「あらあら…ひーくんにこんな可愛い女の子達がねぇ~」
やばいやばい!! 割と見られて困る物がいっぱいあるから早く片付けないとッ!! 具体的には薄い本とかちょっとエッチなフィギアとかその他もろもろ…
トントンと階段を上る音が聞こえて来た。どうやら母さんが勅使河原さんと山谷さんを招き入れたようだ。
ドタドタドタ…っ。
ん? なんか、上がるテンポ速くないこれ!?
ばあんっ! と、僕の部屋の扉が勢い良く開いて、すごい形相の二人が息を切らしながら久しぶりのご対面となった。制服姿と言う事は、どうやら学校が終わって直で僕の家に来たらしい。
「あっ…あはは、いらっしゃい」
苦笑いしながら二人を迎え入れるも、そんな事は全く気にする様子が無く、一直線に僕に向かって歩みを進めるお二人。どことなく表情が強張っているというか、怒っているというか…なんだろう、めっちゃ恐い。
ぱあん!
勅使河原さんにいきなりビンタされたと思ったら、山谷さんが泣きながら抱き付いて、勅使河原さんもそれにつられて泣き出してしまった。いや、何この状況…意味わかんないんですけど?
「わああああん。連絡くらい寄越せよぉ~…死んだかと思ったじゃんかぁ~」
「ひぐ、ぐっす…生きてて良かったよぉ~」
どうやら二人はとても心配してくれていたようだ。そりゃあ、猿と交戦してから丸3日連絡が無ければ不安になるよね。
「ご、ごめんなさい…猿を倒した後、直ぐに寝落ちしちゃって…」
そして、僕は話した。猿を見事討伐して、膨大な寿命が手に入った事。討伐に58時間かかってブッ続けて戦い続けた事。そして、その後14時間眠り続けて連絡するのが遅くなってしまったので、丁寧に謝罪した。
「……と、言う訳でした。」
「まっ、無事で何よりだぜオタク!」
グッと右手の親指を立ててナイスポーズを全力で体現する勅使河原さん。バチーン! と、ウインクまで決めて目元に星が輝いたような錯覚まで見せつけるその姿は、可愛すぎてそれだけで生きる糧になりそうだ。ありがとうございます!
「で、原因となった怨念はちゃんと処理したのか?」
「え? なにそれ?」
あちゃーと、露骨に顔を手のひらで覆うリアクションをする勅使河原さん。
「元々電脳怨霊は、現実世界で…まぁ、オタクの言葉を使うなら雑魚のお気持ち表明だな。そのお気持ちが裏世界に生息してたゲノムに憑依して悪さをしたり、暴れ回るモンだ。その本体を祓わなければ、お気持ちは依り代を求めてまた新しい電脳怨霊を生み出すぞ」
な、なんて厄介なお気持ちなんだ…いい加減にしろ雑魚共がよぉ。
「今回のヤツは姿が猿だったから、負けたり悔しがったりした時に顔真っ赤になってウッキー! とか言いながら癇癪を起したんじゃね? 知らんケド」
なるほど、その時に起こしたリアクションで姿かたちが変わるのは面白いな。じゃあ、この間の湾曲に破壊されたゲノムボードはおそらく癇癪を起してキーボードを破壊したから、ああいう形になったって事か。納得。
「あとね…えっと、ちょっと烏丸くんを囮みたいに使っちゃってごめんね」
山谷さんが開口一番に意味深な発言をして来た。どういう事かと考えていたら、彼女は再び口を開いた。
「結論から申し上げますと、OPを入手しました!」
「は? ええ!?? うそ!? どこで、どうやって!??」
OPとは、ゲーム内でとても極めて希少な超が100個付いても足りないくらいのレア装備を指す。鯖で出土本数が10本あるかないかの希少な装備で、入手した事がバレれば妬みや嫉妬の矛先をこれでもかと向けられ、匿名掲示板とSNSで晒されて嫌がらせや暴言をゲーム内で吐かれるくらいには恐ろしい性能と強さを秘めた装備品だ。実際のRMTでは100万円の価格が付くとか付かないとかで、OP目的の金稼ぎでゲノムを始めるプレイヤーも少なくない。(日本国産のほとんどのオンラインゲームではアカウントやアイテムの売買・譲渡、RMTは利用規約で禁止されています。絶対にやめましょう)
その性能は希少価値と比例して、絶大な性能を誇り、僕が去年出た公式大会ではレギュレーションで使用禁止とまでされていた。
「烏丸くんがあの猿と戦ってる時に、偶然破壊された拠点の隙間にそのチームの倉庫が見えちゃって、ただの倉庫にしてはとても厳重に保管されてたから、怖いもの見たさで無理矢理こじ開けたらOPがあったって訳」
なるほど。裏世界でああも巨大な拠点があったのは、OPを保管する為に作られた拠点だったのか。確かに裏世界にOPを隠して保管するには最適な場所かもしれないし、表の世界で間違ってOPを装備したまま死合いで負けてOPを奪われたなんて事になったら目も当てられない。あの規模に人数なら、ランキングでもかなりの上位チームか廃人やり込みチームに違いない。
それにしても、あの時にどさくさに紛れて火事場泥棒みたいな真似するなんて、山谷さんって結構度胸あるなぁ…
「すごい! おめでとう! …で、肝心の性能は!?」
この時の僕の表情は、完全にイッていたと思う。初めて生で見るOPに興奮するなと言う方が無理な訳で、涎を垂らして鼻息を荒くしながら山谷さんに詰め寄るその姿はキモゲームオタクに恥じない姿だ。
「武器名・Σ-ラーカス。背中に背負うタイプのミサイルで、威力100000。特殊効果で、ダメージを耐えるスキルの無効化・貫通・パリィ不可で着弾時大規模な爆風を巻き起こすって書いてある」
「ダメージ100000!? ふぁ!? しかもダメ保護スキルの無効化に貫通!?」
単純計算で、僕が倒した猿の体力を一撃で半分以上持っていくあきれ果てたダメージの高さな上に、爆風が起きると言う事は、ダメージ表記とは別に爆風のダメージも追加で入ると言う事だ。その上ダメージを耐えるスキルの無効化に貫通と言う事は、僕の寸命の首輪の効果もお構いなしに吹き飛ばせるポテンシャルを秘めている事になる。挙句の果てに、このミサイルは山谷さんの使用している八連ハイスピードミサイルと同ジャンルな為、レーザーで固めている所にこのOPをブチ込めば必中な上に必勝という凶悪コンボの完成である。
あっ、もう山谷さんに二度と勝てる気しねぇわ。
「ただ…この武器の悪い所は、三発しか弾数が無いんだけど…」
「え!? そのブッ壊れ性能で一発限りの武器じゃないの!?」
「三発同時発射されるの。しかも、一発目は真っ直ぐホーミングしながら飛んで行って直接対象を狙い、二発目は垂直に発射されて真上からホーミングして対象を狙い、最後の三発目は再び真っ直ぐ撃ち出され、相手に近づいた時点で爆発する近接信管型って書いてある。ね? 悪い性能してるでしょ?」
山谷さんの顔がとっても嫌らしい悪だくみをしている顔だ。この女、OPを使って自分だけ環境破壊する気満々である。面白そうな事考えてるな? 楽しそうだから僕も混ぜろ。
「そいつはイケない性能だ。是非手合わせ願いたいでござる」
「じゃあ、烏丸くんの安否も確認できたし、今日は帰るね。お手合わせは夜にでも」
「りょーかい」
「りょっ」
そして、二人は僕の部屋を後にした。夜に約束通り試合を行ったのだが、山谷さんのPSとOPの相性は抜群に良く、30戦0勝30敗という大負けという結果に終わった。
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