とりあえず、悪魔的な存在は置いといて二人に連絡を取ろうかと思ったが、時刻は7時30分。二人共、通学準備や学校に向かっている時間だ。流石に僕も眠気が脳に「はよ寝ろ」と訴えかけているので、布団の中に潜り込んだ。
そして、時刻は20時ちょうど。毎日三人で集まり、ゲノムをプレイする事が僕たちの日課となっていた。だが、今日は勅使河原さんが来れないようで…
「勅使河原さんは?」
「なんか友達が彼氏と別れたから慰めてから来るって言ってたし、来ないかもしれないとも言ってた」
うむ、陰の者には到底理解できないイベントなので放っておこう。今日は山谷さんと二人でプレイする事になるのかな。
「今日はどうする? 勅使河原さんが居ないなら、裏世界を探索しながら寿命を…」
ここまで言って、気が付いた。裏世界で寿命を稼ぐと言う事は、遠回しに人殺しに加担しろと同義語だ。慌てて口を塞ぐが、山谷さんはどうやらそれを察したらしく、曖昧な返事を返して来た。
「うー…ん、裏世界に行くのはいいけど、私は極力相手を倒したくはないかも。人を探すだけで…」
今度は、急に山谷さんが口を塞ぐ。今、人を探すと言わなかったか? と、言うか山谷さんはどうしてゲノムをプレイするのか、未だに聞いた事がなかった。勅使河原さんは稼業の手伝いというか、電脳怨霊が現実で除霊できないからゲノムを通して除霊する事が目的だし、山谷さんは助手と呼ばれているくらいだから、やはりそのお手伝いだろうか? けど、実力的に言えば勅使河原さんの方が助手っぽいけどね。この際だから、聞いてもいいのかもしれない。
「そういえば、山谷さんはどうしてゲノムリンクをプレイしてるの? やっぱり、勅使河原さんのお手伝いとか?」
「………」
しばらくの間、流れる沈黙。なんだ? もしかして地雷踏んだ?
「りんちゃんとは、偶然ゲーム内で知り合って、偶然同じ高校で同い年で運命だねって仲良くなっただけ……私がゲノムをプレイする理由は、誰にも話した事がないし、聞いても面白い話ではないと思う。それでもよければ、話すけど…」
そこまで前振り入れたら、余計聞きたくなっちゃうじゃん。ここは、押し一択!
「聞きたい聞きたい! 教えてよ」
すると、何かを決意したような口調で、その壮絶な理由を語り始めた。
「私がゲノムをプレイする理由は、殺された友達の仇を探し出して倒す為よ」
殺された? それは、ゲーム内でという事だろうか? それとも、現実世界での話だろうか? どちらにせよ、山谷さんの言う通り楽しく和気あいあいと話せる内容ではないらしい。
「ネットストーカーは流石に烏丸くんなら分かるよね? 簡単に言えば、ゲーム内で付きまとわれて、SNSのアカウントから住所を特定されて現実世界でのストーカーに発展したのよ」
男の子の僕には今まであまり接点はなかったが、そういう事例はゲノムに関わらず他のゲームでも問題になっているのは聞いた事がある。
「友達の名前は楢崎美紅。彼女と私の関係はリアフレで、毎日一緒にゲノムをプレイしていたわ。内向的な性格の私と違って、美紅はリアルでもゲームでも男女隔たり無く、誰とでも仲良くなれたし誰とでもVCを繋いでプレイできる子だった」
なるほど、勅使河原さんみたいな結構誰とでも喋るような子だったのかな?
「そんな明るい子だったから、リアルで女性から相手にされないそういう系の下心丸出しの男の人達がいつしか彼女の周りに集まるようになっていった。あの時の美紅を一言で表すなら、オタサーの姫」
あっ、なるほどそっち系かぁ。
「ただ、そんなのは美紅は望んでいなかった。本当に、ただ楽しんでゲームがしたいだけだったの。OPをプレゼントされたり、寄生させたいゲノムを捕獲してもらったり、そんな状況について相談された事もあった。そんな事が続けば、周りは当然美紅との関係を巡ってギスギスするようになっていったの」
よくある、ゲームに異性が混ざるとロクな事にならないを絵に描いたような状況だ。そう考えると、僕の今の状況は割と恵まれているというか、円滑な関係を築けている気がするが、そう思っているのは僕だけだと悲しいので口が裂けても言わない。
「そこで、チームは内部崩壊を巻き起こした。美紅を巡ってオタサーの騎士同士の争いに嫌気が指したまともなプレイヤーと、美紅を巡って争うプレイヤーの二分化ね。当然、美紅は両方の人間にブッ叩かれた。アイツが居たからチームは崩壊したんだ! とか、あれだけ貢いだのに俺の物にならないなんて、許せない! なんて暴言がゲーム内とSNSでひっきりなしに飛んで来たわ。当時、彼女は本当にそんなつもりは無かったと必死に弁解したんだけど、そんな事は炎上案件の前では火に油を注いでフラダンスを踊る行為に等しいわ」
適確な例えで思わず笑いそうになったが、山谷さんは至って真面目なトーンでお話しているので我慢した。なにこれ? 地獄ですか??
「SNSで必死に弁解したり、謝罪したり、本当に可哀そうだった。私も力の限りフォローしたのだけれど、一向に暴言や嫌がらせは収まる気配が無かった。そんな時だった…あの事件が起きたのは……美紅が殺されたのは」
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