電脳闘争録

気に喰わないヤツらは全員潰す
ジブリ神
ジブリ神

二十四話

公開日時: 2021年8月23日(月) 20:05
更新日時: 2022年1月16日(日) 23:22
文字数:5,283

 停学中なので、日常生活の学校パートはありません。どうも、響です。

 連日山谷さんとタイマンを張っているのですが、戦績が580戦17勝563敗で心が折れそうです。OPという、まさにインチキ反則パーツはやはり強力無比な性能で、僕の心を全力で折りに来る。立ち回りや対策を考えても、否定されては考え、新しい対処法や立ち回りを考えて臨んでも否定されるを永遠と繰り返す。まるで、決して超えられない壁に永遠と挑み続けるような錯覚にさえ陥る。

「ぐわあああまた負けた!」

 どうやって相手を追い詰めようとか、どう立ち回ればいいのだろう? と、試行錯誤している間はなんだかんだ楽しいし、自分の成長にも繋がるので、決して思考回路を停止して脳死でゲームをプレイする事は極力避けてはいるのだが、こうにも手応えが無いと流石に心も荒んでくる。このままでは、僕の敗北お気持ち感情で電脳怨霊が生み出されてしまうので、こういう時は気分転換も大事だ。

 本来、ゲームは日常生活の中で上手くいかない時の気分転換でプレイする人間の方が多いのだが、この小説で出て来るゲーマーという人種が異常なのである。

 仕事や学校で上手くいかないので、逃げ道としてゲームをプレイする。では、その逃げ道でも上手くいかなかったり、好きな事で何らかのアクシデントや不調でストレスがたまった時、人間はどうするのだろう?

 答えは、上手くいくまでさらにやり込み続けるかきっぱりやめるかの二択に絞られる。

 上手くいくまでやり込んでも、結果的には負けた分を取り返そうと熱中してさらに金を溶かすギャンブラーと同じ心理状態になってしまう事の方が多いので、僕は一旦ゲノムからログアウトして匿名掲示板で情報を漁る事にした。

 閲覧するのは当然雑魚のお気持ち表明が満載な晒しや愚痴スレ。ここなら、あることないことをグチグチと勘違いのイキリ馬鹿のお気持ちが無限に溢れかえっているので、普段はこんなゴミの掃き溜めのような場所は閲覧しないのだが、電脳怨霊がどういった理由で生みだされるのか少し興味が湧いたから研究の為にも少し見てみようと言う訳だ。

「………あ?」

 少し興味のあるスレを見つけた。タイトルは…

「OP所有者を晒すスレ」

 ふむふむ、現在OPは鯖内で十二本存在が確認されているのか。山谷さんの所有しているΣ-ラーカスの名前も確認はしたが、未だに所有が上位チームの名前になっている。どうやら、まだ山谷さんが上位チームの拠点からOPを拝借したのはバレていないようだ。

 正直な話、この話題はなるべく秘匿したいという気持ちが強い。傍から見れば、僕たちは猿を引き連れて拠点を襲撃し、上位チームのメンバーの大半を皆殺しにした挙句、OP目的の強奪行為…戦争を吹っ掛けたと捉えられてもおかしくはないからだ。

 そういった見解もあるので、もしかしたら山谷さんや僕の名前が晒されていたら面倒な事になると思ったが、どうやら杞憂に終わったようだ。

「あれ? この杉花粉impactって、確か…有名実況者のアイツだよな? OP所有者だったのか」

 ランクマで戦った事あるな。(五話参照)下手ではないけど、セオリー通りというか、教科書通りにしか動かないから面白みがあまりないプレイヤーだった気がする。所有OPはα-バイカル…詳細はなし、と。匿名掲示板だし、嘘か本当かもわからないから、頭の片隅に置いておくか。

 気が付けば、時計は朝の四時を指していた。家から出ずに永遠と引き籠もってゲームとネットをしていると時間と曜日、日付の感覚も狂ってしまう。

「ふーっ…少し明るくなってきたな」

 このまま布団に潜り込んで、夢の世界に飛び込んで身体を休めようかと思った。だけど、この時だけは何故かそんな気になれず、無意識にゲノムにINすることにした。

 山谷さんや勅使河原さんはもちろん、他のフレンドもこの時間帯は流石に誰もINはしておらず、なんとなく一人で表の広大かつ複雑な地形を散策する事に決めた。

 特に誰の領地でも縄張りでもない、ゲノムの出現フラグすら発生しない静かなエリア。高層ビルが途中から崩壊してパッキリと折れた残骸が地上に散乱して、行く手を阻む。埃や無造作に伸びた雑草が数多に立ち並ぶ廃ビルを覆い、このエリアだけが時間から取り残されたような、そんな錯覚すら感じさせてくれる。

 そんな数多の廃ビルの中から、無作為に目に付いたビルの中に入ってみる。当然と言えば当然なのだが、何もない。何かアイテムが落ちていたり、隠し扉があるなんて事は一切なく、本当にただのオブジェクトとして作られた一本の廃ビル。だが、そこに見覚えのあるモノが宙に漂っているのを僕は見逃さなかった。

「……あれは、電脳怨霊の?」

 紫色のモヤ。負の感情、敗北癇癪お気持ち表明の集合体。

 どうして表の世界に現れたのか理解が追い付かないまま、僕は反射的に戦闘態勢を取った。

「コンナニツラク…ミジメナオモイヲシテモ、ジョウタツシナイッテワカッテレバ…トドカナイッテシッテイレバ、タイセンゲームナンテヤラナカッタノニ」

「………?」

 おかしい。電脳怨霊に遭遇しても、例の心霊現象が起きない。それだけじゃない、今まで出会ったタイプの電脳怨霊は、狂ったように怨嗟の叫びを吐き出していたが、このモヤはそういった感情ではなく、どこか諦めや後悔が感じ取れる。まるで、ポキリと心が折れてしまったような雰囲気を醸し出している。

「どんなに努力しても報われない事はあるよ。それは、現実世界リアルでもゲームでも同じことが言える」

 僕は、努力すれば夢は必ず叶うとのたまう輩は信用しない。第一、そんな事を言えば日本のゲーマーはウメハラで溢れかえるだろうし、プロ野球選手は大量に量産され、大成功したYouTuberの動画が画面に埋め尽くされるだろう。どんなに努力しても、それが必ず良い結果に結びつくとは限らない。そこで、ようやく気付くのだ。自分は「持たざる者だった」と。

「何があったのかは知らないけど、対戦ゲームなんてプレイしない方がよかったって、本気で思ってるの? あの初めて操作した時のドキドキ感や仲間と一緒に楽しく話してプレイした思い出も、なかった事にしたいの?」

「………」

 返事は無い。よくわかんねーなこの電脳怨霊。めんどくさいから成仏するか消えてくれれば楽なんだけど…このまま放置して帰るって言うのもなぁ。まともな時間帯になったら勅使河原さんに連絡入れて、それまでここで見張ってる事にするか。

「辞めたいと思ったら、素直に辞めるのも一つの手だよ。一回ゲームから離れて、またやりたくなったりモチベーションが上がったらプレイすればいい」

「………」

 返事は相変わらず無い。もーやだ、なんだよコイツ。とりあえず、勅使河原さんのスマフォに起きたら連絡下さいとメッセージだけ入れておいた。

「そうやって腐ってても、何も始まらねーよ。腐る前に、頭使ってどうして負けたか? 何がいけなかったのか? どうやれば相手の嫌がる行動ができるのか? っていう事を考えない訳? だから、上達しないんじゃないのかな」

 すると、目の前の電脳怨霊に変化が出て来た。いや、変化どころではない。急速に姿形が変容していき、人型のシルエットが形成されていく。

「シ、シッたフウなクチをキキやがッて! お前に私の何がわかるッ!」

 嘘だろ!? ここは表の世界な上に、目の前でゲノム出現フラグだって!? 表で電脳怨霊と戦うなんて、どうなるか想像が付かない。


【怨念・一年間負け続け折れた心 Lv99】


 相手はどうやら、汎用型のキャラをかたどっているようだ。大型メイスに、大型レールガンを装備して、尻尾のような尖ったシルエットはおそらく自立起動支援兵器だろう。肩に追加スラスターをチューニングして、大型武器を振り回しながら火力と機動力を両立させた攻守とも高い水準でまとまっている汎用キャラだ。

 戦うには狭い廃ビル内では、射撃武器と自立兵器を装備している分、若干こちらが不利になるかもしれない。生憎こちらにはゴリラカスタムがあるので、壁をブチ破って相手のレンジから逃れてから仕切り直しという手も有りだな。

 刹那、既に大型メイスの間合いまで一瞬に距離を詰められ、相手は真っ向から叩き潰すと言わんばかりに大型のメイスを振るう。

「チッ、追加スラスターで一瞬で距離を詰めたかッ!」

 咄嗟に身体が反応して、パリィモーションを入力。成功! 独特な成功エフェクトが表示され、相手が特大な隙を晒すので、それに合わせて致命の一撃を叩き込もうとした時だった。

 ひゅるひゅるひゅる。

 尻尾の自立兵器が脚部に絡みつき、転倒して逆に大きな隙を相手に晒してしまう。そこに餅をつくかのように、思いっきり大型メイスを振りかぶって全力で叩きつけて来た相手の行動に合わせて受け身を取り、間一髪で攻撃を躱す。

「オマえにナニがわかル…」

「………?」

「アタマヲつかう? 考える? 何も知らないお前が、今までの努力や頑張りを否定するなら、私はお前を否定する。対戦ゲームは結果を出せばそれは覆らない」

 うっすらと身体を形成したモヤがはっきりと目に見える形で現れた。それに伴い、ノイズが混じっているような聞き取り辛い声もはっきりと聞こえるようになってきた。それだけ、僕を倒そうとする意志が強くなったという事だろうか?

「今まで何があったかは知らないけど、対戦の本質は理解できてるのか。猿とかよりは遥かにまともなお気持ち表明じゃないか。上等だ! 潰す」

 スラスターで高速移動しながら、本来足が止まる大型レールガンを慣性を乗せながらスライドさせて撃ち込んで、後隙をジャンプしながらメイスを叩き込むジャンプ格闘で消して三次元的なトリッキーな動きで的を絞らせない嫌らしい立ち回りだ。これを捉えるのは骨が折れそうで、本腰入れてかからないとコッチがやられる。

 ダンッダン!

 壁を蹴りつけて、反復横跳びの要領で室内を縦横無尽に飛び回る電脳怨霊。ただ飛び回るだけならまだいいが、大型レールガンを撃ちながら自立兵器が独自に立ち回り攻撃してくるので、もううざったい事この上ない。多少の被弾は覚悟の上で、内部からビルの壁を破壊して外に逃げるような形で飛び出した。

 意外にも追撃はなく、今のうちに有利位置に陣取り迎撃の準備を整えようと頭を切り替えた瞬間だった。

「上か!?」

 ゴウッとスラスターの大袈裟な起動音をヘッドセットが捉え、鼓膜にその情報を伝える。

 室内の天井をブチ抜いて、ビルの屋上から重力とスラスターの加速によって暴力的な速度でメイスを叩きつけようと相手は襲い掛かって来る。

「チッ!」

 軽く舌打ちして、暫く出番の無かった投擲槍を装備して、相手を迎え撃とうと思いっきりブン投げるが、いきなり空中で直角的な回避行動を取って僕の投げた槍は虚しく無人の空を行く。さらに、相手の自立兵器が纏わり付き、一瞬だけ相手から目を離した隙にお返しとばかりに大型メイスを投げ付けて来た。

 即座に回避行動を取って、間一髪のところでメイスの直撃は避けられたが、今度はビルとビルの間を反復横跳びするようにジグザグに飛び跳ねながら上から距離を詰めて来る。

 今までの相手には無いめんどくさいというか、うざったいというか…受け身に回らざるを得ない状況を作り出されてる感が半端じゃない。状況を打破しないとこの流れは変えられないと考えて、何らかのアクションを起こそうとしたが、そこに焦点を当てて動いてるとしたら、逆に狩られるのではないだろうか? しかし、このままではジリ貧なのは変わりない上に、相手のペースなのは変わらない。

 手始めに、相手が投げたメイスを拾い上げ、こんなモンは要らないから返品しますと言わんばかりに投げ返す。それをひらりと回避されてさらに距離を詰められて肉迫するが、そこが僕の狙い目だ。

「インファイトや近接の殴り合いは松谷さんと相当やり合ったから自信あるぞ」

 おそらく、相手は上から強襲すると見せかけて再び直覚的な回避行動で僕の迎撃択を余裕を持って見てから、レールガンを射し込んでそれを起点にして攻め続けると予想した。そこに自立兵器が刺されば、なお良しと言った所だろう。明確な強みを活かしてそれを押し付けて来る理に適った戦法を行う頭の良い奴か、はたまた直感的で突っ込んでくる脳筋か…僕は、相手を前者の方であることに賭けた。

 相手がレールガンを射し込んで来ると予想して、軸をずらす為に左に回避行動を入力しながら、大ぶりの近接攻撃を置いておく。さあ、どうなる?



 結果だけ話せば僕の勝利で対戦は終わった。相手が取った択は、近接の範囲に入った瞬間に、ジャンプ格闘を空中で入れて再び高度をちょっとだけ上げて、ディレイ(攻撃のテンポを遅らせる、延ばす)を挟んで直角回避でレールガンを撃ち込むといった行動だった。

 ジャンプ格闘からの回避と入力をしたせいで、その回避の先に置かれていた僕の攻撃が直撃して、体力値が三分の一減ったタイミングで相手がひよったのが丸わかりだった。そのタイミングで致命の劇薬を呑み、ゲノム寄生状態で一気に勢いのまま押し切り勝利をものにした。

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