電脳闘争録

気に喰わないヤツらは全員潰す
ジブリ神
ジブリ神

二十六話

公開日時: 2021年8月27日(金) 20:05
文字数:4,274

 出たー! とか、コイツはガチでスナイプして来てワロタw など、配信はさらに盛り上がりを見せる。記憶のいい奴らは、僕が過去に生放送で杉花粉impactの事をボコボコにした事を覚えているのだろう。(五話参照)

「なんでここでびっきーさんが来るのぉおおお!? 聞いてないよおおお!?」

 と、配信者も絶賛絶叫中だ。あぁ、気分がいいなぁオイ。しかし、客観的に見ればこんな行為は臭い奴以外の何物でもないので、こんな真似は創作物の中だけにしておこうね? キモオタゲーマーとの約束だよ?


【びっきー 40200】

【杉花粉impact@100人切り挑戦中 68940】


「ろくまんはっせん!??」

 開幕の体力値の顔見せで、相手の異様な体力値を目にして驚愕した。ある程度なら、体力値や開幕の移動速度や立ち回りでどんなキャラや装備か大体わかるのだが、この体力値はまるで皆目見当が付かない。

「いやいやいや!? 移動速度おっっっそ!?? え? 何? 相手は何をやろうとしてるのか全く分からないのが怖い!!」

 じりじりとゆっくりゆっくり歩みを進めるその姿は、まるで移動要塞のように……要塞? そうか! あれは機動力を捨てて火力と耐久力に特化した型だ。だとすれば、マズイ。直ぐに手を出さないと状況はどんどん不利になっていく。

 そう感じ取り、焦って接近しようとしたが時すでに遅し。相手はエリア限界の壁際に陣取り、有利位置をみすみす明け渡してしまった。

 格ゲーや某機動戦士ブーストゲームなどでは、壁際に追い込まれるのは不利な状況になってしまうのだが、ゲノムの壁際は重量キャラにとって最強の有利位置…いや、最強位置とも言える。何故最強なのか? その理由は、ゲノムは基本的に重量キャラの火力と耐久力には、バランス型やスピード重視の軽量キャラの火力では絶対に勝てないからだ。その為、軽・中量キャラは移動速度で上手く立ち回り、重量キャラの上を取って張り付いたり、優位な状況に持ち込んで倒すのがセオリーなのだが、重量キャラが壁際を背に立ち回られると上手く上で旋回したり、張り付いたり、めくって倒すという行動が封じられてしまう。さらに、接近する際にどうしても相手と真っ向から攻めなければいけない状況にさせられるので、火力で負けてる相手に正面から突っ込まなければいけない理不尽な状況が完成する。

 下手くそや初心者の重量使いは有利位置をあまり考えず、持ち前の火力と耐久力でゴリ押しする脳筋が多いのだが、上にいけばいく程重量キャラ使いは壁とお友達になって理不尽を押し付けてくる。

 別にわざわざ真正面から突っ込まなくても、相手が動かないんだから遠距離から撃ったり引き撃ちすればいいじゃんと思うプレイヤーも少なくないと思う。だが、ゲノムの試合の勝敗条件は「相手を倒すか、時間切れの時点で相手より体力値が多い方が勝利する」というルールの為、軽・中量キャラの引き撃ち豆鉄砲やチマチマやっていたら相手の体力値を削り切れずそのまま負けというパターンが多い。

 この手の対策は、開幕相手が有利位置に付く前に殺すか、更なる体力値と火力を盛って相手に攻めさせる。この二択だ。まともにやり合えば余程の実力差が無い限りは、重量キャラが勝つであろう。それくらい、壁際ガン待ちガン籠り戦法はえげつない程厄介かつ、露骨な軽・中量キャラのメタになるのでランクマでの使用人口はそこそこ居る。

 ガガガガガガガズドンズドンゴゴゴゴゴ!

 相手は巨大ガトリング砲に巨大大楯、さらに背中には背面大口径バズーカ二丁に近接信管ミサイルポッドと周囲に自立浮遊兵器が二機展開してある。一人で戦争でも始めるのかと、常識を疑う程の火力武器をありったけ装備して、さらには…

「見た事無いパーツを装備してるな……あれは、まさかOPか!?」

 α-バイカル。装備すると、移動速度-300%。防御力+300%と一定時間毎に体力値が回復し続ける……だってぇ!?? ダッル…なんだこれ、ガン待ち戦法にピッタリのOPじゃねーか。うさんくせぇ! 運営に問い合わせてアカウント凍結してやる!!

 冗談はさておき、大真面目に勝ち筋が見えない。何故なら、相手が狂ったように垂れ流しているガトリング砲が最大の障壁と化すからだ。正直、真っ向からの殴り合いはゴリラカスタムがあるので、それ程相性は悪くない。ただ、体力調整や致命の劇薬、寸命の首輪で体力値が残っても継続ダメージの鬼と名高いガトリング砲の前では、ミリ残りの体力など一瞬で消し飛んでしまう上に、あの弾幕を無被弾で潜り抜けるのは不可能だ。

 時間と体力値は一切無駄にできない。このまま突っ込んで、最低限の被弾に抑えて相手に喰い付いてそのまま押し切る以外の選択肢が無い。その押し切る事が死ぬ程果てしない難易度な訳で、なんとか考えて勝ち筋を見つけようとするが、やはり突っ込む以外は何も浮かばない。

 ご丁寧に遮蔽物や建物が多く設置してあるマップならよかったのだが、よりにもよってマップは草原。ちょっとした丘の起伏に精々身を隠せる程度で、後は驚くほどにだだっ広く遮蔽物も無い。そんな「ド」が付く程の開所で、ガン待ち要塞重量キャラとやり合うにはマップ相性が悪すぎるのだ。

 そんな時、ふと病室から聞こえてきた松谷さんの台詞が心の中で、弾けて飛んだ。

「あの時響くんから感じたのは、どんな逆境でも決して諦めない、最後まで勝ち筋を考えてそれを実行する強さ。あんな力強い意思を持ってぶつかって来る人は、他に居ないよ」

 そうだ…相性が良いとか悪いとか、マップが不利だのなんだのどーでもいい。それは、僕にとって些細な事だ。いつからそんな理由で「ひよる」ようになった? 

 自分のキャラを信じて、前方向へと歩を進める。

「どんな! 相手でも、真っ向から挑んで叩き潰すッ! それが…俺が、ゲノム全一だ!!」

 OPを使用して、あきれ果てた速度で空中に舞って一筋の弾丸のように、一直線で最短で相手に突っ込んでいく。

 距離が縮まるにつれ、それに比例して体力値がガンガン減って行くが、これは想定の範囲内の行動とダメージなので、特に支障はない。ようは、ここでアホ程被弾しようが、最後に相手より体力値が残っていればいいのだ。その為の必要経費と言っても過言ではない。目先の展開に気を取られ、結果的に勝ち筋を逃す方が遥かに恐ろしい。故に、ここは前ブー(前に向かってブーストするの略語)以外の選択肢は無い。

「うおおおッ!!」

 前前前前前ひたすらに前。ガトリング砲で体力を削られながら、バズーカや近接信管ミサイルの爆風をものともせず、自立兵器の執拗な攻撃をい潜り、ゴリラカスタムの射程距離まで肉薄する事に成功した。これが、最初で最後のチャンスである。ここでケリを付けなければ、再び距離を詰める体力値は残っていない。ここで殺し切るしなないのだ。OPの空中行動キャンセルを駆使しながら変態立体機動で相手を撹乱かくらんして、的を絞らせない。

「ぐっ…!?」

 しかし、ここで問題が起きた。慣れないOPでいきなり実戦投入した事もあり、行動キャンセルのルートがあまりにも複雑かつ繊細なタイミングや操作を要求される為、操作をミスして自分の想定した行動と全く違う技が暴発してしまう。そんな絶好のタイミングと勝機を相手が逃す筈も無く、バズーカの直撃を喰らってしまい、爆発で硬直を取られた所にガトリング砲と自立兵器のレーザーが直撃して、体力値は一瞬で溶けて行く。立て直して喰い付こうとしたが、近接信管ミサイルの爆風で視界も滅茶苦茶に破壊され、最早自キャラが画面にまともに映らない。弾と爆風のフルコースを強制的に提供され、それらを全て平らげる結果となってしまった。

 画面が何も見えなくても、今まで幾度となく繰り返し、押し通してきた戦法だ。寸命の首輪で体力値が1残る音を聞き逃さず、タイミング良くゲノム寄生を行って、無敵時間で延命を計る。その僅かな…本当に僅かなタイミングでガトリング砲の発射間隔を鼓膜に刻み付け、無敵時間が切れるか切れないかの瀬戸際に上空へジャンプして相手の真上…と、言うより壁に背中をこすり付け相手と全く同じ座標位置にキャラを設置して、OPの加速と行動キャンセルで一気に真下へと急降下させる。

 この行動になんの意味があるのか? これは一種の賭けである。題して、運を天に任せた運ゲーめくりと言えばいいだろうか。相手が壁を背にして張り付かれないようにしているのであれば、逆に言えば背後さえ取ってしまえばどうにでも料理できてしまう。だが、それをさせない為のキャラと装備に立ち回りだ。これは、作中で記載されている通り、理不尽かつ強力な戦法だ。それを打破するために行ったのが、相手のキャラと全く同じ軸にキャラを合わせ、壁にキャラをこすり付けてキャラ同士がカチ合った際に相手と壁の間に滑り込ませるといった方法だ。

 これは、万能でもなく確実でもない。あくまでも、裏を取れるか否かはゲーム内の判定システムに100%依存する為、あとはひたすらに裏を取れるように願うのみである。それでも、やらないよりかはマシと言うレベル。本来であれば、相手の目の前でミスしてタコ殴りにされた時点で今回の試合は九割勝負は付いたようなものなのだ。僕のこの行為は、所詮まだ終わりたくない続けたい勝ち筋あるかもしれないもん! と、駄々をこねてるようなモノだ。それで勝ちを拾えれば、儲けというもの。

 そして、その瞬間はやってきた。圧倒的な速度で突っ込んだ僕のキャラと、どっしりと構えた相手のキャラが接触した。

「入れ入れ入れ入れ入れぇ~ッ!!」

 この時の気分は、まるでパチンコの玉が穴に入るか否かを願うパチンコを打つギャンブラーと同じ心境だった。

 ズルル……

 僕のキャラが相手のキャラの頭の上…頭上とか言うレベルでなく、ゼロ距離。本当に文字通り頭の上で右へ左へスライドしてユラユラと生死の狭間を彷徨う。そこまで待ってて、気が付いた。

「これ、殴った方が手っ取り早くないか?」

 しかし、ここまでやって下手に動かしてしまうと、相手の前方に落ちてしまう可能性もあるし、かと言って殴り付けたとしても、確実に殺しきれる保証はどこにも無い。

「あっ」

 一瞬、ほんの一瞬悩んだ瞬間に勝負は決した。自立兵器が目の前でコンニチワして、左右から近接信管ミサイルが誘導して襲い掛かる。慌てて回避を入力したが、時すでに遅し。体力値が1しかないキャラが、自立兵器のレーザーと近接信管ミサイルの爆風を耐えられる訳も無く、僕は公開処刑をするつもりが逆に処刑されてしまった。

 うわっダッサ。

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