電脳闘争録

気に喰わないヤツらは全員潰す
ジブリ神
ジブリ神

十九話

公開日時: 2021年8月8日(日) 20:10
文字数:2,177

「やっべぇ意識トぶ」

「毎朝毎朝毎朝同じ事呟きながら起きて来ないの! アンタ何時までゲームしてたの? ホラ、シャキッとしなさい」

 母さんが用意してくれた朝ごはんが食卓に並ぶも、あまりの眠さに意識が飛んで、そのまま椅子で寝てしまう。それを見かねた母さんが頭をパンっと、新聞紙で叩き付けるも、効果はいまひとつのようだ……あれ? この光景、どこかで?

「朝の5時までやってた」

「しんっっっじらんないこのゲーム馬鹿! 一時間しか寝てない訳!? さっさと食べちゃいな」

 目の前のテーブルにはいつもの狐色に焼けたトーストに、サウザンドアイランドドレッシングがたっぷりとかかったフレンチサラダ。そこにゲーマーの強い味方、エナジードリンクという魔剤をキメ込めばお目覚めスッキリってやつだ。

 トーストとサラダをまとめて頬張り、仕上げにドリンクを投入すると熱いナニかが喉を伝って胸の辺りに到達する。コイツいっつもトーストとサラダ頬張ってんなという苦情は受け付けない。

「行って……ふぁあ~眠てぇなぁ…」

 裏世界に何度か足を運んでわかった事がある。転送はやはりランダムで、指定した場所にピンポイントで転送は出来ない。ランダム転送も完全なランダムという訳ではなく、ある一定のパターンで転送位置が周回しているらしく、それを利用した出待ちが横行しているので、出待ち対策をしなければならない。故に、そのランダム転送位置を判明させたチームがその割り出した転送位置に拠点を構え、裏世界の領地にして活動している。昨日も結局出待ちに対しては力技でごり押したが、対策できるに越したことはないので、そこもある程度考えていかないといけない。

 そして、問題の電脳怨霊だが

「新種を3匹見つけて、それぞれLvが666と790に440かぁ…それにこの間のゲノムボードが880。みーんなゲームして顔真っ赤になってカチ切れてんだなぁ…ある意味平和だけど、平和じゃねーんだなこれが」

 裏世界について独自に情報を集めてみたが、未だに電脳幽霊に怨霊の討伐記録は0匹。そもそもアレと

遭遇したら、皆口をそろえて怪奇現象が起きてゲームどころではないと言っていた。昨夜遭遇した時も前回同様怪奇現象が起きたが、流石に耐性が付いてじっくり行動パターンを来るべき日の為に録画した。

 ゲノムのLvカンスト値はLv99なのだが、電脳怨霊はどうしてあんなにレベルが高いのかもはっきりとわかった。裏世界では、寿命を使用してレベルを上げると、上限がLv999まで上げられるようになる。それに気づいた僕は必要最低限の寿命だけ残し、残りの寿命の半分をレベル上げに使用して、もう半分の寿命は松谷さんの延命に使用した。これで僕のキャラのびっきーはLv102になった。

「楽しむ、かぁ…」

 昨夜の言葉を思い出す。

「楽しみ方も人によって異なるから、答えを見つけるのも自分自身なんだよね」

 ゲームの楽しみ方は人それぞれだ。目的も無くロビーに集まり、顔も本名も知らない相手と一晩中チャットで会話するのも一つの楽しみ方だし、単純に強い奴と一晩中対戦するのも一つの楽しみ方だ。ボスをいかに速く攻略するRTAリアルタイムアタックやゲーム内装備でオシャレをしてSSスクリーンショットを撮ったり、休日で皆と一緒に集まりオフ会で思いっきり羽を伸ばすなど、楽しみ方は本当に様々だ。

 昨夜の自分の台詞が自分に刺さった。僕は、今…本当にゲームを楽しんでいるのか?

 普通の主人公なら、葛藤や悩みを抱えて強くなっていくが、生憎この小説に出て来る人間の殆どがゲーマーなので、強くなる方法や手段など自分で勝手に編み出して勝手に強くなっていく人種が大半なのだ。

 二話でゲノムに復帰してから比べると、確実に強くはなっている。だが、今の状況が楽しいかと言われると……

「松谷さんとまたプレイしたいな」

 山谷さんは強い。間違いなく現環境の一、二位を争う実力者だろう。だが、やはり松谷さんとの勝負は思考回路も行動も何もかもが「噛み合う」のだ。対戦ゲームをコミュニケーションと例えた時があったが、松谷さんが相手だと本当に自然体でリラックスして殺しに行けるのだ。

 愛車のカブを駐輪場に停めて、校舎へと向かう。途中で、生活指導VS陽キャのシン・服装チェック最終章が行われていたが、僕はそれをスルーして……あん? あの生活指導と派手にヤり合ってるのって、勅使河原さんじゃないか??

「何度言えばわかるんだ! 髪の毛を染めるな黒に戻せ制服改造するな化粧~…(以下略)」

 凄まじい剣幕で怒鳴ってる生活指導を前にして、勅使河原さんも一歩も引かない。

「ウッザ! マジうぜぇし髪は地毛だしさっきから胸元見てるのバレバレでキモキモキモキモ…(以下略)」

 朝っぱらからなーにをヤッてるんだと、内心苦笑しながら校舎に入ろうとすると「おっ! オタクぅ~おっはー!!」と、勅使河原さんが生活指導を振り切って僕の方へと駆け寄って来た。なんだコイツ朝からくっそ可愛いギャルだなオイ。

「おはよう勅使河原さん」

「オタクッ! 私決めたぜっ!! あのキャラのまま構成を変えて強くなりたいんだ……今夜も付き合ってくれよな」

 おおっ! 朝一でその報告はやる気を感じられる。いい傾向といったところか。内心喜んでいたが、今夜も付き合ってくれの部分が生活指導の耳に入り、あらぬ誤解を招いて僕まで巻き添えで生徒指導室に連行されたのは言うまでもなかった。

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