「ごめんなさい。山谷さんには、教える事は何も無いです。っていうか、僕の方こそ浮遊型の戦い方とか、チューニングを教えて欲しいくらいだよ」
「流石、元全一なだけあるね。闘争杯1位と前シーズンランキング1位は伊達じゃ無かった」
対戦が終わり、お互いの視点から感じた事ややられて嫌だった事。対策や立ち回りの意見交換をして、今後に活かすべく熱心に話し込んだ。そして、30分間は話し込んだであろうタイミングで、勅使河原さんが「二人共アタシの存在忘れてっしょ?」と言って、僕と山谷さんは我に返る。
あっ…そうだ。勅使河原さんの事忘れてた。
「ごめんごめん、つい夢中になっちゃった。じゃあ、勅使河原さんだけど……」
正直、どこから修正した方が良いのか悩むが、先ずは意識の改革から始める事が先決だと判断した。
「まず、気になった事があるんだけどそのキャラと武器を選択した理由を教えて貰えるかな?」
試合中に感じた違和感。動きは初心者のそれと変わらないのはともかく、何故そのキャラと武器を選んで何をしたいのか? 何を仮想敵として見ているのかハッキリさせないと上達もクソも無い。
「え? キャラは使いやすいから選んだだけだしぃ? 武器は映えるから」
使いやすい…は、まぁわからない事もないが…なんだ!? 映えるって!! インスタやってんじゃねぇんだぞ!! と、言う台詞が喉まで出かかったが、ぐっと堪えて別の言葉を口にした。
「うん。別に初心者でゲームを始めて間もないとか、単純に勝ち負けに拘らず楽しければいいって言うなら僕は何も言わないし、それでいいと思う。けど、勅使河原さんは違うでしょ? 電脳怨霊を倒せるレベル…つまり、環境の最前線やそれに等しいレベルまで上達するって目標がある。今の装備や構成だと、その目標を達成するのはかなり厳しい……いや、無理。可能性ゼロの不可能」
「そ、そこまで言うかぁ!? けど、ホラ…かっこいいしお気に入りだから、これでなんとかでき」
勅使河原さんの言葉を遮る。
「できない。それで強い拘りやどうしてもその装備でやりたいって気持ちはわかるし理解できるけど、それをやるのは基礎基本がしっかりできてゲームのセオリーを理解して、ある程度の事は一人でできて結果を出せるようになってから。今の勅使河原さんのレベルでそれをやっても、10人中10人が地雷判定をすると思う」
すると、勅使河原さんは…不満そうに口を開いた。
「わ、私は結果出せてるしぃ? 一人の時も助手と組んでる時もそれなりに勝てるもん」
「じゃあこうしよう。今から何でもいいから、プレマでもランクマでも勅使河原さんの気が済むまで試合を回してみて? それで、最終的に勝率が五割より上なら装備やキャラについて何も言わないけど、五割を下回ったら大人しく僕の教えた通りにプレイする事。いいね?」
「よぉーし! 私の真の実力見せてやるぞオタクぅ~」
そう言って、勅使河原さんは息巻いてプレマに潜り始めた。
「山谷さん、勅使河原さんと組んで戦った試合の戦績ある? 画面共有でリプレイ見せて欲しいんだけど」
本当は勅使河原さんの動きをリプレイで分析するつもりだったのだが、現環境の浮遊型トップの視点をさり気なく拝める事に気付いた僕はひっそりとテンションが上がった。
「いいわよ。2on2でいいかな?」
山谷さんいわく、普段はマシュマロ系おっとり女子なのだが、パッドやコントローラーを握ると性格が変貌してしまうらしい。車のハンドル握ると性格変わるタイプのアレである。本人は恥ずかしがっているが、むしろゲームやってて性格変わる奴なんて沢山知っているし見てきたので、僕は別になんとも思わない。
「う、上手いッ」
操作精度は言うまでも無く、状況判断、視野の広さ、そして相手の動きの予測に把握、読み。どれをとっても完璧で、本当に上手く、性格が嫌らしい動きだ。
勅使河原さんの動きは論外。全く相手の動きや位置を把握せず、自分がやりたい事したい事押し付ける事「のみ」しか考えておらず、味方との連携や状況、地形などは一切頭に入っていない。はっきり言えば、勝ち負けすら度外視して、自分のやりたい事を最優先して動いている為、それが味方への悪影響を及ぼし、利敵行為にさえ繋がっている。それでも結果的に勝てているのは、山谷さんがフォローして負担を全て背負い全力でキャリーしているから勝てている。これに尽きる。
「まるで小学生のサッカーだな」
勅使河原さんの動きはそれに等しい。ボールがそこにあるから、集まって蹴り飛ばしてゴールに入れる。それ位の思考回路なのだ。同じサッカーでも、ポジションや役割を決めて、味方と連携してパスを繋いでゴールを決めると言ったような概念がない。
「まず、どうしてその行動や動きをしたのか自分のプレイを見て言語化するところからだな」
試合が終わったらリプレイを見て自分や相手の動きを見る。そういう癖を付けておけば何が悪いのか? どこがいけなかったとか、良かった点や気を付けるべき点がはっきりわかる上に考える力が付く。
さらに言えば、これは別にゲノムリンクに限った話じゃない。他のゲームでも、この方法は猿でも必ず上達できる方法だ。
「それができればとっくにやってるんだけど…」
「え?」
「りんちゃん、リプレイ見ても全部味方のせいとか、調子が悪かったって事にしちゃうから…」
うおおおおい!? 思考回路が地雷そのものじゃねーか! これを修正するのは、至難の業だぞ。
「オタクぅ~、終わったぞ」
気が付けば、勅使河原さんはいつの間にか試合を終えていた。
「じゃあ、画面共有で戦績と試合のリプレイ全部見せてもらえる? 全部ね」
「うっ、それがな……オタク、この結果見ても怒らないか?」
怒る? 一体どういう意味だろう…と、疑問に首を傾げた。それは、勅使河原さんの戦績を見て理由がわかった。
「なるほど、10戦中0勝10敗の勝率0%かぁ…いや、怒りはしないよ? じゃあ、これからどうしてそうなったかを考えていこうか」
そして、僕は思い知らされる。初心者育成の難しさというものを。
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