「ふわぁ…流石に眠くなってきちゃった」
そういえば、勅使河原さんどこで寝るんだろ? まぁ、僕はリビングとか床で眠って勅使河原さんにベットを貸せばいいだけなんだけど。
「勅使河原さんは僕のベット使っていいよ。僕はリビングとか床で寝るから」
「……えっ? ウチが泊めてもらうんだから、ウチが別の場所で寝るよ。そんなの申し訳ないって」
立ち上がって、いいからベット使ってよと言い残し、戸に右手をかけた時だった。左袖を摘ままれ、勅使河原さんは僕を部屋から出さないように引き止める。
バクン。
心臓が脈打つ音が感じ取れる。
「こんな美少女前にして、手を出さずに部屋から出てくのか?」
それってつまり、そういう事なのか!? これは、雄として試されている…
「えっと…前に、まだそういう関係じゃないって仰ってませんデシタカ?」
「そう言ったけどさぁー、流石にこの状況で手を出されないくらいウチって魅力無いンかなぁ~って」
やべぇ、こんなシチュエーションはエロ同人でしか見た事無い。いや、待てよ!? 逆を言えば、エロ同人で既に予習してるじゃん? イケるイケる……かもしれない。
そんな事を考えていたら、勅使河原さんが指を絡ませてきた。俗に言う、恋人繋ぎというヤツだ。そのまま身体を密着させて、お互いの体温を感じ取れるくらいには距離が近い。勅使河原さんの胸が僕の胸板に押し付けられ、そこには確かな乳圧と柔らかくもまとまった大体の男が大好きなモノがそこに存在した。
海綿体が騒ぎ立て、祭りだ祭りだワッショイワッショイと血液を巡らせて下半身のパイルバンカーがそそり立つ。
「キス………しよ?」
熱っぽくも、真剣な視線で見つめて来る勅使河原さんに、キモオタゲーマーは経験が無い為キョドリながら視線を泳がせる。そんな僕の態度など、どこ吹く風でするりと絡めていた指を解き、首の後ろに両手を回す。それと同時に、僕の右足を両の足で挟み込みながら、みるみるうちに唇が接近してくる。
お互いの唇が触れ合う。ぷるっぷるな綺麗で柔らかい唇に対して、僕の唇は干からびたミミズのようなカサカサ具合だ。同じ人体の構造とは思えない代物に驚きながらも、これが女性の唇かと驚愕する自分も存在した。
舌と舌を絡ませたり吸ったりなぞったり、色々経験した。語彙力も経験もないオタクだから、これが精一杯の表現なのは勘弁してと思うこの頃だ。部屋にちゅぱちゅっ…と卑猥な音が響き渡り、んっ…と甘い吐息と共に糸を引く。
お互いの視線が絡み合い、ニパっと白い歯を見せて無邪気に微笑む勅使河原さんを前に、どう接していいのかわからない。確かに経験の無い童貞というのもそうだが、僕はまだ松谷さんが好きなのだ。フラれたから替わりに他の女の子を抱くという行為は、男としてどうなのだろうか?
女々しいかもしれない。勅使河原さんに失礼かもしれない。極上と言える可愛さの女の子を前にして、パイルバンカーもそそり立っている。身体は正直とはこの事だろう。エロ同人で度々見かける言葉を使う日が来るとは思わなかった。僕は、目の前の女の子に松谷さんを重ねているんだ。
再び唇が触れ合い、僕はそのままベットに勅使河原さんを押し倒す。ギシッと二人の重さでベットが沈んで、キスをしながら器用に背中の方へと手を回してブラジャーのホックを外す。
「んはっ……はぁっ…えっち」
顔を赤らめ、恥ずかしそうに発したその一言で、理性の箍が外れた。ギンギンにそそり立つパイルバンカーが「我慢できませんぜ旦那ァッ!!」と唸りを上げる。
丁寧にブラジャーを剥ぎ取り「シルクの下着を入手しました」と某狩りゲーのメッセージが脳内に表示される。
生まれて初めて拝む異性の露わになった肉体をこの目のに焼き付けようと食い入るように見つめる。
僕は手を伸ばし、その肉体を…
(利用規約に引っ掛かりそうなので、えっちなシーンは割愛させていただきます)
結果的に、僕の童貞は勅使河原さんに捧げた。これで、大人の階段を一歩進んだのだが、劇的に何か変化がある訳でもなく、正直な感想は「ちゃんとイカせられて良かった。とりあえず一安心」だった。
朝日がカーテンの隙間から射し込み、雀の鳴き声で目が覚める。
「………ぉはょぅ」
まだ眠そうな勅使河原さんが、もぞもぞと身体を動かしながら目を覚ます。お互いの肌と肌が軽くこすれ合ってちょっぴりくすぐったい。
「おはよう。リビングから、何か持ってこようか? 食べたいのある?」
「んー……なんか果物食べたいカモ」
とりあえずリビングに足を運び、母さんが買い置きをしてくれていたバナナを二本千切って部屋へと戻る。んっ、と一本頬張りながらもう一本のバナナを手渡し、勅使河原さんも丁寧に皮を剥いて食べていく。
「聞いてもいい?」
「ふぁんだぁ~おふぁくぅ~?」
バナナを頬張りながら喋るので、何を言っているかいまいち聞き取れなかったが、大体のニュアンスで勝手に理解した。おそらく、なんだぁ~オタクぅ~? だろう。
「どうして、僕としてくれたの?」
「なんでヤッたか? そりゃあ、フラれて落ち込んでるオタクが可哀そうに思えたっていうのもあるけどぉ…最近負け込んでスランプみたいになってたからな。女を知って、自信が付けば何よりだし、デキる男を一発ヤラせて鼓舞させンのは、将来への投資みたいなモンだ。せいぜい大きくなってくれよオタクぅ~。その時隣に居るのは、松谷さんじゃなくて私だからなぁ!」
「えっ…それって、どういう…」
「お前じゃなきゃそう簡単にホイホイヤらせないよ。なんだか、上手く言えないけど…オタクは他の人間に無い何かを見てるよな? 学校にいた時も、身体はここに居るケド、心は遥か彼方へ飛んでるカンジ。で、一緒にツルむようになってわかったよ。考え方が独特で、なおかつ行動力もあるからそこが魅力的なんだよなって。順番逆になっちゃったけど……ウチら付き合わない?」
……えっ!??? 今、付き合おうって言わなかった? 陽キャ筆頭候補の学校カースト最上位に君臨する美少女ギャル・勅使河原さんから告られたのか!?? いきなりの展開に頭が追い付かない。
「でも……僕は…」
「好きかどうかなんて、付き合ってみて判断すりゃあいい。その為に付き合うんだろ? それに、まだ松谷さんが好きだって言うのなら…」
僕の耳元に顔を近づけ、ふっと吐息を吹きかけて甘く囁くような声でこう言った。
「私がその女考えられないくらいには、響を虜にしてやるよ」
……これは、試されているのだろうか?
じゃあ付き合おうと素直に言ってしまえばどんなにラクだろうか。恐らく、相手は経験豊富な勅使河原さん。ここで彼女の告白を受け入れ、簡単に付き合ってしまえば勅使河原さんの手中に堕ちた事になる。この男も私の手に堕ちた。やっぱりオタク…男はチョロいなどと思われてしまうのは心外だし、何より僕はまだ松谷さんが好きなのだ。大事だから何回でも言う。僕は、まだ松谷さんが好きなのだ。無論、単純に僕に好意があって素直に気持ちを伝えた上で付き合おうと言ってくれているのであれば、諸手を上げて歓迎するが、男女の駆け引きは対戦ゲームのそれに似ている。
はてさて…いくらゲーマーでも、恋愛シュミレーションゲームは僕の専門外だ。ここは迂闊な返事は絶対にできない。考える時間も欲しい。優柔不断と言われればそれまでなのだが、二つ返事で決めていい事柄ではない事は確かだ。
「少し、考えさせて。必ず返事は返すから」
「おう! 楽しみにしてっから!」
くしゃくしゃと僕の頭を撫でまわして泊めてくれてありがとうと言い残し、ささっと服を着て部屋から出て行った。昨夜の余韻がまだ抜けきっていない。
ボケーっとベットに腰掛けながら、考える。
客観的にみれば、童貞卒業しただけの無駄に自信だけ付いたイキりオタクは痛々しいので、身の程をわきまえて生きて行こうと心の片隅で誓った。
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