電脳闘争録

気に喰わないヤツらは全員潰す
ジブリ神
ジブリ神

三十五話

公開日時: 2021年9月22日(水) 00:00
文字数:2,225

「退学って…どういう事だろう?」

 勅使河原さんから送られて来たメッセージはとても簡潔で、詳しい事が書かれていない。重大な事件の香りがしたので、とりあえず電話を入れてみるが……

「出ない。うー…ん、授業中って訳でも無いよなぁ。勅使河原さんと山谷さんにメッセージだけ入れておくか」

 ポチポチとスマホの液晶画面に指を滑らせて「大丈夫? とりあえず連絡下さい」と勅使河原さんに送り「勅使河原さんから退学になるかもって連絡が来たんだけど、何か知ってる?」と山谷さんに送っておいた。

 時計に視線を移すと、時刻は現在10時丁度。

 これなら、僕の新しいゲームスタイルを実現する為のお店が開店している頃合いだろうと、外出準備を始める。(三十三話参照)

 最近負け越しているし、こういう時は一旦ゲームから離れてメンタルリセットも大切だ。

 ハンガーラックに手を伸ばし、真っ黒のスキニーに真っ黒のシャツを着て、真っ黒なジャケットを着る訳が無いだろアホか! そんな二刀流の漆黒の剣士や暗い魂の黒騎士のファンでも無いので、普通に紺色のジーパンと首元に上品な網目の白ニットにテラードジャケットを羽織り、黒のレザーシューズを履いて烏丸流ファッションの出来上がり☆

 キモオタゲーマーだけど、服装や立ち振る舞いを他の致命的なセンスのオタクと一緒にされたくない一心で揃えた僕のリアルでの勝負服である。え? お前そんなにファッションに気を使う人間だったかだって?  うるせぇ、イイカンジのお高い服屋さんで一式店員さんに選んでもらったんだよ文句あるか?? お母さんの買って来たしまむらシリーズ一式でスキル【母の優しさ】を発動させるよりマシだろ?

 まぁ、キモオタゲーマーのファッション理論は置いておいて、本日のお目当ての品はフットペダルとゲーミングデスクの二品だ。

 フットペダルはただのシングルフットペダルではなく、スイッチが三つ横に並んでいる三連フットペダルだ。何故、フットペダルが必要かと言うと、倉沼ソラオの視点でキャンセルルートをリプレイを見て思った事は「指とボタンが足りない」だった。複雑かつ繊細な操作をテンポ良く如何に高速で繰り出せるかがキモなのだが、僕のパッド操作では正直あの精度の高さと速さは出せないと悟った。だが、できないから諦めるではゲームの楽しみを損なっていると、僕は考える。できないならば、できるように発想や考え方を変えるのも一つの方法であり、そのできない現状を打破するのが、三連フットペダルと言う訳だ。

 ボタン設定で攻撃系統の操作をパッドに割り振り、他の移動系統のボタンをフットペダルに割り振る事で、ボタンと指が足りない問題を解決できるという素晴らしい発想だ。

 そして、フットペダルを使うにあたり、僕の使っているデスクでは少々高さが高すぎるのだ。椅子の方で調整してもいいのだが、快適なポジションというモノはどうしても存在する。なので、ゲーセンの某ロボットゲームの筐体と同じ高さくらいのデスクを求めているのだが、そんなゲーマーの理想を叶える喉から手が出るほどピッタリのアイテムを取り扱っているお店があるのだ。

「その名もYKD Factoryl! アケコンの天板から夢のゲーミングデスクなど、素晴らしい商品の取り扱いの数々!!」 

 ちなみにこの小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは、あんまり関係はありません。

 目的地に向かい、どんどん歩みを進める。右を見ても左も見ても、学生らしき人物の姿は見えない。他の学生達は今頃勉学に励んでいる頃だろうと考えたら、自由に街を歩ける解放感と、周りに置いて行かれるのではないのかという焦燥感がぐちゃぐちゃに入り混じり、ミキサーにかけられたようなドロドロの感情が湧き上がって来る。キモオタゲーマーでも、腐っても青春を謳歌する学生なのだ。ちょっとはそういう悩みも人前にはあるのだが……けど、やっぱりゲームに比べたら些細なモノですね、うん。

 こう見えて…読者諸君にどう見えているのかは知らないが、僕は意外と成績優秀で生活態度も問題無しの優良健康ゲーマー少年なのだ。体育の成績だけはかなり悪いが、それ以外はどれも平均以上の数値を叩き出している。これは

「ゲームでもリアルでも、センス無い奴は基本的にナニやっても駄目」

 をモットーに頭を使って生きているのだ。普段の思考回路や発想が、そのままゲームに直結すると過去に話したが(四話参照)それは逆も然りで、ゲームでの思考回路や発想がそのまま日常生活に応用できると言う訳だ。効率的な時間の使い方や効率的な勉強方法、手際よく楽して作業や家事を行うなど、要は頭の使い方さえしっかりしてセンスがあれば、リアルでもゲームでも効率よく立ち回れると言うのが僕の自論でもある。

 だが、その自論を最近ことごとく蹂躙して破壊され、数多の煽りでプライドも尊厳も精神力メンタルすらもへし折りに来る輩が多過ぎるのだ。これは、到底許されない行為であり、ゲーマーにとって魂の格付けチェックに敗北して、食物連鎖の頂点の全一の玉座から引きずり降ろされたと同義語なのだ。

「お前は……それで満足なのか?」

 つい、口からそんな言葉が零れてしまう。

 否! 断じて否だッ!! 勝者特有の敗者を見下ろすあのナメきった視線…あんなモノで見下ろされて無事でいられると思うなよ。見ていろ…僕は必ず、アイツらを理解わからせさせる。

 その為の…三連フットペダルとゲーミングチェアだ!!

 僕は、YKD Factorylの入り口に立った。

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