなら、私はいつでも付き合うよ?」
久しぶりにガッツリオールして、二人共心地よい疲労と眠気と興奮で、イイカンジのテンションで帰路に着いている。
「マジでもう懲り懲り…あんなゲームというか、誰とでもVC繋ぐの止めるわ。その辺の立ち回りさおりん上手だよね~…私も見習おう」
「だって、見ず知らずの何考えてるかわかんない人と喋るの恐くない? 逆に誰とでも上手にコミュニケーション取れる美紅の方が凄いよ」
「あはは、現実じゃ余裕なんだけど、どうもネットの馬鹿相手だと上手くいかなかったんだよね。反省」
「ゲノムは面白いんだけど、民度悪いからね~…今度は別のオンラインゲームしようよ」
「心機一転して、それもイイかもねぇ~」
朝日が昇りかけ、街が息をして血液が巡る様に、静かに明るく照らされていく。おはよう、みんな。朝だよーって、叫びたくなるような気持ち良さだ。やらないけど…
「じゃあ、またね」
「うん、また遊びに行こう」
お互いあくびをして口元に手を当てるのを見て、私とさおりんはクスリと笑い合い帰路に着く。けど、久しぶりに楽しかったし、心の底から笑えたな。今度はショッピングとかも…
いきなり、後ろから羽交い絞めにされた。恐怖と混乱で頭の中が真っ白になり、大声で叫ぼうとしたら口を手で塞がれて、お腹を三回殴られた。
「ぐぅっ」
あまりの激痛にお腹を押さえて、膝から崩れ落ちて芋虫のように地面に這いつくばる。
「わぁ~リアルの姫かわいい~」
「そんな事言ってないで早く車に乗せろ」
この嫌でも神経を逆撫でするオタ声は…まさか、ネットのコミュ障共なの!?
「俺の住所特定スキルがこんな形で役立つとは、人生捨てたモンじゃないね」
そのまま二人組に腕と足を乱暴に捕まれ、予め用意されていたと車の後部座席に放り投げられて私はそのまま拉致された。
「いやっ…なにすんのよ! 離して、やめてよ!!」
ベタベタといやらしい手つきで胸や股を擦られる。気持ち悪く、背筋が凍り付くような不快感。必死に抵抗して暴れたり、叫んだりして助けを求めたが、そんなものは拉致られた車内で来る筈も無く、コミュ障達は「テンプレ構文乙」とか「叫んだり嫌がるのはそそる」なんて言ってきて私の持っていたカバンを力づくで奪い取った。
「スマホはっけーん」
「ちょっと!? 返してよぉ!!」
「うっせぇビッチ! 黙ってろ」
顔面に拳がめり込み、視界にチカチカと火花が飛んだ。口内がズキズキと痛み、血の味が口いっぱいに広がる。どうやら今ので口内を切ったようだ。
私が痛がり、苦しんでいる間にコミュ障の一人がスマフォを窓から投げ捨てて、これで助けも呼べなくなってしまった。
ガサゴソと遠慮無しにカバンの中身を漁るコミュ障。
「学生証はけーん!! へぇ~、姫のお名前は美紅ちゃんて言うんだぁ。さて、美紅ちゃんコレ見えるかなぁ~?」
おもむろに取り出したナイフを身体に突き付けられ、興奮した様子で、目の前の男は早口で喋り始めた。
「ひ、姫がわるいんだからねぼくの好意を無下にしてブロックしたり避けたり逃げたりするのは許さない。どれだけ貢いだと思ってるんだよふざけんな」
ブィーッビィッビリッ!
乱暴にシャツを引っ張られ、ナイフで切りつけられて無理矢理服を剥ぎ取られてしまった。反射的に身体を丸めて身を護るが、十六歳女子高生のそんな可愛らしい抵抗など、大の男の前ではほとんど意味を成さない。
「うひゃっ、うひゃひゃ? そんなポーズしちゃうと、お尻が無防備だお??」
スカートを切りつけられて無理矢理剥ぎ取られ、下着のゴムをナイフで切られて下半身が露わになる。
「さて、このナイフを性器に入れられるか僕の息子を入れるか選べ」
頬にピシャピシャとナイフの腹を押し付けられ、ひんやりとした感触が伝わり生きた心地がしなくなる。このままじゃ、無事では済まない。最悪、殺されるかもしれない。そう考えたら、自然と頬に涙が流れた。
恐れや恐怖によるものではない。こんな、こんな男達にネットでもリアルでも好き勝手される屈辱感に悔しさ、憎悪と恨めしい気持ちが入り混じった血の涙。全てを奪われ、人としての尊厳やプライドも何もかも捻り潰され、そんな状況なのに何もできない自分の弱さが憎い。
性行為の写真や動画も撮られた。
口に肉棒をねじ込まれ、腹を殴られ、顔を蹴られ、何回も体内に男の欲望を流し込まれた。そんな状況が一週間も続いたある日、耐えきれなくなった私は、舌を噛み切り自殺した。
私の死体は、どこかの建物の下に埋められた。
許せない……私、何かした? どうしてこうなっちゃったの? 許せない…ユルせなイ…ユルセナイ…ゲーマーなんか、最低の人種よ。滅ぼしてくれる…根絶やしにしてやる…駆逐してやる……電脳世界に巣食う奴らなど、皆殺しだ。手始めに、ゲノムリンクのキチガイコミュ障共から殺す…ころスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
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