さあて、どうしてくれようか? と、一瞬考えたが結局は体力値が1しかないので攻める以外の選択肢は無い。
山谷さんはビルの側面を蹴り飛ばして、ビルからビルへと飛び移るような立体機動で距離を取る。相手の寄生形態は全身に棘の生えたハリネズミのようなフォルムになっている。あの手の寄生状態は無数にある針を飛ばしながら距離を取り、確実にダメージを削り取って相手が痺れを切らしたり、弱ってきた所をすかさず距離を詰めて倒しきるのがセオリーだ。しかし、今回に限っては僕の体力が1なので、適当に針を飛ばしながら引き撃ちをしてればいい状況だ。
これは、シンプルに辛い。だが、やられて嫌な事をして勝ちに行く、性格の嫌な奴選手権が対戦ゲームなので、これは至極当然の行為だとも言える。
ビルの角を上手く使い、くるりと裏側に逃げ込んで視界から山谷さんのキャラが消える。ここで、焦って角を同じように回り込んで追撃をしようと試みると、十中八九回り込む瞬間を狙われ、飛び出し際に軸を合わされて葬りさられる可能性がある。ここは、追い込むように見せかけて瞬時に後方へと引いて距離を取り、相手の攻撃モーションの終わり際に合わせて距離を詰める。
一瞬、突っ込むような動作で釣って……このタイミング!!
すかさず後方にキャラを下げると、それに合わせたかのように角から瞬時に飛び出して、攻撃を仕掛けて来る山谷さん。それを十分な距離を取って、相手の攻撃モーションの終わり際に壁を蹴って前へと距離を詰めに行く。そこで、山谷さんはわざとらしい程に、大ぶりな技を振るって来た。突っ込んで来る読みの置きにしては、やる意味があるのかどうかすらも怪しい技だ。そもそも体力が1しかないのに、そんな大技でオーバーキルを狙う必要性があるのかどうか考えてみた。
一つは、必要のない大技で理解させて煽り散らす事が目的としたわからせモーション。
もう一つは、突拍子の無い事をやる為の布石なのか? 例えば、松谷さんの煙玉のような……まさか、煙玉か!?
読み合いとは違う、これは直感だ。瞬時にキャラの位置を再び下げると、大ぶりな攻撃の終わり際に、画面に白い煙がもくもくと広がり始めた。
「あっぶねぇ…やっぱり煙玉か」
パーティーグッズ煙玉。ノーモーションで使用できる上に、煙に触れると1ダメージだけしか与えられないアイテムなのだが、僕の戦法にはこれでもかと言うほどブッ刺さる。流石に煙を巻かれて距離を取られただろうなと、再びキャラを前の方へ動かそうとした時だった。
煙の中から、山谷さんのキャラが突如現れ、意表を付いて強襲を仕掛け、まさかの接近戦を仕掛けて来た。なるほど、角待ちから始まって一連の流れは三段構えの作戦だったと言う事だ。ここまで相手から距離を詰めてくれれば、何もいう事は無い。
瞬時に考えるよりも、指が反応した。山谷さんのキャラが攻撃モーションに入るよりほんの僅か先に、僕は相手の頭上を踏みつけて飛び越し、それに反応した山谷さんがすかさず視点を反転させるも、飛び越えた先のビルの壁を蹴り、再び山谷さんの頭上を飛び越す。所謂めくりと言うやつだ。
そこからは、山谷さんも必死だったのだろう。めくって完全に討ち取ったと思い、ゴリラカスタムで渾身の一撃を叩き込む。それに合わせて、山谷さんのキャラはすかさず受け身の体制に入った。
はっきり言ってしまえば、ここで普通に針を飛ばされていたら僕は負けていた。
後に、山谷さんはこう語る。
「なんであそこで普通の攻撃をしなかったのか? うーん、やっぱり意地になってた所があるかな。だって、そうでしょ? 八連ハイスピードミサイルを全部パリィで叩き落すなんて芸当を見せつけられちゃ、ただ勝つだけじゃ理解させられないって。だから、考えるより先に手が動いちゃったの。けど、それって結局思考が停止したって事なのよね。負けるべくして負けた。当たり前の事ね……対戦ありがとうございました。いつか潰す」
ゴリラカスタムの攻撃はパリィ不可のチューニングが施してある。パリィ自体は成功エフェクトが出ていたのだが、そんなエフェクトは全てゴリラカスタムの火力の前では塵と化した。
その瞬間、山谷さんの体力値は0になり、僕は辛うじて勝利を手にした。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!