電脳闘争録

気に喰わないヤツらは全員潰す
ジブリ神
ジブリ神

三十六話

公開日時: 2021年10月4日(月) 20:05
文字数:3,204

「いらっしゃいませ」

 自動ドアが開き、テンション上がって足早に店内に突入するキモオタゲーマー。その姿は、コミケに早く行きたいが為に駅の改札口をダッシュで駆け抜ける戦士達と同じモノを纏っていた。

 店内に入って、まず飛び込んで来た物は最新型のフルダイブシステム対応の機器だったり、ゲーミングチェアと大型モニターが合体してゲーム内のキャラの動きに連動して座席がせわしなく動くアトラクションのようなゲーム筐体。これは、PCと連動して様々な状況で臨場感溢れる体験ができるモノらしい。へー、すごい。

 さらに、奥の方に進むとアケコンのカスタム天板などが並べてある。

「こ、これは隼系のボタン配置を自分用にカスタムできちゃうのか!? えぇ!? 話題のhitboxまで対応してる!!」

 それぞれポップで「普通の配置だと俺の力は真に発揮されないんだ……と思われている方はぜひご相談ください!」などと購買意欲をそそる掲示がしてあり、意味も無くこのボタンがここに来ると…などと呟いてしまう。傍から見れば正真正銘のヤバイ奴だ。

「おー! びっきーじゃん、久しぶりだねー!!」

「あっ、べろさん久しぶり。二人で廃人連中の領地更地にした時以来じゃないですか?」

 僕の目の前に現れたのは、YKD Factorylの店主、べろさんだ。

 リアルではYKD Factorylを経営して、ゲノムでは闇の商人として上級チームや廃人連中の領地テリトリーからゲノムや装備をブン獲り、それを初心者や中級者のプレイヤーにゲーム内マネーで販売している義賊のような男だ。

 もちろん、ゲノムの実力も相当でレバーレス・アサルドシフトの第一人者でもある。


 ・レバーレス

 アケコンのレバーを排除してボタンに置き換わっている北米発の革命的コントローラー。

 ・アサルドシフト

 アサルト、シールドシフトを高速で切り替えて攻撃中はアサルトシフト。被弾する直前にシールドシフトに切り替えながら戦闘する事。

 ・アサルトシフト

 ゲノムのキャラ「νアドンラス」が使えるスキル。任意のタイミングでオンオフが可能。発動中は攻撃力3倍、被ダメージ5倍。

 ・シールドシフト

 上記のキャラが使えるスキル。任意のタイミングでオンオフが可能。発動中は攻撃不能。被ダメージを無効化する。


 ただでさえレバーレスは、使用人口が日本では少ないので注目されがちなのだが、さらにゲノムの中で最難度を誇るキャラ「νアドンラス」をレバーレスで操るクレイジーマンと名高いべろさん。

 νアドンラスはスキルの切り替えができる唯一のキャラなのだが、その操作難度はゲノムの中でブッちぎりの一位に輝く鬼やり込みキャラだ。

 アサルトシフトで攻撃力を上げながら、やばくなったらシールドシフトで守りに徹するというのが基本的な立ち回りなのだが、このスキルの使用クールタイムが存在しない為、攻撃しながら被弾する寸前でシールドシフトに切り替え、攻撃を受けた瞬間再びアサルトシフトに切り替えて…と、いった具合でとても操作が忙しいキャラなのだ。

 そこに、複雑怪奇な移動や技のキャンセルルートも豊富で、操作だけで精一杯なのに実戦で相手に合わせて立ち回るなど狂気の沙汰だ。だが、その狂気をさらなる狂気で蓋をして練り上げられたプレイスタイルがレバーレス・アサルドシフトである。

 レバーを捨て去り、その対価としてボタン押しの正確さと速さはパッドのそれを凌駕する。特に、スキルを切り替えながら移動しつつキャンセルルートを入力しながら相手の動きに合わせて行動するなんて事になれば、格ゲーの変態コマンド技に匹敵する難易度だ。そんなコマンドをパッドでやろうとすれば、技が暴発したり、最速入力はほぼ不可能に近いが、それを可能にしたのがhitboxという訳だ。

 それをゲノム内で初めて導入して、ランカー入りを果たした男が、クレイジーマンべろさんである。

「アハハ! 毎日何処かのチームや領地に潜入して品物ブン獲ってるから忘れたなぁ~。今日は何の用?」

「三連フットペダルとゲーミングデスク。あとは最近話題のhitboxって置いてる?」

「おー! ついにびっきーもhitboxに乗り換え? あるある。今持って来るよ」

「それと、この動画見て欲しいんだけど…この入力の速さと精度ってhitbox使ってるからなのかな?」

 そう言って、倉沼ソラオとの対戦動画を見てもらうと、べろさんから驚きの発言が飛び出して来た。

「あれ? これ倉沼さんじゃん」

 これには驚いて、喰い付かずにはいられない。

「だって、いつも一緒にゲームしてるし。この殺意溢れる動きはあの人しかいないよ。確か…倉沼さんは、レバーレスじゃなくて普通のアケコン使ってたはず。ってか、何? びっきー負けてるじゃん!」

「そうなんですよ…それで、ちょっと気分転換というか、これを機会に環境を思い切って変えてみたくて」

 そういう事か! 任せなッ!! と、親指を立ててバックヤードに引っ込むべろさん。

 しばらく店内を物色していると、僕のお目当てのゲーミングデスクのカタログとhitboxに三連フットペダルを持って来てくれた。おぉ! 実物見るとテンション上がるなぁ~!!

「びっきーデスクはどうする? 一応種類は10種類くらいあるんだけど」

 カタログを受け取り、ペラペラとページをめくっていく。おぉ…すげぇ、こんな感じのデスクが僕の部屋に来るなんて……想像しただけで興奮して鼻血と〇起が止まらないね。

 アケコンをゲーセンの筐体と同じ高さでセットしてプレイできる、アケゲー勢も家庭用勢もみんな幸せになれる商品じゃないか。

 デスクにアケコンがスッパリ収まる穴が空いており、テーブル前中央部にコントローラーを置くことで、台の天板部分とコントローラーの天板部分が同じ高さになってスタイリッシュな見た目と機能を兼ね備えた夢のデスクだ。

「じゃあこの2万3000円のデスクにします」

「おっけー! 発送に最大で4週間くらいかかる時があるけど、出す時連絡しようか?」

「あっ、じゃあそうしてもらえると助かります」

「じゃあこのデスクと、アケコンにフットペダルをこれくらいでご提供しちゃう☆」

 そこには驚愕の値段が記されていて、思わずべろさんに抱き付いてしまいたくなるようなお値段だ。

「えー!? 本当にいいんですか? べろさん愛してるぅ~!!」

「その代わり、今度OP狩りに連行するからそん時はよろしくなぁ~」

 なるほど、それが目的か…だが、ここまで良くしてもらって断る訳にもいかないので、二つ返事でオッケーして店を出た。

「ふふん、早速帰って新しい僕の手足の設定をしなければ!」

 上機嫌でスキップしながら、足早に帰路に着いている最中に、スマフォからメッセージが届いた着信音が鳴り響く。

「ん? 二件あるぞ……杉花粉impactと山谷さんだ」

 まずは、杉花粉impactの方から目を通してみる。


 件名

 大型レイド(電脳怨霊)討伐戦について

 本文

 今夜21時から、メンバー全員を集めて詳細や作戦を練るので、都合のつくメンバーはなるべく参加してください。


 ついに来た! 電脳怨霊掃討作戦が本格的に始動する。そして、もう一件は…


 件名

 りんちゃんの停学問題について

 本文

 全てはこれが原因↓

 バカッターまとめ

 ・ファミレスで暴れ狂う迷惑女子高生の実態


 そこには、リンクが貼ってあったが…もう、題名だけで察した。この間の杉花粉impactを除霊した時のヤツだ。あの狂気とも言える除霊風景を周りの人間が動画を撮ってSNSにアップしたんだ。

 ……うん、そりゃあ燃えるわ。理由が分からなきゃ炎上案件不可避だし、店側に迷惑を掛けたのは事実な上に、実際に僕達は出禁になってしまったので晒されても文句は言えない。

 これは、マズイ。早急に手を打たなければ勅使河原さんは退学になってしまう。

 僕にも責任は無いとも言い切れないので、こういう時の為の人脈をフルで活用する事にした。

「あっ、もしもし? この間はどうもぉ~……で、一つ頼みたい事が」  

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート