電脳闘争録

気に喰わないヤツらは全員潰す
ジブリ神
ジブリ神

二十話

公開日時: 2021年8月15日(日) 20:05
文字数:3,540

 結論から言うと、僕は停学二週間の処分を食らった。どうしてこうなった?

 去年に開催されたゲノムリンクの全国オフライン大会「闘争杯」で全一になり、ゲーム雑誌やサイトなんかで顔出し写真が掲載されているのだが、今の変死問題のおかげでゲノムのイメージは最悪だ。それに保護者やPTAの方面から「これおめぇン所の生徒じゃね?? 世間を騒がせている問題におめぇン所の生徒の顔出しは如何なものか?」といちゃもんをつけられたらしい。一年も前なのに理不尽極まりないのだが、学校側からすればあまりイメージがよろしくないので、こういう措置を取ったらしい。大事だからもう一回言うけど、理不尽極まりない。

「えー!? そんな無茶苦茶な…それに、闘争杯に出場する時に僕はちゃんと学校の許可取ったじゃないですかぁ…こんな馬鹿な話があるんですか!?」

 勅使河原さんと共に生活指導室に連行された時に、思い出したように停学の宣告を受けて反論したが、もうどうにもならないようなので、僕は晴れて停学二週間の処分を食らった。死ね。Fuck you!!


「ぎゃははははは!! あの時のオタクの顔、マジウケた~アハハハハ」

「りんちゃん…笑いごとじゃないよぉ」

 まぁ、考え方次第では課題やら反省文を大量に押し付けられたが、それさえ終わらせてしまえばゲノムを思う存分プレイできると考えればこれはむしろアドなのでは? しっかし、反省文どうしようかなぁ~…強くてごめんなさい? 全一になってすいませんでした? 反省というより煽り構文だな。

 今夜も勅使河原さんにゲノムを教える為に、通話をして装備や立ち回りを教えるのだが、どうやら自分である程度構成を練って来たようなので、試しに見せてもらっている。

「このデカ物映え映え銃ならイケてんだろオタク?」

 勅使河原さんが装備しているのは、ゲーム内最長射程を誇るスナイパーライフルだ。威力は少し物足りないが、それを長射程と回転率で補う武器だ。

「この武器を選んだ理由は?」

「助手と組んでタゲ合わせれば長距離から一方的に相手を攻撃できるし、なにより映えスポットで陣取った時に絵になるじゃん」

 ふむ…一応有利位置の事も考えているし、昨日のハチャメチャな装備構成より大分マシだ。

 映えスポット…陣取る……狙撃…そうかっ! 閃いたぞ、これならイケる。

「山谷さんから聞いたんだけど、マップを探索したり、歩き回るのが好きなんだって?」

「好きだよ。景色のいいスポット見つけて、SSスクリーンショット撮ったりするのがウチはすきぃ~」

「それならさ、対戦中も映えスポットに行って見て。開幕相手とか特に気にしなくていいから、映えスポットにたどり着てから相手を狙撃してみよう」

 そう、これは狙撃位置を確保して相手を狙撃して、発見されたら次に陣取るを繰り返す立ち回り。これの何が強いかと言うと、まず敵は嫌でも狙撃を警戒しなくてはならない。ましてや隣にいるのが現環境の最強の浮遊型の使い手emperorだ。まずこの二枚を落とそうと相手は考えるが、山谷さんはそう簡単に落ちない。となれば、次は隣に居る狙撃手に狙いを付けるが、発見されたら直ぐに別の場所に行く為、必然的に追う必要性が出て来る。そうなれば見られていない山谷さんや僕が火力を吐きやすい上に、再び勅使河原さんがフリーになったりと、チーム戦での戦術に選択肢や幅が生まれる。勝手に突っ込んで勝手に死ぬより全然希望が見えるぞ。

 そして、立ち回りを教える事6時間。ついに、人並みまで操作や知識が身に付いて、昨日より遥かに成長した勅使河原さんの姿がそこにいた。

「いいじゃん! すごいよ…まさか6時間くらいでここまで成長するとは思ってなかった」

「ひでぇなオタク!」

「いや、りんちゃんがここまで変わるとは私も思ってなかった」

「じゃあ、いよいよ実戦投入だね。昨日と同じように、気が済むまで…」

 そう言って、画面共有のボタンにカーソルを合わせた時だった。勅使河原さんの衝撃と無謀な発言で、僕と山谷さんの心臓は口から飛び出そうになる。

「これだけ成長したなら裏世界でも余裕でショ。えい、ポチっとな」

「は!?」

「え!?」

 怖いもの知らずというか、無知無謀というか、勅使河原さんのPSプレイヤースキルは初心者に毛が生えた程度の実力だ。そんな生まれたての子ヤギみたいなプレイヤーが裏世界に足を踏み入れたら、確実に出待ちで狩られて死ぬ。

「ちょっ!? 待って!!」

「ダメ! やめて!!」

「どした? 二人共そんな剣幕で怒鳴らなくても…」

 二人が前回裏世界に足を踏み入れたら時は、まだ実装して間もない日だったから、出待ちはおろか、まだ充分に開拓も探索も行われていない状態だった。だから、悠々とマップを探索できたし、それほど大規模な戦闘も起きなかった。だが、今は状況が違う。ある程度ランダム転送の位置が割り出され、そこを中心とした縄張り争いや拠点の構築に出待ちの横行。

 このままじゃ勅使河原さんは死ぬ。

「今すぐ回線を切って!!」

 叫ぶ山谷さん。なるほど…戦闘による死亡でなければ、命までは取られず重大なペナルティで済む。だが、裏世界の回線切りは寿命の半分の没収だから、どのみち死期は早まってしまう。(回線切りはマナー違反です。実際のゲームをプレイする時はマナーを守ってプレイしましょう)

「あれ? ログアウトできないって事は、周囲にプレイヤーがいるのかな?」

 このままじゃヤバイ…直に助けに行くしかない。

「くそっ、山谷さん裏世界の経験は?」

「三日に一回くらいの頻度で侵入してたけど…思考停止出待ちなら捌けるわ」

「パーティ組んでなら同一地点で転送される。勅使河原さんを保護したらログアウトしよう」

「それしかないみたいね」

 山谷さんにすかさずパーティの招待を飛ばし、裏世界に侵入する。

「勅使河原さんの居るエリアは……よし、そんなに遠くない。隣の山岳都市だな? 勅使河原さん、遮蔽物を使ってとにかく敵から逃げる事を…」

「は? 映えスポットから狙撃するんじゃなかったのか? もう天辺まで登っちゃったよ」

 ヤバイ…山岳都市は山の斜面に倒壊したビルや建物が無造作に配置されており、敵を視認し辛い。だから、偶然出待ちを回避できたのだろう。だが、わざわざ自分から見通しがいい場所に陣取り、味方の支援無しでスナイパーライフルを担いだキャラが接近されたら、何もできず対処不能に陥りすぐに狩られてしまう。ここにいまーす! 殺してくださーいと宣伝しているようなものだ。狙撃して一撃で相手を葬り去れればいいが、勅使河原さんの装備しているスナイパーライフルにそこまでの威力は無いし、相手とのLv差が激しすぎる。

「絶対にッ!! 絶対に僕達が行くまで隠れてやり過ごすんだ!! すぐに行く……」

 そこまで言って、僕と山谷さんは画面に表示されるゲノム出現フラグに背中が凍り付いた。

「烏丸くん…これって…」

「ちくしょう、最悪のタイミングで出現しやがった……電脳怨霊ッ!! これなら出待ちの方がまだ可愛く見えるよ」

 確実に訪れるそれを察知して、僕と山谷さんは身構える。


【怨念・癇癪物体破壊顔面深紅ゲノム猿 Lv510】


「アーーーーーーーーーー!! ナンデナンデドオシテハラタツンモォオオオオオオオオ!!」

 猿。一言で表すなら、猿が目の前に出現した。だが、普通の猿と違い、パっと見てもその異質さが際立つ姿だ。紫の不気味なオーラを纏い、顔は真っ赤に染まり上げ、所かまわず癇癪を起して殴り付けて暴れている。まるでどっかのカチキレゲーマーのような姿だが、問題はその大きさだ。

「大きい…ゆうに5メーターはあるんじゃない?」

「接近戦は無理だな…レベル差もあるし、危険だ。山谷さんは安全な所からレザミサでけん制してもらえる? あれだけ顔真っ赤なら、そっちに釣られるだろうからそこを叩いてみる」

「わかった。やってみる」

 ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ。

 出た…ポルターガイスト現象だ。部屋の中の者が落ちたり浮いたり勝手に動くが、全部電脳怨霊の仕業と分かっていればそこまでビビる必要はない。

 対人戦ではないので、ログアウトして逃げようと思えば逃げれる。本来ならば、レベル差を見て即退却するのだが、そんな悠長な事をしていたら勅使河原さんが死んでしまう。次の転送でさらに遠くの位置に転送されたら、もうお手上げだ。ここでの選択肢は、ヤツを倒すか隙を見て逃げる。このレベル差だ。ワンミスでもした瞬間、僕たちは死ぬ。

 じんわりと嫌な汗が身体に纏わりつき、コントローラーを握る手が震える。

「オレハタダシイミカタガクソザコムッキャー」

「うるせえこの猿ッ!! 俺はゲノム全一だ」

 叫んだ瞬間、猿がワープしていきなり背後を取られ、致命傷を食らい、寸命の首輪の効果が発動してHPが1だけ残る。

 あっ、だめだ死んだわこれ。

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