電脳闘争録

気に喰わないヤツらは全員潰す
ジブリ神
ジブリ神

二十五話

公開日時: 2021年8月25日(水) 20:05
文字数:2,389

「ぶはー…息苦しい戦いだった」

 一言で表すとめんどくさい。これに尽きる相手だった。最後はほとんど勢い任せだったが、頭を使いながら勢いに身を任せる行動は僕は有りだと思っている。

 理詰めで考えてゲームをプレイする人間は、結構こういう行動や択は嫌うのだが、たまにはこういう勝ち方も悪くは無い。

「また…負けたのか」

 おっとぉ、そういや電脳怨霊と戦ってたんだった。途中からマジで人間相手と錯覚する位の読み合いしてたから忘れてたぜ。猿戦の時とテンションの違いが激しすぎる…あの時は作業風景とか言って戦闘描写をほぼカットされたからな。

 しかし、コイツの表示名は一年間負け続け折れた心だったかな。ちょっと疑問というか、謎なんだけど…このレベルで一年間全く勝てない相手って、どんなバケモンだよ? ゲノム世界一位とか?

「対戦してれば嫌でもわかる。頭使って考えて行動して、ちゃんと立ち回ってて正直凄く強いと思った。やり合う前に、頭使わない雑魚ってオブラートに包んで言って悪かった」

 言った後に、あれ? これ包んでねーなと気が付いたが、言ってしまったものはしょうがない。

「………」

「これだけのPSプレイヤースキル持ってて、勝てない相手って誰なんだ? そいつに連敗して、心が折れたって正直信じられないんだ。一年間もやり合えば、一勝くらいはできるだろ?」

 すると、だんまりを決め込んでいた電脳怨霊は小さくフフッと笑った気がした。なにせ、またモヤモヤの形状に戻ってしまったのでイマイチ感情が読み取れない…と、言うより何を考えてるんかわからない。対戦してる時はわかるんだけどね…ホラ、対戦ゲーマーって戦闘でしか繋がれないサイヤ人みたいなトコあるから。

「あ、く、ま…私なんか全く歯が立たない、正真正銘のあくまみたいなヤツ。試合にもならない…文字通り実力の差を理解わからせられて、精神メンタルを破壊する…圧倒的強さ」

 悪魔とキタか…ほほう! 悪魔的な強さという事か! 興味あるなぁ…一度戦ってみたい。

「おい、そいつのPNプレイヤーネームは? IDはわかるか!? 教えてくれ」

「だけど…久しぶりにまともな試合内容で楽しかったな……あぁ…楽し、かっ……た」

「お、おい待てよ!? まだ消えるな勝手に成仏すんな!!」

 僕の叫びも虚しく、電脳怨霊はそう言い残し、紫色のモヤがキラキラと白いオーラに輝いて勝手に成仏してしまった。負けて納得して満足するなんて、結局は精神メンタル雑魚だから心が折れるのだ。

「…ん? なんだこれ?」

 電脳怨霊が成仏した場所に、アイテムが落ちている。電脳怨霊のドロップ品なんて聞いた事も見た事も無いが、ここは表の世界なので寿命を得る代わりにアイテムが貰えるのかと解釈する事にした。それに、道端に未知のアイテムや宝箱が落ちていたらそれが罠であっても拾いたくなるのが、ゲーマーのさがってヤツだ。

「おわぁー!?」

 拾ってビックリってヤツだ。心臓が目玉から飛び出て爆散する位には驚いた。朝の5時から奇声を上げて叫んだので、夢の中でおやすみしてた両親を現世に呼び寄せてしまい、ハチャメチャに怒られた。ごめんなさい。

「ふぅー…まいったまいった。しかし、これOPじゃん!」

 電脳怨霊が置いて行った遺留物とも呼べる代物は、アイツが使用していた追加スラスターだった。

「アイテム名 ε-リンソディ。移動速度+150%で空中移動時はさらに+25%速度が上がる!? 空中であればあらゆる行動からキャンセルを駆使して任意の位置に回避できる……って、つっよ」

 なんだこのバカタレ装備は!? これだけ移動速度が上がるなら、装甲をガチガチに固めて足を止める火力武器もキャンセルルートを駆使してデメリットがほぼ無いような使い方ができる。ガチタンの装甲で飛び回るネリスみたいなアホみたいな事もできるな…と、イケない妄想にふけっていた時だった。

 勅使河原さんからのメッセージが届いた事を、ぶるぶるとスマフォがバイブレーションして僕をイケない妄想から引き戻す。


 <こんな朝早くから何の用だオタクー!?


 <表の世界で電脳怨霊が出たけど成仏した


 <なんだそれwww

 <解決したならウチもう寝る


 <ごめんね

 <おやすみ~


 勅使河原さんには申し訳ない事したなぁ…けど、勝手に成仏したんだからしょうがないじゃん。

 ふと、時計に目を移すと、時刻は5時15分。寝てもいいが、OPを手に入れた興奮と性能を試したい気持ちでいっぱいだから、おそらく寝れないであろうと判断した。だが、こんな朝早くからゲノムをプレイしているフレンドなどいる筈も無く、真っ黒に染まっているフレンド欄を見て軽くため息をついた。

「そうだ!」

 フレンドが居ないなら、プレイしている人間を探せばいいじゃない。動画サイトを立ち上げ、ゲーム配信をしている人間が居ないかチェックする。いわゆる、スナイプしてOPの性能を確かめてついでに相手視点で自分の動きの確認は建前で、本音は公開処刑で配信者をブッ潰し、愉悦に浸りたいからが正しい。

「…んん!? 杉花粉impactの実況耐久生配信? 1VS1で100人切りするまで終われません…か」

 配信を覗いてみると、そこには6時間ぶっ続けで96連勝中の杉花粉impactの姿があった。どうやら、コイツもOPを使用しているらしく、配信は「あと4人」コールで盛り上がっていた。

 ルールは簡単。100連勝しないと配信は終われない。負けたらまた一からやり直し。この企画の為にわざわざOPを引っ張り出し、三日間の有給を取ったらしい。

 あの晒しスレの情報は正しかったのかと思う気持ちと、配信を滅茶苦茶にしてやろうと言う気持ちが混ざり合う。

 ニヤリとつい微笑んでしまう。勘のいい読者…もとい、ゲーマーならお分かりだろう。こういう雰囲気をブチ壊して空気を読まずにイキり散らかす行為は、快楽と同義語だ。

「よし、スナイプ決定! えい、ポチっとな」


 対戦相手が決定しました


 杉花粉impact@100人切り挑戦中 VS びっきー


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