「うわー!? やった! びっきーさんに勝ったッ!! 皆見てた!!???」
配信画面からとても、それはもうとても嬉しそうな声が聞こえてくる。コメントには、「お前が全一だ」や「ヤッター!」とか「すごい」等と言う賛辞のコメントで溢れかえっていた。
ここで、僕の取るべき行動はいくつかあるが、まずはこれだろう。キーボードで配信のコメ欄でチャットを開き「対戦ありがとうございました」とコメントを打つ。
これでいい。配信では「本物キター!」や「マジのびっきーで草」等とコメントされていたが、そんなものは放っておいていい。他人の意見や見解に目を通して一喜一憂する必要はない。なぜなら、対戦ゲームの敗者に人権は無いからだ。ここで余計な事を言っても全て負け犬の遠吠えになり、何を言っても虚しく聞こえるだけなのでお気持ち表明はしない。するべきことは、決まってる。
「んー…、やっぱり一番の敗因は練習不足。即実戦投入はそりゃあ無茶があったなぁ」
メニューにカーソルを合わせて、ウインドウに対戦履歴を表示させる。今の試合で何が悪かったのか、どうしてこの行動を取ったのか明確に言語化してちゃんと負けた理由を自分の中ではっきりさせる。勅使河原さんに教えておいて、自分がしませんやりませんなど論外な上に、これは強くなる上で必要不可欠な行為だ。だから、見る。ただ見るだけではなく、頭を使って考えて見る。それをやらなければ、対戦ゲームなど強くなれる訳が無い。
そして、一時間が経過して、朝日が完全に昇った。
「うーん…追加スラスターOPの使用者って誰が居るんだ? ネットで検索掛けても動画もサイトもSNSもヒットしないから、独学でやり込んでキャンセルルートと強行動を確立させるしかないな」
OP唯一の欠点が襲い掛かる。それは、あまりに所持者が少なすぎて、情報や対策が殆ど共有されない。とにかく、トレモやプレマで数をこなすしかないので、ネットからゲーム画面に視線を移そうとした時に、一通のDMが届いていた事に気が付いた。
「ん? 一時間前って、ちょうど杉花粉impactとヤり合ってた時間か?」
送信者は…えっ、杉花粉impactってマジ!? なんだ? 煽り文句をDMで飛ばして来たって事か? そうか! 配信で煽る訳にもいかないもんな。下手すりゃ大炎上だ…なるほど、ファンメを飛ばして煽ろうって事か。どれどれぇ~…
件名
杉花粉impact
本文
突然のDMすみません。文章でやり取りするのは初めてですね。私は、杉花粉impactという者です。
実は、貴方の実力を見込んで、頼みたい事があります。近々、裏世界で蔓延っている紫色のオーラを纏っているレイドボス討伐を考えているのですが、如何せん私一人ではどうする事もできません。そこで、有志を募って討伐して周回したいと思っています。ご存知の通り、裏世界では実際に命を落とす事もあるでしょう。しかし、私はあのレイドボスを討伐して回れば、裏世界の何か…頑なにサービス終了やサーバーを落とさない運営の真実や原因、ジャックポット塔の攻略の糸口が掴めるのではないかと考えています。
もし、興味があったり参加の有無だけでもお返事を頂けると幸いです。
「煽りじゃなかった」
対戦ゲームによって完全に汚れ切った心と思考回路がお恥ずかしい。煽り文句かと思い、身構えた自分が馬鹿みたいだ。
「これって、固定PTのお誘いだよな?」
おそらく、杉花粉impactはある程度強い人間を集めて、裏世界の電脳怨霊を皆殺しにして最終的にジャックポット塔を攻略しようと言う考えだろう。
なるほど、その為の耐久100人切り配信か。単純に目立ちたがり屋と強い人間を集めるにはこういった手法が手っ取り早く一番確実だ。実際に戦って、ある程度信用できる人間にこういったDMを送って仲間を集めているのだろう。だが…
「これって人数が多くなればなるほど、寿命の取り分が減らないか? しかも、ジャックポット塔の攻略は電脳怨霊の親玉の討伐って事だ。そうなると、その時点で松谷さんの延命は破綻する」
しかも、文章を見るに電脳怨霊についての情報は僕達より掴んでないと見える。確かに電脳怨霊を討伐するには、固定で猛者を集めて戦うのが一番だが、正直山谷さんがいればどうにでもなる気もするし、なにより霊感の強いそっちの事情に詳しい勅使河原さんがいれば早急かつ無理に仲間を加えたり入ったりする必要は無いのかもしれない。
それどころか、このパーティーがジャックポット塔を攻略する事になれば、僕は全力でその攻略を妨害しなければならない。これも、全ては松谷さんの延命の為だ。僕は地獄に堕ちても構わない。
「とりあえず、この件は保留にして二人と相談してから決めよう」
そう呟いた時だった。杉花粉impactの配信から、絶叫と悲痛な叫びがコメント欄を埋め尽くした。つい、配信画面の方に視線を向けると、そこには念願の100連勝目を止めた最高に空気の読まない悪魔のような所業を行ったプレイヤーの姿が映し出されていた。
「へっ、雑魚がよぉっ! 雑魚が俺に勝てる訳ねーだろ???」
100連勝目に待ったをかけた挙句、まるで悪魔のように怒涛の煽りをかます謎のプレイヤー。これには100連勝目を阻止されてこれだけ煽られたら、杉花粉impactのメンタルとモチベーションはズタズタだろう。声色も若干涙混じりで喋っている…本当に大丈夫か?
対戦画面を見ると、どうやら一撃も攻撃を貰わず、あの要塞ガン待ち戦法を攻略したらしい。いわゆるパーフェクトゲームという奴だ。コメント欄は異様な雰囲気で包まれている。そんな最中、その謎のプレイヤーは更なる暴挙に乗り出した。
「あんまり弱過ぎて自殺願望でもあるのかと思ったぜ。画面と相手見ろ雑魚」
「なっ!? コイツ…シャゲダンしながら死体撃ちは煽りポイント高いぞ!? しかも、配信のオマケ付きで炎上は必須だ!! なんて神経の図太いプレイヤーなんだ…」
あろうことか、配信されているにも関わらず、暴言煽りにシャゲダンと死体撃ち。この最凶のコンボは煽リンピックで金メダルが取れるレベルだ。
・シャゲダン
対戦ゲームで力の差を見せつける時に、自分のキャラクターを無駄に左右に激しく動かして相手を煽り散らかす行為。由来は某ロボットゲームにおいて、三倍速い赤いナギナタ持った機体のダンスの略語でもある。
・死体撃ち
対戦ゲームで倒した相手をさらに殴ったり撃ったりする行為を指す。
上記の理由無き行動はオンラインゲームにおいてマナー違反や挑発行為とみなされます。そういった行為をイキって行い、SNSが炎上したりブロックやブラックリストに登録された挙句に通報案件で運営にBANされても当小説は一切責任を負いません。
煽りは煽られていい覚悟のある奴だけが行っていい自己責任行動です。煽ってイキり散らかした挙句、逆転負けして逆に煽られて顔真っ赤になって回線切りを行うゲーマーは最初から煽るな雑魚。それクソだせぇからな?
どうしても煽りたい衝動に駆られた際は、仲のいいフレンドと煽り合いましょう。
しかし、あのガン待ち戦法をガトリング砲の弾幕をかすりもせず倒したって、本当に人間技か!? マナーの悪さは極まっているが、それに比例してPSも凄まじい。そのキャラクターのPNと装備構成を見てみる事にした。
「ふむ、倉沼ソラオか…聞いた事ないなぁ。装備は……んん!? なんか、見た事あると言うか、この構成どこかで…?」
大型レールガンに、大型メイスと尻尾の自立兵器に大型粒子砲。それに追加スラスターのOP・ε-リンソディって、あの心折れた電脳怨霊と殆ど同じ構成なんだ。唯一大型粒子砲が装備してあるだけで、他は全部一緒。まさか、あいつの言ってた悪魔って、そういう事なのか!? 確かに、悪魔的強さに悪魔的煽り性能だが、構成や立ち回りはどこか似ているものがある。
そうか…一年間もこれだけ負け続け、煽られてたらそりゃあ心折れるわな。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!