「え? 全くの初心者じゃないの?」
「だーれがそんな事言ったよオタクぅ~? ある程度ならウチら普通にイケっし」
「私達は初心者と言うよりは、中級者ですかね」
帰宅して約束通り、オカルト研究部の二人にゲノムリンクの指導を始めたのだが、どうやら二人はある程度このゲームをプレイしているらしい。それなら目標もはっきりしているし、教える僕にとっても話が早い。
二人にゲノムを教えると、僕にとってもメリットがあるのでかなり真面目かつ真剣に教えるつもりだ。まず、理由の一つが、目標達成できたらなんでも言う事を聞く権利獲得の為だ。思春期の男子ならとても魅力的な提案なのだが、それはあくまでも副産物……ごめんなさい噓つきましたコッチも大事です。
二つ目が、あの馬鹿げたレベルの怨念ゲノムの討伐。あのレベル差では、ソロで討伐は不可能だ。一人でやれるに越したことはないが、少しでも多くの戦力があれば、それに比例するだけの作戦や立ち回り、選択肢が出て戦術の幅が広がるのは確かだ。それに、ゲノムを倒せば経験値が貰えるはずだ。つまり、裏世界での経験値は寿命な訳で、あの怨念ゲノムを倒せば間接的に松谷さんを延命できるかもしれない。それだけじゃない。親玉を倒す所まで導くとなると、必然的に超超超高難度ダンジョンのジャックポット塔に挑むことになる。結果はともかく、この二人と共にプレイして、意思疎通や連携を磨かなければ攻略は厳しいものになる。
しかし、ジャックポット塔の親玉を倒せば奪命システムが停止するかもしれない上に、松谷さんの延命は不可能。そうなれば、裏世界で僕が戦う理由も目的も無くなってしまう。それだけは、避けなければならない。今から対策を練っておく必要があるが、最悪の場合はこの二人の命と松谷さんの命を天秤に懸ける事になるかもしれない。そうならないように、今から最善策を考えねば…
「えっと、じゃあ二人の実力を知りたいから、1VS1で僕を〇しに来て」
「おーし、まずウチからねぇッ!!」
カーソルをフリーマッチ、1VS1の項目に合わせてボタンを押す。
対戦相手が決定しました
「キタか…」
マッチング待機画面から切り替わり、対戦相手の情報が開示される。
対戦ステージは水没都市。地面が全て水に覆われ、荒廃した都市が水位の上昇によって丸ごと飲み込まれて基本はビルからビルへと飛び移るように戦い、寄生状態になってからが本当の戦いになるステージだ。所狭しと並ぶビルの間を寄生状態で壁を蹴って立ち回り、爽快な空中機動戦が楽しめるのが特徴と言うのが表向きのステージ紹介。それはあくまで初心者から中級者の話であって、上級者やランカー、廃人の勝負となると、壁とお友達になって壁蹴り読みの後退めくりやビルをぐるりと円を描くように立体機動をして、角で射線が切れて追いかけようと追って来た相手を想定して、角で射線を切った瞬間再び真後ろを向いたまま飛び出してそのまま相手の背後を取り合ったりと、戦術紹介をやり出したらキリが無いので割愛させていただく。わかりやすく言ってしまえば、ある程度のレベルまで行くとお互い変態機動を駆使して頭のおかしい動きで飛び回り、敵を捻り潰すタイマンの聖地が水没都市だ。タイマン人気ナンバーワンマップで、デュエル大会などでは大体ここが指定されたりする。勿論、僕もここが一番好きだ。
お互いの体力が数値化されて画面下に表示される。
【びっきー 40200】
【巣手頃リンちゃん 37490】
記憶力の良い読者なら、前回の死合(一章第五話)で僕の体力が37080から40200に増えている事に気付いた人もいるだろう。これは、装備していたギアを一部変更して、装甲と火力を増強させた装備になる。もちろん、腕に装備してるのはゴリラカスタムだ。
裏世界ではなく、いたって普通の表世界のゲームなので、試合開始の開幕から 速攻でアイテム欄を開いて、致命の劇薬を使用する。
「なんでいきなり体力が1になってんだよぉ~? 意味わかんなーい」
壁から壁へ、通常では考えられない速度で接敵を開始する。ゴリラカスタムのデメリット、移動速度マイナス50%も寄生状態なら大した障害にならない(あくまでも響の体感です)ので、元のスタイルから更に火力を突き詰めた。これなら、敵を屠るスピードは前より速くなるし、スマートに勝てる事に越したことはない。
目標を視認した。
どうやら勅使河原さんのキャラは、体力から察するに両手に銃器を持ったダブルトリガー型で、機動力はそこそこある万能キャラを使用しているようだ。(ゲノムの上位プレイヤーは開幕の体力値で相手が大体どんな装備やキャラなのか予測する事ができます。)この手のキャラは、そこそこある機動力とそれなりにある火力を活かして、状況によっては前で前線を張り、他に前衛がいるなら後衛やサポート、遊撃と文字通り万能な立ち回りと臨機応変な対応力が求められる。体力や装甲も平均値よりやや上なので、タイマンでも腕があればかなり上までいけるポテンシャルを秘めている…のだが、それはあくまで基礎基本がしっかり身に付き、柔軟な思考回路を持って丁寧に立ち回れるプレイヤーの話だ。そこまでやって、やっとTier1の環境キャラと「いい勝負ができる」性能だ。キャラ単体で見るならば、精々Tier2~3位が妥当だろう。
「ぎゃー! 視界に収めらんねえぇ」
加えて、僕が気になったのは勅使河原さんの装備している武器の謎チョイスである。
テンプレと言うか、ある程度「安定して」結果を出すなら砂2丁(スナイパーライフルを二つ装備する略語)かレコレコ(スットンレコーザと言う名称の銃器を二つ装備する略語)で射程かDPS(Damage Per Secondの略で、直訳すると秒間火力)を意識するのが鉄板装備に立ち回りなのだが、何故か接近戦用の鋼鉄大剣と足を止めて撃ち出すナパームキャノンを装備している。
「……何を想定しているのか全然わかんないや」
動きも自信満々にある程度イケると言っていたが、ハッキリ言って初心者のそれである。
これじゃ地雷となんら変わらない…これを最前線で戦えるレベルまで押し上げようとなると、本人のそれ相応の覚悟とやる気に学習能力が必要になってくる。
そんな事を考えながら、一方的に勅使河原さんのキャラを潰して対戦は終了した。
「オタクつえ~なぁ! なぁなぁ、なんかアドバイスくれよ」
「えー…っと、アドバイスというか、改善点や指摘が多過ぎて言い出したら日付変わっちゃうから、山谷さんとまとめて説明するね」
勅使河原さんがこのレベルなら、山谷さんも同じくらいのレベルなんだろうなぁと、決めつけた自分を後ほどブン殴りたくなるのだが、それは次のお話で。
この助手こと山谷さん、良い意味で僕の予想を全力で裏切り、もはやアドバイスどころじゃ無くなるくらいには、僕は死ぬ程追い込まれることになる。
「じゃあ、よろしくね山谷さん」
「潰す」
……ん? なんか今すげぇ単語がおっとりメガネのマシュマロ系女子の口から飛び出したけど、気のせい??
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