電脳闘争録

気に喰わないヤツらは全員潰す
ジブリ神
ジブリ神

二十一話

公開日時: 2021年8月17日(火) 20:05
文字数:3,109

「烏丸くん!」

 悲鳴とも絶叫とも聞こえる叫びで、山谷さんが懸命に援護するが、猿はそんな攻撃見向きもせずこちらに突っ込んで来る。

 そりゃあそうだろう。山谷さんの攻撃で猿のダメージ表記は1しか映っておらず、誤差レベルでしか体力が減っていない。とりあえず数を減らそうという魂胆が感じ取れる。猿の癖に賢いじゃねーか…お前本当に雑魚共の怨念の集合体な訳?

「ザッケンナイマノアタッテネェダロクソゲー」

 猿は口からレーザー光線…所謂ゲロビを吐き出し、それに反応して瞬時に回避ボタンを叩き込んで辛うじてそれを避ける。それに呼応するかのように、猿は二発、三発五発とゲロビを連射してくる。

「近づけば暴れて離れりゃゲロビってどうすりゃいいんだよ!? 無茶苦茶な回転率だ…撃ち合いも不利接近戦はワープで背後を取られるから論外。強すぎないか?」

「烏丸くん下がって」

 急に山谷さんが前に出て来た。確かに体力は山谷さんの方が上だが、現状相手の火力が高過ぎて何を食らってもワンパンで死ぬ以上、体力値が1だろうが42820だろうが一切変わりはない。一体どういうつもりだろうかと首を傾げたが、山谷さんの起こしたアクションで僕は全てを察した。

 emperor「この猿ざっこーい☆」

 emperor「情けないツラしちゃって」

 emperor「ざぁーこざぁーこ」

 なるほど! そうか、その手があったか。

 びっきー「来いよ雑魚」

 びっきー「来いよ雑魚」

 びっきー「来いよ雑魚」

 全体チャットを打ち、これでもかと猿を煽り、チャット欄が地獄のような光景で埋め尽くされるがこれも勝つためだ。

「アアアアア!? ジョウトウダッツブスツブスツブス」

 メンタルが常時顔真っ赤を体現した敵なので、案の定こちらの煽りに喰い付いてきた。そう、なにもコイツを無理矢理倒す必要はない。隣のエリアの山岳都市の付近まで引っ張って行き、そこを拠点としているチームにコイツの相手をしてもらおうと言う作戦だ。そして、そのどさくさに紛れて勅使河原さんを回収しようという魂胆である。

 もし、例の怪奇現象にビビッて相手のチームが萎縮でもしてくれれば儲けなので、とにかく死なないよう攻撃の回避に専念する立ち回りで煽りながら山岳都市の方向まで進んで行く。

 そして、案の定山岳都市に拠点を構えるチームが電脳怨霊の接近に気付いたらしく、全てのプレイヤーのタゲが猿に向く。

 うはっ、すげぇ。まるで戦争そのものだ。飛ぶ。飛ぶ。とにかくひっきりなしに弾やミサイル、レーザーに爆撃、射撃武器の類が鬼のように猿目掛けて飛来する。裏世界にまで来て拠点を構えようと言う廃人連中の集団だ。火力も弾幕も凄まじく、体力値も目に見えて減って行く。流石の猿も……

「ッンダヨクソゲークソゲーンギャアアアアアアー」

「は?」

「ええ!?」

 山岳都市を囲うように設置してあったバリケードも遮蔽物となる倒壊したしたビルに木々、それらを全て一瞬で飛び越え、頑丈かつ精巧に作り上げられた拠点内にいきなりワープして暴虐の限りを尽くす猿。設置してあった砲台やプレイヤーを見境なく攻撃して、バタバタとプレイヤーが死んでいく。

 くそ、アイツにとって遮蔽物や障害物の概念は通用しないのか。

 それはまさに地獄絵図。

 猿が拳を一振りすれば、瞬く間にプレイヤーが死んでいく。口からゲロビを吐き出せば、地形を破壊して立派に建築された拠点は見る影もなく焦土と化す。その強さは圧倒的だった。

「勅使河原さんどこ!? 今パーティ招待を飛ばすから、認証して即撤退を…」

「ううっ…すごいなぁ…あの怨念本気で悔しがって泣きながら暴れてる」

 そうか、勅使河原さんは霊感が強い一族だから、あの電脳怨念の……思念? お気持ち? よくわかんないけど、なんかそういうのがわかるのか。悔しがって泣きながら暴れるって、赤ちゃんじゃねーんだからよぉ…そんなアホみたいな感情でこんな猿生み出すくらいなら、頭使ってどうして負けたか冷静に考えろ雑魚。なんかムカついて来た…あの猿どうしても捻り潰さないと気が済まないぞ。

「烏丸くん? 今なら撤退してログアウトを」

「しない」

「「え?」」

「二人は直ぐに引いて。僕は、あの猿を倒す。いや、倒さなきゃ気が済まない」

 二人が呆気に取られている隙にゲノム寄生状態になり、猿に向かってかっ飛んで行く。

 癇癪雑魚のお気持ちだかなんだか知らないが、そのクソみたいな低俗な行いで、このクソみたいな世界で人が死んでる。これはもう、クソクソの投げ合い。お互い糞で糞を洗い流す糞みたいなプライドを粉砕する糞に塗れた戦いだ。

「お前ら雑魚のクソみたいなお気持ちは僕が粉砕して撃滅して煽り倒してやる!」

 この猿には、明確な弱点が一つだけ存在する。それは、ゲロビを撃ってる最中はどうしても棒立ちになる必要があるので、ゲロビを撃ってる最中は殴り放題という訳だ。だが、早めに離脱しないと近距離の暴れ択にワープしてめくられたりと危険極まりない技のオンパレードが連発されるので、離脱のタイミングが最重要だ。つまり、中距離でゲロビを誘発させて、撃ったことを確認してから接近して殴り、離脱を死ぬまで繰り返す。

 猿の体力値は残り189100だ。レベル差がとても大きく離れていてダメージはどうやっても1しか稼げないので、つまり、あと189100回殴って離脱を繰り返せば猿は死ぬ。

「なんだ珠秘伝全種類集めるよりラクじゃないか。こちとら停学喰らって学校に行けないもんでね…時間は存分にあるぞコラァアアアアアアア」

「烏丸くん!」

 山谷さんが心配して加勢しようか迷っている姿が視界に映る。当初の目的は勅使河原さんの回収なので、この二人に電脳怨霊討伐に付き合わせるつもりは毛頭無い。猿に僕達以外のプレイヤーは皆殺しにされ、対人戦のフェイズは終了扱いになり、ログアウトは可能な状態になっている。

「ログアウトしてくれ! 無事に討伐できたら連絡するから、引いてッ!!」

「わかった。待ってるからね」

「ウチもオタクと猿倒すっ!」

「りんちゃんもログアウトするの!」

 そう言って、二人は無事にログアウトできたようだ。さて、戦いというよりは、作業を始めますか。

 中距離でいつでも回避できるような立ち位置に陣取り、猿は脳死でゲロビを撃ちこんで来るが、それこそ僕の狙い通りの行動だ。隙を見て一気に接近して、ワンパンだけ攻撃を叩き込んで即離脱する。これを相手が死ぬまでひたすらに続ける。


 189100回猿を殴ってます。単調な作業風景が繰り返されるため、このシーンはカットさせていただきます。


 そして、チキチキお猿にワンタッチして離脱を繰り返す耐久ゲーミングをぶっ続けで58時間繰り返し、僕は記念すべき初の電脳怨霊討伐を達成した。

「オラァアアアアアアアアッ! 見たかこのクソ猿!! おめぇなんか蘇らないし二匹で襲い掛かって来ない分楽に倒せたぜ! ハイ、除霊! さよなら! 閉廷!!」

 【怨念・癇癪物体破壊顔面深紅ゲノム猿】を討伐しました。

 システムメッセージが出た瞬間、膨大な量の寿命とずっとガタゴト揺れていたポルターガイスト現象も収まり、部屋に静寂が訪れた。気付けば二日以上もご飯も水も口にしていなければ、トイレにも行ってない。それほど集中していたのだろう。討伐のログが流れて気が抜けたのか、僕はそのまま

「寝落ちはしねぇ……ログアウトだけしてっと……ヨシ! おやす……み…」

 寝落ちして放置してしまうと、またサンドバック状態になってしまうので、それだけは避けたかった。(九・十一話参照)そして、目を閉じて深い眠りについた。その時、僕は気付いていなかった。猿を討伐した時、纏っていた妖しげな紫色のモヤのようなオーラが空中に漂っている事を。

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