電脳闘争録

気に喰わないヤツらは全員潰す
ジブリ神
ジブリ神

五話

公開日時: 2021年7月16日(金) 12:10
文字数:4,205

 ピロピロピロ!

 一日が終わり夕日が沈みかけた18時、学校から帰宅して乱雑に制服を脱ぎ散らかしてPCの電源を入れたトコロで、松谷さんからのメッセージがスマフォに届いていた。


 ごめんちょっとIN遅れるから先に地下階層・最下層で待ってて


 と、短い文章で最低限の内容が書かれていた。了解、と打ち返して言われた通り、先にゲノムにログインする。

「っと、最下層行く前にもうちょっと情報集めるか。昨日は松谷さんとのタイマンに全部時間を費やしたからなぁ」

 慣れた操作で現シーズンのランキングを表示させ、上から順にネーム、装備、順位を見ていく。一位はこの小説のヒロイン我らが松谷さん。キャラ名・野生の脳筋ゴリラでくすりと笑いがこみ上げた。装備、プレイスタイルがこれほど似合う名前は他に無いからだ。ポイントは二位を大きく突き放し100000074ポイント……ん? イチ、ジュウ…ひゃく、せん……一億超え!!??? 嘘だろ? 前の僕のスコアポイントでも88000000だったのに……もうゲノムの歴代No1は松谷さんじゃないか? 僕は直でタイマン張って負け越してるし、アレに勝ち越せるプレイヤーなんて今の環境にいるのか?

「ふむ、手っ取り早くランクマッチに数戦潜り込むか」

 ゲノムのランクマッチには2種類のモードが存在する。試合モードと、死合モードだ。

 どちらも一対一で、お互い死ぬまで戦うか時間切れで勝敗が決まる試合モード。

 一対一で死ぬまで戦うルールが、死合モード。

 試合モードは、同じポイント帯のプレイヤー同士がマッチングし、勝負の内容によって大体プラスマイナス平均10ポイント前後の変動がある。

 一方死合モードでは時間無制限、ポイント帯も無差別、勝てば100ポイント以上プラスな上に、相手の装備をどれか一つ奪えるといったスリリングなモードだ。当然勝てば官軍負ければ死刑の地獄のようなルールなので、死合は暴言、煽り、回線切り(重大なペナルティ有り)、晒し、代行プレイetc…が繁栄しているので、意地でも負けたくない奴らや強者と戦いたい戦闘狂が集う。人はそれなりにいるからマッチング自体は快適だったりしちゃうのだ。

 そういった意味でも、本当に強くなりたければ死合で回数を回せというのが昔からの決まり文句なのだが、装備と大幅なマイナスポイントのハイリスクを避けるプレイヤーは試合の方に流れていく。ガチ勢は死合、ライト・初心者は試合といった傾向だ。

「僕はあの緊張感とハイリスクハイリターンが好きだから死合に潜るけど、今はどっちが人いるんだろ(マッチングしやすいんだろ)?」

 百聞は一見にしかず。

 とりあえず潜って今の自分の強さと環境を確かめてみよう。

 キーボードの脇に冷蔵庫から取り出して置いた缶コーヒーを飲み干し、変わりにパッドを握って戦い(マッチング)に備える。



 対戦相手が決定しました



「キタか…」

 マッチング待機画面から切り替わり、対戦相手の情報が開示される。

「相手もLv99の……んん? 杉花粉impact@生放送って……確かコイツ有名配信者だったよな?」

 ゲーム画面から一時的にネット画面に切り替え、配信サイトに飛んでみると、まぁーうるせぇことこの上ない実況で騒がれていた。

 「視聴者数約一万人かぁ……随分人気じゃないか」

 引退したはずの前期チャンピオンとマッチしただとか、引退詐欺だとか、コイツはそんなに大した事無いだとか、とにかく好き放題騒ぎ放題言われていて気分が高揚してきた。

 え? 何故かって? 舐めた相手を今からボコボコにして実力をわからせる絶好の機会な上に、わざわざ自分の負ける所を晒して公開処刑の用意までしてくれているのだ。気分が高揚しない訳が無い。

 対戦「ゲーム」と言えば聞こえはいいが、画面の向こうに生きた「人間」が存在するのだ。

 そこに勝ち負けが存在する以上、お互いの全てをぶつけて「戦う」訳だ。もうそうなると、綺麗ごとは言っていられなくなる。前に対戦はコミュニケーションと例えたが、大前提は戦いなのだから、向かって来る相手を倒す……その為のコミュニケーション。そして、根本的な生物としての本能。

 とどのつまり、画面の向こう側の人間をブッ倒してメチャクチャにしてやりたい。

 コレに尽きる。

「場所は……荒廃都市か、いいね」

 荒廃都市は、荒れ果てて倒壊したビルや瓦礫を遮蔽物にして上手く戦うのがセオリーな基本的なステージだ。余計なギミック等は無く、タイマン厨が好んで使用する。

 そういうぼくもこのステージは好きだし、ステージとキャラ相性もそんなに悪くは無い。

 ぼくの操作するキャラクター「びっきー」が転送されて、死合開始のカウントダウンが画面に表示される。

 それと同時にお互いの体力が数値化されて画面下に表示される。

【びっきー 37080】

【杉花粉impact@生放送 41800】

 基本的には初期体力の低い方が攻めるのが試合のセオリー。試合には制限時間が設けられていて、制限時間が過ぎても決着が付かなかった場合は残り体力が多い方が勝者となるのだが、生憎死合は制限時間が存在しない為、ゆっくり時間をかけて攻める事ができる………のだが

「悠長に攻めてたら相手が有利位置に陣取っちまう…開幕殺しにイく」

 速攻でアイテム欄を開いて、致命の劇薬を使用する。

(致命の劇薬・使用すると体力が0になる自殺用アイテム)

 普通なら死んで負けてしまうのだが、寸命の首輪のおかげで体力が1だけ残る。それと同時に速攻でゲノムを寄生させて、ゲノム形態へとキャラクターを変身させて準備はオッケーだ。

 忘れている読者の方々の為に、もう一度説明しておこう。

 ぼくの寄生ゲノム戦の戦術は、寸命の首輪で体力調整をしてゲノム状態になり、スキル「生への渇望」を発動させる。体力が減れば減るほど攻撃力と移動速度を上げて相手を一方的に屠る戦闘スタイルなのだ。

(生への渇望・体力が一定以下になると、攻撃力アップ、移動速度アップ、攻撃モーション2.5倍、攻撃範囲拡大、体力回復不可、防御力マイナス100%を付与させる)

 レーダーを頼りに一直線に相手に向かって行き、立ち塞がる障害物を無視(ゲノム形態では、普通は移動出来ない壁や天井を高速で自由に移動できるようになる)して目標を視認する。

「やーーーっぱり有利位置に陣取るつもりだったな?? そうはさせねぇッ!!」

 相手は廃ビルの壁をよじ登っている最中で、高所への移動は人間形態だと壁をよじ登る必要があり、モーション中は動く以外のモーションが出来ない。身体の向きを地面と平行にさせながら、ビルの壁を駆け抜けて襲い掛かってくる僕のキャラクターを前にして

「うっわぁああああああ!? 嘘だろぉおおおおおおお??」

 と、配信画面から絶叫が聞こえて来たが知ったこっちゃ無い。

 背中に担いでいた槍を槍投げの要領で杉花粉に投げつけ、被弾エフェクトと共に身体に槍が深く刺さり、糸の切れた操り人形のように地面に向かって落下して行く。

「追撃チャーーーンス!!」

 と、調子にノッて叫んだはいいが、ここで二通りの展開が予想できた。

 僕の追撃を読んで相手もゲノム化して応戦するパターン、これは最初の攻撃で相手の体力がゲノム寄生ライン(体力が半分以下になるとゲノム形態になれる)に到達している為、カウンターで無敵モーションを合わせて(ゲノム寄生モーションはどんなタイミングでも実行できる)来ると予想する。

 もう一つは、落下しながらなんらかのアイテムを使用するパターン。昨日の松谷さんが仕掛けたように、煙り玉を置いておくだけの簡単なお仕事パターン。

「だいたいってか、99%はゲノム化だろ? 松谷さんが異常なだけだよな…」

 煙り玉で対策はしていないと割り切り、そのままセオリー通りの追撃に移行。

 相手との距離を詰め、いかにもこれから攻撃をしますよ。と、いう餌…釣り、フェイクを投げておく。

 その行動を見た相手は、ただでさえ開幕大ダメージを喰らわせられて冷静な判断が出来なくなっていた。言い換えれば、ここで…この局面で落ち着いて対処できる人間が強いのだが、どうやら杉花粉はそこまでのプレイヤーではなかったようだ。

 接近させて、急遽真後ろにキャラを回避させると、ぼくの予想通り起き上がりに暴れ散らした後隙にゲノム化の流れはおおかた予想通りの行動だった。

「う、うわ!? 釣られた!」

 後はゲノム化の硬直モーションのタイミングと相手の動きを冷静に見て、一気に攻撃を叩き込む。攻撃量と比例して相手の体力ゲージはどんどん減っていき、死合は僕の勝利で終わりを告げた。

「ふぅー…」

 一息付いて、再び缶コーヒーに手を伸ばすが、死合前に飲み干した事をすっかり忘れていた。目的を失った宙ぶらりんの右手が遊んでいる最中に、リザルト画面が表示される。

「総戦闘時間37秒? まぁ、こんなもんか」

 配信サイトからはつえーとか、レベルがちがう、勝てる気しないなんてコメントが大量に流れていて悪い気はしなかった。

 「さぁーて、お楽しみの装備ブン取りタイムのお時間ですよぉ??」

 リザルト画面から相手の装備画面に移行され、詳細にカーソルを合わせて舐め回すようにステータスとにらめっこが始まった。

「重火砲-天華!? ナニコレ! 今の環境こんな武器あるの?? 火力エゲツねぇけど移動速度マイナス80%は相性悪いな」



 ピロピロピロ!



 ん?ダイレクトチャット…って、あーーー!!!



 野生の脳筋ゴリラ「おっそーい!」

 びっきー「ごめん! 今から向かいます」

 と、チャットを送信したら間髪入れずに今度は通話のお誘いである。相手は当然ゴリラから。

「もしもし?」

「ウホウホ!! ジカンマモレナイヤツ、コロス!! コレ、ジャングルノオキテ」

 ……なんだろ? 確かに松谷さんを待たせたのは悪いとは思ってるけど、この素直に謝りたくない気持ちはナニ??

 しかもめっちゃ頑張って喉奥から野太い声出してる…本物のゴリラみたい。

「う、うほうほ…遅れてごめんねゴリ」

「は? 頭大丈夫響くん」

「えー!? いやいや…先にそっちがゴリ語で喋ってきたんじゃん!?」

「あははは、ゴリ語ってなんだよ、ウケルー……じゃあ、今日もヤりますか!!」

 こうして、再びぼくと松谷さんの耐久デュエルが幕を開けた。

 ずっと、こうして楽しいゲーム主体の生活が続けばいいと思ってたし、続けられるよう努力はした。けど、自分達じゃどうにもならない規模の力の渦に巻き込まれるなんて、この時は想像もしていなかった。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート