電脳闘争録

気に喰わないヤツらは全員潰す
ジブリ神
ジブリ神

十話

公開日時: 2021年7月22日(木) 18:30
文字数:2,568

「え? どういう事……ゲームを止めろって」

 楽しく美味しい夕ご飯の時間が、一気に氷点下の如く気温が下がっていくのを肌で感じ取れた。いつになく真剣な表情の母親を前にして、僕は箸を動かすのを止めた。

「お父さんとも話し合ったんだけど、最近ひー(響はお母さんからひーと呼ばれています)が楽しそうにゲームしてるのは分かるんだけど…その、今プレイしてるのは、最近ニュースで話題になっているやつなんでしょ?」

 突然死の事かと納得は出来たし、当然親の視点から鑑みるに妥当な判断と言わざるを得ない……んだけど、そう言われてハイそうですか止めますとは簡単に言えない事情がコッチにもある。

「ひーも来年は進路の事もあるし、そろそろ進学か就職か決めて準備しておかないと…」

 お母さんの言う事は百理ある。誰がなんと言おうと正しい事を言っているのは理解できるし、そういう事を今まで一切相談せずゲームをひたすらやり込んでいた負債がまとめて降りかかってきている状況だろう。

「あっ、あのさ…母さん。今までそういう事を相談せずゲームばっかりしてた僕が悪いのは百も承知なんだけど、せめて進路と平行してやるって言うのは、駄目かな?」

「あまり関心はしないわね。お父さんが聞いてたらふざけるな! って怒られてるわよ」

 うーん、やっぱりそうなるよなぁ…どうすれば納得してもらえるんだろうか。

「ひーがそのゲームのなんとかって大会で一番になるくらい真剣に打ち込んでるのもわかるし、前まで全国で一番すごい人だったって言うのもお母さんわかるわ。けどね、それで将来ゲームで食べて安定した収入が得られて生きていけるって言うのなら、お父さんもお母さんもゲームを止めろなんて言わない。せめて、進路は進路。趣味は趣味で分けて考えなさい」

 ぐう正論で、何も言い返せず今夜のおかずの唐揚げを頬張るが、この状況で味なんて感じるわけがなかった。

 脳内にあの作品の某すませばの家族会議のシーンが浮かび上がる。あの時主人公は、どうやってこの場を切り抜けていたか頭を必死にフル回転させるが、最終的に本人の意思を信頼して、尊重し、見守る事に決めたとても理解力のある両親だったから何とかなった訳で、止めろと最終勧告を突き付けられているこの状況では、どうあがいてもあの作品と同じ結果にはならない。

「ただいま」

 父さんも帰って来た。これは、いよいよ逃げ場が無くなる最悪のパターンになるかもしれない。

「あなた…今、ひーと今後の事で話してたんだけど」

「わかった。ついでに夕飯もいただくよ」

 そう言って、スーツの上着とネクタイをクローゼットのハンガーラックにかけて、席に着いた。

 父さんの無言の圧力がこの場を支配するが、こんな沈黙に耐えられる訳が無く、僕は口を開いた。

「あの、さ。いま僕にはどうしてもゲームをしなきゃいけない理由があるんだけど、聞いてくれる?」

 父さんも母さんも無言で頷き、僕が喋り出すのを黙って待っていてくれるのだが、果たしてうまいくいくかどうか…

「ぼくには、好きな女性がいるんです」

 今まで浮かれた話が一切全くこれっぽっちも無いキモオタゲーマーのカミングアウトによって、これに父さんはむむっと渋い顔をするし、母さんはまあ~と、若干嬉しそうに表情を緩めた。

「その人と毎日ゲームをしてたんだけど、実は心臓の病気になっちゃって、ゲームが出来なくなっちゃたんだ。それで…」

「あら? ひょっとしてその子松谷さんとこの娘さんじゃない? あらあらあの子ね~…なんだか今大変みたいじゃないの。あなた、あそこのおとうさん大企業の重役で…」

「おおっ、松谷さんってあの…」

 これは、イケんのか? どうだ? 馬鹿野郎イクしかねぇんだよ。ゲーム禁止なんて事になってみろ…そこでこの小説最終話迎えて完結してしまうぞ。キモオタゲーマーがただ大袈裟にゲームするだけの小説からゲーム要素抜いたら何も残らないんだよ死ぬ気で押せ。

「松谷さんは、ゲームができないから、その分僕が必死にプレイして、プレイを通して彼女を勇気付けてあげたいんだ。彼女は、僕を信じてると言ってくれた。だから、僕もそれに全力で応えたい」

「ふうむ、よく話が見えて来ないが…これは、母さんアレだな。当事者同士でしかわからん世界での出来事か?」

「思春期ですもの、色々あるわよぉ~…そんな事言ったら、私とあなたが出会ったのも高校時代の~(以下略)」

「そうだったか…いやぁ~あの時の母さんは~(以下略」)」

 ふぅ、なんとか誤魔化せたか? 嘘は言ってないから…それに、下手したら死ぬなんて口が裂けても言えないし、親目線なら心配して絶対止めるよな…ヨシ、あとはさり気なく部屋に戻れば…

「響、待ちなさい」

 げげげげげっ!? ずっとのろけててくれよ父さん。

「父さんも母さんも、お前の気持ちは分からなくも無いし、私たちも若い頃に似たような経験があるから多少は目を瞑るが、もしゲームにうつつを抜かして、留年や進路が滅茶苦茶になっても、それはお前自身の責任だ。誰のものでもない、お前の人生なのだから良く考えなさい」

「うん、わかってる。ありがとう…頑張るよ」

 足早に居間を去り、トイレを済ませて自室に戻る。

 奪命システム実装の死亡遊戯はいいけど、どっかのVRMMOみたいにログアウトできなくなったり、ノルマを課して強制的にINさせようとする鬼畜システムが無い分、まだこっちの方がマシだな。さーて、戻ったら裏世界を探索しつつ出待ちしてきた連中の領地を根こそぎ炎上させてあのエリア放流させるか。

 ・放流(その場所を縄張りにして活動しているチームメンバーを壊滅させて、新規開拓者に見つかるか別のチームに発見してもらって、新しい領地にする事を放流と言う)

 自室の扉に手をかけた瞬間だった。攻撃を喰らって、体力が減る音がヘッドセットから漏れて聞こえるのだ。

「うわああああああああ!! いつものノリで放置してしまった!!! やべえ、死ぬ。ダメ、死んじゃう!!」

 長い事ゲノムをプレイしているが、恐らく今までで一番焦った瞬間だったし、なんなら普通に泣いた。

 少しだけ席を離れたタイミングで闇霊さん侵入してコンニチワならソウルをロストするだけでいいが、裏世界においてはリアルに魂がロストしてしまう。こんなアホのような人生の終焉はごめんだったので、急いで部屋に突入してパッドを握った。

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