対戦相手が決定しました
rein VS びっきー
「あれ? このreinってヤツ、公式キャラ別部門で優勝したプレイヤーじゃなかったか? 確か、人呼んで軽ニ全一」
どこかで見た事あるPNだと思ったら、公式大会で軽量級部門の頂点に君臨したプレイヤーだ。その戦闘スタイルは、勢いと速さで相手の視界の死角を取り続け、近距離のショットガンやパルスガンで殴り続けて相手に捉えられそうになると、一目散に距離を離すと言ったスタイルだ。そして、再び急接近して的を絞らせない非常に、非常にひじょ~~~に嫌らしい戦い方といったらありゃしない。重量キャラや山谷さんの様な空を飛ぶ相手には滅法強く、旋回性能や小回りの良さでイケると思ったら相手が死ぬまで張り付き続ける生粋のインファイターである。
公式大会の優勝者インタビューでは「イケると思った」と言って優勝してしまい、またやらかす時も「イケると思った」と言って死んで行くムラッ気のあるプレイヤーではあるが、実力は本物。所謂、勢いに乗せると止められないめんどくささが武器のプレイヤーでもある。
【びっきー 44820】
【rein 26400】
体力値を見るに、明らかに軽量級のキャラだ。とりあえず、開幕は絶対に攻めて来るだろうから有利位置を取って待ち構える準備をしよう。こちとら、久しぶりの重量級かつまともな戦術でやり合うんだ。下手なミスはできない。
「はっや!!???」
試合開始と同時にもう目の前にreinのキャラが接近していた。軽量級の速さを限界まで突き詰めたらこうなりますという、お手本のようなキャラである。
ガァンッガァンッパシュルンッ!!
そのまま張り付かれて、咄嗟に出した盾を速攻でパルスガンで焼かれてしまい、ショットガンを喰らっていきなり使い物にならなくなってしまった。物理受けには非常に強いのだが、レーザー系統の武器には滅法弱い。とりあえず、盾を捨てて気を取り直す。
相手は攻めて来るしか選択肢はないのだから、こっちも迎撃して体力値の交換をしていけば、相手の方が低い体力なので無理する必要は……
ガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッガアンッ!!
「うっほぉ~キモチイイ~」
煽りと同時に頭上に張り付かれ、8の字機動で旋回しながら鬼のようにショットガンを撃ち込んで一気に体力を捲くられてしまう。重量キャラにとって、まるで小賢しい蝿がスズメバチ並みの殺意をぶつけて頭を刺されるような感覚に陥る。うっとおしい事この上ない。
体力優位を取った瞬間、エリアの遥か果てまで逃亡して戦いやすい地形で待ち構えるようだ。最悪、速度を活かして時間いっぱいまで逃げ切るだけでこの試合はreinの勝利なのだが、そんな事をさせるつもりは毛頭ない。
OP・ε-リンソディのキャンセルルートを駆使して、遥か彼方のreinを追いかける。
ショットガンと三バトを構えて、小賢しい蝿を叩き落そうと目論んだ瞬間、カウンター気味にreinが遮蔽物から飛び出して側面を食い破られる形になる。
「このっ! デブをナメるなぁッ!!」
サブコンと旋回性能をフルで駆使して、真横から突っ込んで来るrein相手にショットガンを撃ち込んで三バトをさらに撃ち込んで迎撃する。すると、ショット三バトの直撃を喰らい、体力値がお互い互角の状態まで持ち込んだ。
「コイツwケツから三バト撃ち込むのは卑怯やろ~?」
ケツから三バトとは、サブコンを搭載したキャラはあまりの広角サイト故に、ラグであり得ない向きから弾丸を飛ばすことをケツから〇〇と呼称する。この場合は、reinのキャラが真横から後ろへと死角を取りに移動した瞬間にサブコンでロックしたまま銃器を撃ち込んだ為、ラグで僕のキャラの真後ろから弾丸が発射されたように見えたので、ケツから三バトという訳だ。
そのまま衝撃でキャラが硬直しているので、チャンスとばかりにショップラ(ショットガンとプラズマガンの略)をブチ込んで一気に体力優位を盛り返す。
「ほーん、お前もケツを虐めし者か。ならば、その果てにある地獄を見せてやるでぇッ!!」
なんだよケツを虐めし者って…知らねーよお前だけ勝手にケツを虐めてろ。
「ゲノム寄生ッ!!」
むっ、寄生状態になったか…どういう風に攻めて来る? 今まで必ずと言っていいほど、自分の方が先に寄生状態になり、試合展開や流れを掴んで押し切っていたツケが回ってきた。僕は…自分が通常状態の時に相手がゲノム寄生状態で攻めて来る時の守り方が全く分からない。
しかし、分からないという事は、逆にそれだけ伸びしろがあると言う事だ。それが分かっただけでも、この一戦の収穫はデカイ。
reinのキャラに蜈蚣のようなゲノムが寄生して、頭に左右対称のトゲトゲした触覚が生えてきた。そして、左手に蜈蚣が巻き付き、まるでレイピアのような形状に変化した。
「地獄を見せてやる」
あろうことか、ただでさえ手の付けられないスピードが寄生状態になってさらに速くなってしまった。サブコンのおかげで辛うじて視界に捉えられてはいるが、この速度はサブコン無しでは間違いなく捉える事は不可能だっだろう。そう考えると、倉沼ソラオ相手を想定してのサブコン搭載は正解だったと言える。
キュイーン。
reinのキャラは、まるでビルの側面をアイススケートのように滑らかに滑りながら接近して来る。そのまま空を飛んで、空中を滑りながら攻撃して来た。
シュッ!
レイピアを高速で振るうと、そのまま真空波のような平べったいビームが飛んできた。弾速も誘導性能もかなり優秀で、辛うじて遮蔽物に身を隠してやり過ごそうとしたら、今度は遮蔽物を山なりの軌道で乗り越えて、球体状の炸裂弾を送り込んで来た。これでは遮蔽物が意味を成さない。たまらず横に移動して炸裂弾を躱すと、そこに動くのが分かっていたかのように空中を滑りながらレイピアですれ違いざまに切りつけられる。
なるほど、あの真空波や炸裂弾で相手を動かして、機動力を活かして相手を殴るカンジか。
再びレイピアを振るい、炸裂弾を送り込んで来る。すると、今度の炸裂弾は手前で落下して、目の前で爆発して爆風と煙で何も見えないほんの一瞬、その隙に爆風の中に突っ込み、滑り込むように一気に距離を詰めて、近距離で真空波を押し付けられて怯んだ隙にレイピアで切りつけられ、再び距離を取られてしまう。
「一連の動作にほとんど隙が無いんだ。足を止める武装が無いから、あの速さのまま慣性を乗せて流れるように移動してる……けど、結局はレイピアで最終的に詰めに来るなら、狙うならソコだな」
三バトを垂れ流し、事故って当たればいいなぁ~程度の気持ちで弾を撒いておく。ビルの側面とお友達になり、そのまま空中に身を投げ出したと同時に、今度は大量の小型の炸裂弾をバラバラと連射して弾幕を形成しながら距離を詰めて来る。ここは、じっと耐え忍んで機会をうかがう。キュイーンと、機動音が真下から聞こえてreinが……真下!?
右手にショットガン。左手にレイピアを携えて、完全に上から攻めて来るものだと思っていた意表を付かれた。お互い同時にショットガンを撃ち込んで、お互い直撃してそのまま硬直しながらお互いのキャラ同士がぶつかり合う。だが、重量キャラの僕の方が安定性は高い為、硬直からの復帰はわずかながら僕の方が速い。勝負の明暗は、その僅かな復帰時間の違いだった。
「オラァッ!! 捕まえたぁ!!」
文字通り、右手でreinのキャラの首根っこ押さえ、ホールド状態持ち込んだ。そこで、ついにプラズマガンの出番だ。動いている敵には当てるのは至難の業だが、文字通り捕まえて動けない所にブチ込んでしまえばそんなモノは関係ない。
流石にゲノム寄生状態といえど、高DPSのプラズマガンをゼロ距離で喰らい続ければ、相手の体力値は一瞬で尽きる事になった。
「なーにが軽二全一だ。僕は、ゲノム全一だッ!!」
終わりに煽り決め台詞をかまして、リザルト画面に移行するのを待つが、一向に試合終了の表示が出て来ない。不審に思い、バグか何かか? と、脳裏にそんな考えがよぎった瞬間だった。
「イケると思ったかぁ? ざんねーんw イケると思った時は九割イケないんや覚えとけドアホ!!」
「こいつ、スーパーモード持ちか!?」
reinのキャラが銀色に光り輝いて、再起動して再び動き始めた。スキル【スーパーモード】とは、体力値が0になっても、一回だけある程度体力値が回復して、移動速度や攻撃モーションが劇的に上昇するまさにチートスキルと呼んでも差し支え無いものなのだが、性能に比例して入手難度は困難を極める。確か、公式大会優勝者と月間撃墜ランキング1位のみに配布されるまさしく超希少スキルで、性能はOPに匹敵する。
「まさか、こんな所でコレ使うハメになるとはマジで思わんかったわ。覚悟しろやなんちゃって全一ッ!! 出戻り引退詐欺野郎に、ワイは負けへんでぇ!! お前が逃げた一年間と、やりこみ続けた者の差を教えてやるわ」
reinの持っていたパルスガンが増殖して、身体を覆いまるで針ネズミのようなシルエットに変貌した。その異質な形状は、背筋を凍らせるには充分過ぎる性能の武器だった。
「アレはまさか…OP・LEGION PULSEか!?」
OP・LEGION PULSE。パルスガンを巨大化させて、30門×5列を身体中に纏って全方位に発射する究極の近距離押し付け最強兵器。
その威力はガチガチに体力値や装甲を盛った重量級のキャラでさえ、一撃で葬り去る。その判定も凶悪的で、上下左右真上真下の広範囲にわたって対象を一瞬で溶解してしまう馬鹿げた威力。その性能は、まさに重量キャラメタ筆頭武器である。その分、使用回数は一回きりの使い捨て武装なので、その一回さえ凌げば勝機はあるのだが…
「スーパー化でもう目にも止まらないくらい速い相手から、どうやって重量キャラで近距離押し付け最強判定の攻撃から逃れろってんだよ!?」
瞬時に懐に潜り込まれたと同時に、超威力超判定のLEGION PULSEから逃れる術は無く、ゲノム寄生ラインを貫通して一気に体力値が無くなり、また試合に負けてしまった。
新キャラ試運転のワクワクドライブは、大型トラックに突っ込まれてそのまま轢き殺されて終わってしまった。そのまま異世界に転生などする訳が無く、現実を受け止めないと進歩は無い。対戦ゲームから逃げるな。
「ハイ、ワイの勝ちぃ~www クソの押し付け合いなら負けへんでぇッ!!」
対戦ゲームの敗者に人権は無い。ここは素直に
「対戦……ありがとうございました…」
ぐぐ、倉沼ソラオに続いてまた負けてしまった。これは、スランプか!? どうにも最近負け越してる率が高い気がするが…けど、動き自体は悪くなかった気もしないでもない。
ふぅーっと、ゲーミングチェアにもたれかかり、ふとスマホの方に視線を向けると…
「勅使河原さんからのメッセージ? 何だろう??」
タップしてメッセージ画面を開くと、敗戦のショックを一瞬で吹き飛ばすような驚愕の内容が記されていた。
「オタクぅ~…どうしよー…学校退学になっちゃうよぉ~…(泣ピエン)
……は? えぇえええ!!??? どういう事!? どうしてそうなったの??
読み終わったら、ポイントを付けましょう!