ブッたまげた。
試合が始まる前の体力値の顔見せの時点で警戒はしていたが、試合が始まって二度驚いた。
【びっきー 40200】
【emperor 42820】
あれ? 体力値42820って……現環境トップメタのキャラじゃないか? まさか、レザスピ浮遊か!? だとしたら、山谷さんは…いや、強いキャラに飛びつくイナゴかもしれないし、たまたまその構成を知ってただけで、動きは勅使河原さんと変わらない可能性も……
そして、試合は始まった。
「ちくしょうマジか!? コイツはガチだ! マシュマロ系の皮被った立派なゲーマーの動きだちくしょう!!」
「あれあれぇ~? 烏丸くん、私にゲノムを教えてくれるんじゃなかったんですかぁ~?? ねぇねぇ、私に教えられるくらい強いんでしょ~??? 早く出て来いよ陰キャ」
動きも煽りも的確なプレイングで、僕は遮蔽物に身を隠すしかなくなった。
プレイヤーネームの時点で気付くべきだった。emperorって、現環境のランキング4位じゃねーか! おめぇバリバリのやり込み勢で草も生えねぇよ。
42820。この数字にある者は懐かしみ、またある者は吐き気を催すのだが、それは物語とあんまり関係無いので説明は省く。
山谷さんの操るレザスピ浮遊とは、両手に長射程かつ高威力のレーザー銃を装備して、背中に八連ハイスピードミサイルポッドを背負い、更に空中を浮遊できるギアを装備して、対策をしなければ近~遠距離まで安定して空から一方的に高威力長射程の攻撃を叩き込める。さらに、スキル「君を乗せて」を搭載する型なのだが、空中にいる間攻撃力と防御力が徐々に上がり続けるという攻めてヨシ守ってヨシの隙の無い構成に、空中要塞と名高い現環境文句無し堂々のTier1のキャラだ。
僕が迂闊に遮蔽物から出られない理由が、相手の持つレーザー銃は被弾すると衝撃が発生して強制的にキャラが怯んで動けなくなってしまう。さらに性質の悪い事に、八連ハイスピードミサイルポッドから発射されるミサイルもご丁寧に衝撃が付与されている。つまり、一発でも被弾してしまえば衝撃で硬直、硬直している間に被弾、衝撃で硬直、硬直している間に…以下略。そんな身の毛もよだつ地獄のようなループにハマれば、一瞬で体力は底をついてしまう。
「オラッ、陰キャ〇ね! 〇ね! 〇ね! お前のピー(放送禁止用語)をピー(放送禁止用語)して晒してやんよギャアハハハハ!!」
山谷さんのギア……あれ、急上昇のチューニング付いてる……そこら辺の雑魚やイナゴはただ飛んで攻撃を垂れ流してればいいというキャラの強さに頼り切った思考停止プレイしかしないので、そんな奴らは星の数ほど撃墜してきたが、山谷さんの戦法は空中に陣取り、タゲを受けてヤバイと感じたら即座に落下して、相手が追いかけて高度を落としたら再び上昇するといったスタイルだろう。これの何が強いか? 急上昇のチューニングは、普通にキャラをジャンプや上昇させるより圧倒的に上に上がる速度が速くなる。つまり、相手が高度を引きずり落としに来たら落下して、それを相手は追うしかないのだ。そして、再び上昇すれば、相手より早く上に上がれるので、遮蔽物のない空中で相手が上がって来る所をひたすらに上から撃ち下せるのだ。射程が長ければ普通に応戦したり、銃器同士の射し合いで対抗できるのだが、射程が短いインファイト仕様のキャラや近接特化のキャラは追いかける以外対抗策が無い。確実に近接キャラを潰せるという観点からも評価され、この装備を攻略できるか否かで環境は回っていると言っても過言ではない。
けど、いつまでもこうしてる訳にもいかないんだよな。これは試合だし、時間制限もある。試合はタイムアップになれば体力値の多い方が勝ちになる。つまり、初っ端で体力値が負けてる方が攻めて自分より相手の体力を減らさないと負けになる。
「二人とも動きキモイんですけど…」
観戦モードで試合を見ている勅使河原さんが引いているが知ったこっちゃない。
「いや、りんちゃんもこうなるんだからね? 他人事じゃないんだよ??」
うへぇ~とか聞こえてきたが、そんな雑音はスルーする。
サッと一瞬だけ遮蔽物から身を晒し、再び隠れる。これで相手の反応を伺うのだが、山谷さんのそれは僕を絶望に叩き落すのには充分過ぎる挙動だった。
片方のレーザーだけ飛んで来た。
「くそっ、手練れだな!」
焦って両手のレーザーを撃ち、なんならミサイルまで撃ってくれればリロードしてる隙に距離を詰めたりあわよくば喰い付けるのだが、流石にランキング4位の実力者はそんな真似はしなかった。偏差撃ち。一発でも当たれば、硬直が入って地獄のようなループに突入できるのだ。同時撃ちは勘違いされがちな初心者中級者や使い込んでまだ浅いプレイヤーがやりがちな戦法。わざわざ二発同時に撃つ必要が無く、偏差撃ちは一発撃って相手の回避した先にもう一発置いておく使い方や交互に撃つ事で絶え間なく攻撃を継続できるテクニックだ。
この手の相手は……死ぬ程苦戦を強いられるけど、勝てない相手じゃない。何故なら…
「俺はゲノム全一だッ!!」
「馬鹿がぁッ!! 焦って飛び出したな?」
可能な限り、相手の攻撃を回避して、なるべく被弾しないように距離を詰める。詰める。詰めるッ!!
「イケるッ!!」
「イケると思った? 何を根拠に言ってんだ。そういう時は大抵イケねぇでやらかすってのが対戦ゲームの常識だ覚えとけカスッ!!」
レーザーを回避して、更に置きレーザー読みで軸を辛うじてずらした先に、ミサイルが飛んで来る。何がすごいって、視野も広い反応もいい上に、ちゃんと嫌な位置に攻撃を置いてくる読み。さすがにこの距離では避けようが無いが、ミサイルの発射テンポは夢に出て来るまで覚えてる。見てろ、これが全一の力だ。
「なっ!?」
攻撃が当たる瞬間、特定の動作に合わせてボタンを押すと攻撃を弾けるパリィがある。ゴリラカスタムや一部の装備や攻撃にはパリィ不可などの能力があるが、このミサイルは見た目に反してパリィできる。
「1、2、3、4、5、6、7、8ッ!!」
「それは脱帽ものです。素直に凄いわ」
全てのミサイルをパリィで叩き落し、遂に同高度と射程距離内に山谷さんのキャラを捉えた。セオリー通り、山谷さんのキャラは落下して高度を落として逃げに入るが、ここを逃がすと勝負は振り出しに戻ってしまう。ここで、致命の劇薬を使用して勝負に出る。
「ゲノム寄生」
上から下に落下する山谷さんのキャラを強襲する。空中で今までのフラストレーションを吐き出すかのように思いっきりブン殴り、ビル上にとてもすごい速度で叩きつけられた山谷さんのキャラは瀕死になっていた。とどめを刺して終わりにしようとボタンを押したのだが、僕の追撃は相手のゲノム寄生の無敵モーションに合わせられて不発に終わる。
「さて、ここからが本番かしら?」
「このステージの醍醐味だからね」
お互いふぅ、と小さく息を吐き出し、同時に叫んだ。
「「潰す」」
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